いつか晴れる花の空
佐倉 美汐
プロローグ いつか青空の下
どこまでも晴れ渡った、高く、遠く、青い空が広がっていた。
踏みしめた地面には、淡い色の花が咲いている。踏んでしまわないように気を付けながら、小さな足が駆けていく。
「——お父さん!」
広い背中が振り返った。その向こうには、きらきらと光で塗りつぶしたように輝く水面が広がっている。空に伸びるように広がる水溜まりを、湖というのだと以前父に教えてもらった。
その父の隣に、知らない大人がいた。男の人だ。足を止めてきょとんと父を見上げた。
「だぁれ?」
膝を折って目線を合わせながら、父がゆるりと笑う。頭を撫でてくれる大きな手がうれしくて、くふくふと笑った。
「お父さんの友達だよ。……そうだ、紹介しよう」
す、と動いた父の視線を追って、男の人を見遣る。優しそうな人だな、と思った。穏やかな眼差しを自分の足元へと向けている。滲むような笑みの先には、同じ年くらいの男の子がいた。
一目見て、友達になりたいと思った。
父親の影に隠れるように立っていたその子どもは、見られていることに気が付くと、怯えるように身を竦ませてしまった。思っていなかった反応に目を瞬かせると、父の困ったような声が降って来た。
「あの子は——」
父はとても痛そうな表情をしていた。怪我をしているのかと伸ばした手を、大きな手が包み込んだ。
「……友達に、なってくれるかな?」
うん、と頷いた。
「友達になりたい」
大きな手が、背中を押した。行っておいで、と促す優しい声。
導かれるように歩き出す。
そして。
そして。
その、結末は。
——この時のことを、何度も何度も、思い出す。
胸を衝く懐かしさと、ぬぐい切れない後悔と共に。何度も、何度も。
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