第四章:クロノの依頼と始高天

第23話:冒険者+5:クロノのギルドへ

 あれから二週間が経った。

 その間は騎士団を始め、各ギルドは王の名の下に残党狩りを行い『骸の贄』を徹底的に終わらせる事に尽力していた。


 勿論、そんな日々を私も送っていた。

 デーモンゴーレムが消滅した事で、負のマナも枯渇したのかダンジョン化が消えたアジトからの他の拠点の情報も多く入手している。


 だから、その拠点への摘発、関係者や関係ギルドの徹底調査。

 周りは私に休めと言っていたが、半端な仕事はしたくない。

 

 最後まで付き合うさ。


 だがジャックは素早く帰ってしまった。

 この情報を広める事が自身の本業だと言って。 


 ただ実際の貢献者達は、残った三大裏ギルドの二つだろう。

 騎士団やギルドへ、彼等は残党の情報を提供。逃げ場所、王都以外の拠点のある街まで教えてくれたと聞く。


『信用してはいけませんよルイス殿。どうせ、後で見返りを求めるに決まっています』


 彼等の行動に対し、エリアがそんな事を言っていたが同感だ。

 気まぐれかも知れないが、やはり裏があると思った方が安心できる。


 そんなこんなで、ようやく落ち着いた頃、私も流石に休んだ。

 騎士団から提供された一軒家――王都での私の拠点で。


♦♦♦♦♦♦


「……やる事がない」


 一人で住むには大きすぎる拠点、そのテーブルの前にある椅子に座りながら私はそう呟いてしまう。

 

 顔を洗い、朝食を食べ、今の様にコーヒーを飲んでいるが駄目だ。

 まだ二日目の休みなのに、休む事で身体が疲れている。


 いや、原因はそれだけじゃないな。

 三日前にクロノやミア達が、他の弟子も呼んだ宴に参加したのもあるな。


 それ自体は楽しかった。皆、手紙で聞いていた以上に立派になって誇りに思えたよ。

 ただ、そんな彼等を見て、色々な現状の話を聞いて、私は心が燃えてしまったのだろう。


「ダンジョンに行ってみるか……」


 ギルドとの抗争、ダンジョン化とかいう変な騒動も、対処はそもそも冒険者の仕事じゃないからね。

 普通にダンジョンに潜って様子を見たり、依頼を受けたり、取り敢えず冒険者として何かしたい。


 身体は悲鳴をあげているのに、そんな事を思うとは。

 これが職業病か。


 騎士団へのダンジョンへの講習とかも、今は残党処理で忙しく無理になったし。

 さてどうするか。 


 そう思っていた私だったが、不意にテーブルに置かれているギルドのが目に入った。

 入場証は各ギルドが許可した冒険者に渡しているものだ。

 これがあると、そのギルドで依頼が受けられる。 


 その入場証には『黒い月を舞う鳥』が描かれている。

 そうこれは、クロノのギルド『黒の園』のギルド紋だ。


「……行ってみるか」


 宴の時、クロノが来て欲しいからと置いて行ったものだ。

 クロノだけじゃない。少し目線をずらすと、山の様になっている入場証。

 他の弟子も自分も自分もと置いて行った物。


「皆の下にも行ってあげないとね」


 だが最初はクロノだ。

 人手不足とも言っていたが、本人的には自分のギルドを見て欲しいという気持ちの方が伝わって来た。


 それに暗殺ギルドとの件もあって、依頼どころじゃなかった筈だ。

 ちょっとした依頼なら私で手伝える筈だ。


「良し! 行ってみるか……エミック! 準備してくれ」


『~~♪』


 お出掛けと思っているのか、エミックは嬉しそうにベッドで跳ねている。

 すぐにダンジョンの可能性もあるし、念入りに準備だけはしていくか。


 私は装備やアイテムを整えると、エミックは腰に付けて拠点を出て行った。


♦♦♦♦♦♦


 そのギルド『黒の園』は大通りの一角に存在していた。

 豪華な装飾、入口の門番達。それらを踏まえても目に止まる存在感だ。


 一見、どこかの富豪の豪邸と思ってしまったよ。


 きっと余所のギルドに嘗められない為だろうが、これは目立つな。

 だが、ここで帰るのもあれだ。私は門番に入場証を見せると、門番は何故か頷き合っている。


「どうぞ。ギルド長がお待ちです」


「えっ、あぁ、ありがとう」


 そう言って私は簡単に通されるが、初見の人間を疑わないとは。

 確かに入場証が少し豪華だから特別感はあるが、まさか特別仕様じゃないよな?


