第24話、彼女の笑顔を取り戻す、絶対に①【魔術師サイド】


(……取り戻せる事が、出来るのだろうか?)


 キーファは、傷だらけの彼女の姿を見て絶望としかなかった。

 これからどのように彼女に接すれば良いのかすらわからないほど、アルフィナと言う存在は、嘗ての姿を想像させられなかった。

 許せなくて、我慢できなくて。

 だからこそ、キーファはあの二人に生き地獄を味わってもらおうと思ったのに、予想外の【魔王】が出てきてしまった。


 とりあえず、聖王国から抜け出して、アルフィナのこれからの事を考えた。


 聖女、サルサは間違いなく目を覚ましたころに『復讐』と言う言葉を頭の中に浮かべるのは目に見えている。

 だからこそ、これからどこに逃げるか――考えた末の言葉だった。


 瘴気が溜まってしまった、自分たちの『故郷』に逃げ込んでしまえばいいと。


 キーファたちが暮らしていた故郷は既に滅びてしまっている。

 近くにダンジョンが出来てしまった事と、そのせいでスタンビートが起きてしまい、魔物たちに村人の人たち全員殺されてしまったと言う真実。

 キーファの家族も犠牲になった。

 今となってはあの場所は魔物しか住んでない場所なのだが、その場所ならば普通の人間なら入り込もうとしないだろう。だから、逃亡生活にはそこはうってつけの場所なのだ。

 キーファの提案に、アルフィナは乗った。

 これからどうすれば良いのか考えなければならなくなった。


『――それでは今回の議題は勇者であるアルフィナ様の件でございますでしょうか、魔王様』


 通信機の画面から綺麗な青い瞳に、銀色の長髪の髪をした男がルキに向かって一礼している。執事のような恰好をしている彼に、ルキは頷いた。


「ああ、城を任せてすまないな、ギリュー」

『いえ、勇者様の件でございましたら致し方ありません。しかし……まさか罪人にされていたとは、驚きました』

「助けたのはよろしかったのですが、どうやら身体、中も全て暴行されていたらしく……傷は治せても、心は治せません」

『そうでしょうね……プラム、引き続きキーファ様と共に彼女の傍についてあげてください』

「承知いたしました、お兄様」


 ギリューと呼ばれている男は魔王軍四天王の一人であり、同時に魔王であるルキの右腕と言われている存在。ルキが信頼している人物だと言っても良い。

 そんなギリューはプラムの実の兄なのだから驚きだ。


「……相変わらずギリューさん、イケメンだねぇ」

『ほめてくださり嬉しいですよキーファ様』

「あはは、お世辞だと思ってよ、ギリューさん!」

『……本来ならば私もキーファ様と共にアルフィナ様にお仕えしたいものですが、流石にこの男に城を任せるわけにはいかないので……うらやましい』

「……ギリュー、お前本当にキーファが好きだな」


 小さな声で『うらやましい』言っていたギリューに少し呆れながら答えるルキに、キーファは笑う事しかできない。

 実の所、魔人でありつつ、魔王軍四天王であるこのギリューに交際を申し込まれている状態であり、何回も断っているのだが、諦めるつもりはないらしい。


「お兄様、そのうちストーカーになりそうですね」

「……勝てる気しないわ」


 プラムの言葉に、思わず引きながらそのように答えるキーファであったが、彼女の言う通り、ギリューが力を振舞ったら間違いなくキーファは負けると確信している。それほど強い相手なのだ。

 ははっと笑うキーファに対し、ルキは少し意地悪そうな顔をしながらキーファに発言をする。


「キーファ、僕は別に部下が友人とくっつくのは別に構わないよ?」

「何悪い顔してるのよルキ……今の私は恋より友人。私はアルフィナを取るわ。それなら言うけど、いつになったらアルフィナに思いを伝える事が出来るんでしょーねールキくーん?」

「う、うるさいなもう!」


 自分の事を言われて驚いたのか、アルフィナの名前を出すと顔を真っ赤にしたルキは視線を逸らす。

 昔から、アルフィナに恋心を抱いているルキの想いは未だにかなえられない状態である。そもそもこれからその想いが届くのか、わからないが。

 キーファは一度、寝ているアルフィナに目を向ける。

 表情は変わらず、彼女は穏やかに眠っているようにも見えるが――そんなアルフィナを見ながら唇を噛みしめる。


「……ちゃんと、あの二人に気づいていたら、アルフィナは傷つく事なくて……隣で笑っていたんだろうか?」

「キーファ様」

「……キーファ、今回の事は君だけのせいじゃない……僕だって気づく事が出来なかったんだ。キーファだけのせいじゃないよ」

「でもルキ……君はあの戦いで眠りについていたんだ……隣国に行っていたとしても、ちゃんと気づくべきだったんだ。アルフィナの傍を離れる事をしなければよかったんだ」

「キーファ……」


 今でも、キーファは罪悪感がある。

 もっと魔術を学びたい、隣国で勉強したいと言ったのもキーファだ。それを温かく、背中を教えてくれたのは親友であるアルフィナだった。

 しかし、何度も考える。ちゃんと彼女の傍にいれば、奪われることがなかったのではないだろうか、と。


「――だからこそ、奴らの事は許せないし、これからもちゃんと彼女の傍に居なければいけないんだ」


 変わり果ててしまった彼女の為に、傍に居なければいけない。

 それまではキーファは勉強も、恋も、何もかも全てやめて、彼女の傍に居ようと決心したのである。

 拳を握りしめながら覚悟を決めているキーファの姿を、幼馴染のルキは静かに笑いながら見つめていたのだった。



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