第26話:冒険者+5:蹂躙! 大魔法!

 魔物達が一斉に牙を剥いた。

 他種族で、中には群れで狩りをしない個体もいるが、そんな事は後回しだ。


「まずは空を獲るぞ! 早速、使わせてもらう!」 


 私はそう叫んで空へガントレット・ブレードを掲げた。

 今の私のレベルは、レイのレベル<60>から+5だ。つまり<65>だ。

 魔力も本来より跳ね上がり、これで新たな力の本領が発揮される。


 私がガントレット・ブレードへ魔力を込めると、魔剣と合成した事で手に入った『重力魔法』が発動する。

 そして脳裏に過る魔法の数々。これが魔剣というものなのか。


「降れ! 抗えぬ世の重圧――<グラース・グラビウス!!>」


 私が詠唱し、脳裏に過った魔法を唱えると、空全体に広範囲の重力場が生まれる。

 そして空を支配していたスカイヘッドの大群が、一斉に地面へと落ち、他の魔物も巻き込んで地面へとめり込んで行く。


「おぉ……先生、いつの間にそんな魔法を覚えたの?」


「凄い……やはりルイス殿は魔導士として、確かな能力がある」


 すまないエリア。これはレベル上昇による、魔力の増加によるゴリ押しなんだ。

 普段だと、ここまで出来ないんだよ。


 だがこれで私の前方の魔物達は一気に倒せたぞ。

 私は二人へ次の指示を出そうとした時だった。


 不意に地面から巨大な大樹が現れる。


『ウオォォォ~ン!!』


「デカイ!」


 なんだこの喜怒大樹は! 今倒した物よりも大きいし、しかも地面に潜っていたとは。

 ここは炎魔法で―― 

――そう思った私だが、背後から誰かが走ってくる気配を感じて振り向いた。

 

 そこには剣に光属性を付与したエリアの姿があり、私は彼女の意図を察した。


「ルイス殿!」


「良し! 私を踏み台にしろ!」


 私の言葉に私は少しかがみ、そこへエリアが私の背を踏んで高く飛んだ。


「これが――騎士団副団長の力だぁぁ!!」


 高く飛んだエリアは、私の目の前で剣を喜怒大樹へと振り下ろし、そのまま一刀両断にする。

 凄いな。明らかに初めて会った時よりも腕を上げている。

 レベルもスキルも、更に上がっている筈だ。


「流石だエリア!」


「はい! しかし、まだ数がいます」


 エリアの言う通りだ。

 少し余裕が出来たが、今度はシャドウガルム達が、牙に魔力を込めて群れで突っ込んできた。

 きっとフェイントも入れて来る筈だ。


「全く、数だけは多いな! ならもう一度、魔法で――」


「先生は下がってて……魔法なら、わたしの出番」 


 そう言って私の後ろから、マイペースに歩いて来るレイが。

 だが口調はマイペースだが、レイの肉体からは魔力が溢れ出ている。

 マズイ、デカイのを撃つ気だ。


「下がるぞエリア!」


「えっ! えぇ! ルイス殿! 大胆です!!」


 私はレイの邪魔になると思い、目の前のエリアを片手で抱きしめて後ろへ飛んだ。

 エリアからお𠮟りを言われたが、すまない。それは後で。

 あの子の――レイの魔法は


『ガアァァァァ!!』


 シャドウガルムの群れが迫る中、レイは詠唱もせずに棒立ちで杖をただ向けるだけ。

 だが、そう思った瞬間――


「――ヘル・ボルケーノ」


 レイが唱えたと同時に黒炎の竜巻が目の前に現れ、周囲の魔物を巻き込んだ。

 まさに蹂躙だ。だが、このレベルの魔法を詠唱無しでやるとは。

 分かっていたが、昔の比じゃない速さだ。


 レイも、しっかりと腕を上げていた様で安心だ。

 抱いているエリアも、レイの魔法に驚いて目を丸くしているよ。


「なんとレイ殿……これほどの上級魔法を詠唱無しでとは」


「違う、これは上級魔法じゃない。――


「なっ!」


 最上級魔法を詠唱無しで放ったのか!?