 私は自分の立場が分からなくなり、少し困惑しながらも中へと入る。

 すると中は意外と普通なギルドの受付だ。ちょっと安心。


 私は受付へ歩きながら周囲を見てみると、所属している者や、どうやらフリーの冒険者もいる様だ。

 依頼に関して話し合っている者や、初見の私に気付いて見て来る者もいる。 

 

 少し挙動不審だったかな。


 私はそう思いながら受付の女性に入場証を見せる。


「すいません。今すぐ受けられる依頼はありますか?」


「はい。少々お待ちくだ――っ! 大変失礼いたしました。こちらへどうぞ」


「えっ……あっはい」


 なんだ本当に。入場証を見せたら受付女性の態度が更に礼儀正しくなったぞ。

 これ本当にただの入場証なのか、分からないぞ。


 私は困惑が続きながら彼女に案内され、ギルドの通路を案内され、階段をあがる。

 そしてまた通路を歩き、やがて一つの部屋の前で止まった。


「こちらがギルド長の執務室になります。今は席を外しておりますが、中に通す事も許可されてますので」


「そうか、それはありがとう。クロノはやっぱり忙しいみたいだね」


「っ! ギルド長を……呼び捨てに出来るなんて。――あ、あの失礼なのですが本当にギルド長の御師匠様――ルイス様、なんでしょうか!」


「私は弟子じゃなく、少し冒険者として色々と教えただけなんだが、クロノはそんな私を師匠と呼んでくれる。ありがたい事だよ」


「ほ、本当だったんだ噂は……」


 小さい独り言でも聞こえてるよ。一体どんな噂があるんだ。

 何やら彼女は驚いている様だが、駄目だ予想できなくて怖い。


「取り敢えず、入っても良いのかい?」


「えっ! あっ、申し訳ありません! どうぞ……!」


 私は危険人物なのか。取り扱いを注意する爆弾みたいな感じがするよ。

 

 心配になりながら私は取り敢えず入って見ると、中は普通な広さだ。

 ただ壁に何やら素材みたいなのが飾られていて、反対側には大量の本が揃っている。


 しかし本はクロノらしいが、こっちの素材みたいなのは、なんだろうか。

 気になってショーケースに入った棚に近付いて見ると、私はそれを見て気付いた。


「あれ……これは」


 間違いない。どれも私がクロノに手紙のついでに送った素材ばかりだ。

 この赤い結晶は『マグマ竜の炎水晶』だし、こっちの大きなエメラルドの盾みたいなのは『エメラルドドラゴンの鱗』だ。

 

 他にも沢山ある。『プラチナゴーレムのコア』に『アビスシャークの宝玉』とかもだ。

 全部、私が送った物だ。せめてもの資金にと、お金になる物を送ってあげていたが全て飾ってくれていたなんて。


「ギルド長……いつも、その棚の物を嬉しそうに眺めているんですよ?」


 女性は、そう言ってお茶を持って来てくれて私も反射的に受け取ってしまうが、それよりも話を聞きたい。


「クロノが、かい?」


「はい。これら全て、ルイス様が送って来て下さっているのですよね?」


「あぁ、私の様な者を師と呼んでくれる彼等に、何か出来るかと思うと……これぐらいしか出来なくてね。せめて、彼等の資金にと思っていたが飾っているとは」


「ギルド長は売るつもりはないようですよ。前に、有名なギルドの商人様が交渉しておられましたが、全て断っておられました。これは大事な物だから……と」


 全く律儀だなクロノは。

 それか深く考えているのか。別に売ってもらう為に送ったんだから気にしないぞ。


「売ってもらう為に送ったんだが、気を遣わせたか……」


 そう言って私はお茶を飲むと、隣から女性は首を振っていた。


「いいえ……ギルド長は、それを見てに。そして嬉しそうにして見ていらっしゃいます」


「懐かしそうに……か。だが嬉しそうにってのは何でだい?」


 懐かしそうなのは、何となく分かる。

 手紙でデスクワークや商談ばかりで、ダンジョンが恋しいと冗談で書かれていたが、本心もあるのだろう。


 だが嬉しそうなのは分からないな。

 こんな趣味でもなかった筈だ。


「ギルド長は、よく仰ってました。これを見ると師匠せんせいが今も冒険をしているんだと分かり、そしてどんな冒険をしているのか想像するのが楽しみなんだと」


 そう言う事か。少し心配を掛けていたのも知れないな。

 手紙でよく身体の不調や、引退を匂わす言葉を書いていたが、クロノは――いや他の弟子も心配しているのかも知れない。


 宴の時、道理で私がまだまだ現役だと持ち上げる筈だ。

 クロノも、すぐに私の下に来てくれたしな。


「余計な心配をさせてしまったか……本当にクロノは――弟子達は、私には過ぎたる者達ばかりだ」


「それ、ギルド長の仰ってましたよ。師匠は、私なんかには過ぎたる存在だと」


 そういってクスクスと笑う彼女の姿を見て、私は敵わない気がして一緒に笑った。

 流石はクロノのギルドだ。皆、優秀だな。

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