 寧ろどうやるんだ、そんなこと。その気なら街一つを滅ぼせる威力の魔法だぞ。

 教えてもらいたいとか、そんなレベルじゃない。

 私には無理だと、本能が言っているくらいに常人には出来ない事だ。


「あっ……少し逃がした。――剛岩万力ごうがんまんりき


 運よく逃げられた魔物もレイは見逃していない。

 ヘル・ボルケーノを維持したまま、離れた場所に巨大な岩坂を魔物達の両端に生やし、そのまま押し潰した。


 我が弟子ながら恐ろしい才能だ。


「大したものだなレイ。成長してくれ嬉しいよ」


「ふふ~ん!」


 背中だけしか見えてないが、きっと凄いドヤ顔をしているんだろうな。

 だがこれで楽になった。


「後は残った魔物を倒すぞ! 逃げるのは放って置け!」


「了解!」


「いいよ~」


 そして私達はそれぞれの武器や魔法を使い、残った魔物を倒していった。

 私はブレードに重力魔法を纏わせると、ブレードに重さは感じず、魔物へ近付けただけで魔物は地面へ潰されたり、弾かれて吹き飛んだ。


「これは難しい力だ……流石は魔剣か」


 扱いが難しいのは当然だ。

 だから魔剣なんだが、よく考えると、合成した事で私のガントレット・ブレードも魔剣になったのか?


 なんか複雑だけど、まぁ良い。もう少しで終わる。


 私達が魔物を倒し、安全を確保できたのは、それから僅か数分の事だった。

 

♦♦♦♦♦♦


 最初に私達を囲んでいた魔物達を倒し終えると、私達は一息入れるよりもすぐに疑問の解消を行おうとしていた。


「おかしい……シャドウガルムはともかく、他の魔物達は群れで狩りはしない。そもそも、連中はこんなダンジョンの序盤に生息していないぞ」


「それに空腹みたい……」


 レイはまだ五体満足な魔物の死体を見て、お腹が凹んでいる事に気付いた様だ。

 だが何故だ。もしそうなら餌が食えない理由があるのか?


「一体、どういう事でしょう……このボス魔物はどういった魔物なんですか?」


「ガリアン森林のボス魔物は六本の腕を持つ<アスラコング>だ。レベルは<45>だよ」


「なら、よゆ~う! 見に行こう!」


 そう言ってレイはピクニック気分でガリアン森林の奥に行ってしまうが、怖いもの知らずに育ったなぁ。

 だが、それが一番の解決策だ。私とエリアもレイと共に奥へと進んで行った。


♦♦♦♦♦♦


 森林へと入った私達だったが、そこは以前来た時とは違う別世界だった。

 森林の木々は折れ、魔物の死体や血痕。爪痕も生々しく残っている。

 来たのは三年前ぐらいだが、こんな光景は知らないぞ。


「なんだこれは……見覚えのない爪痕だぞ? シャドウガルムよりも大きく、アスラコングとも違う」


「しかし、奥に行けば行くほどに酷くなっております。やはり原因は最奥……」


「行けば分かるぅ~」


 今はレイのマイペースに救われるよ。

 何が起きたか想像だけで嫌な予感ばかりで、気分が沈んでしまうからね。


「そうだな……それに、もう見えてる。あの川のある場所が最奥で、アスラコングの……住処……の筈……」


 私は徐々に見えて来た光景に、言葉を失っていく。

 川の広場は確かにあった。

 しかし、その川は真っ赤に血で染まっていた。


 川の上で倒れる巨体――アスラコングの死体によって。


「ボス魔物が死んでいるだと!」


 エリアが叫び、レイも考える様に黙っている。

 気持ちは分かるさ。あの大きさはデーモンゴーレムより、若干小さいぐらいの巨体がズタズタにされているんだからな。


「どういう事だ……このダンジョンで何が起こったんだ?」


 私は静かにアスラコングへ近付いた時だった。

 不意に、赤く染まった川から喉を鳴らす音が聞こえた気がした。


――そんな馬鹿な。


 私が聞いた音が確かならば、間違いない。

 この血で染まった川の水をがいる。


「誰だ……?」


「ゴクッ……ゴクッ……ぷはぁ……あぁ?」


 私は思わず血の気が引いた。同時に胃から込み上げてくる物も必死で呑み込んだ。

 そこには確かにいたからだ。血の川を飲んでいる人間が。


 よく図書館にある古い本。それに描かれている古代文字が刻まれたフードを纏った人間。

 初対面だと思うが、間違いなく正気じゃない。


「おぉ……新しい獲物が来たか。このゴリラも呆気なかったからよぉ」 


「……君は誰だ?」


「俺か? 俺は……『始高天』の一角――」


 そう言って男はフードを取った。


『<狂神きょうじんのディオ>だ。助かるねぇ……渇いてたんだぁ』


 そう言って顔に古代文字の刺青のあるディオは、渇いて血が固まった剣を私へ向けた。

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