第11話、汚れた手は、二度と治らない①

 罪人となって、色々あった。

 殴る、蹴るの暴行を加えられる事があった。別にそれは耐えられる事が出来た。

 しかし、その時まで自分が女として生まれてきたことは後悔してしまう事が起きた。

 ただの暴行だと飽きたらなかったのか、今度は男たちにあのような穢れる行為を行ってきたのだ。

 サルサはただ、笑っているだけだった。

 いい気味だという顔をしながら、笑うだけだった。

 未だにそれだけは、許す事は出来ない。


 アルフィナは自分の手を静かに見つけたあと、顔に手をおいた。

 まるで自分自身が汚らしい存在のように感じてしまい、思い出すだけで気持ち悪くなる。

 しかし、そんな事を思っていたとしても、今のアルフィナには憎しみも怒りも、そして悲しみも感じない。本当に何も感じないのだ。


(『勇者アル』はもう死んだんだな。今いるのは、ただのか弱い、アルフィナだ)


 アルフィナはそのように感じながら、静かに拳を握りしめる。

 その拳を地面に叩きつけてやろうかと思ったのだが、それを静止したのが近くに居たプラムだった。


「アル様、それはいけません」

「……ただ、地面を叩くだけだよ?」

「アル様の……アルフィナ様の手が傷つくだけです。おやめください。キーファ様と、ルキ様もそのようなことは望んでおりません」

「……そういえば、キーファは、どこに行ったの?」


 確か、助けに来たときは必ず居たはずなのに、キーファの姿が全くない。

 彼女はどこへ行ったのだろうかと首を傾げていると、プラムは一瞬、言って良いのだろうかと言う顔を少しだけしたあと、静かに頷いて発言する。


「【聖女】と【聖騎士】と呼ばれている奴らをボッコボコにしてくると楽しそうに笑っておりました」

「……ああ、ボッコボコ」

「はい、ボッコボコです」

「……サルサたち、生きていられるかな」


 幼馴染だからこそ、理解出来ている。

 その言葉を聞くのは一年ぶりだなと思いつつ、同時にその言葉を出すという事は相当キーファは二人に対し、怒りをあらわにしていると言う事だろう。

 しかし、二人がどのような目にあったとしても、全く何も感じない。


(……ぽっかり、空いてしまったかのようだな)


 何かが足りない、そんな感じを覚えながら、アルフィナは胸に手を当てた時だった。

 突然別の『魔力』を感じたので振り向いてみると、そこには赤い髪をなびかせながらゆっくりと姿を見せた人物に、目を見開いた。

 目の前にいる人物は、かつて対峙した相手であり、協力者でもある。


「こんばんわ、勇者アル様」

「……カナリアさん?」

「ええ、あなたを崇拝しているカナリアでございます……わ……」


 笑顔でアルフィナの前にたった魔王軍四天王が一人、カナリアはアルフィナの顔を見た瞬間、その場で硬直する。

 突然動きを止めてしまったカナリアに思わず首を傾げてしまったアルフィナだったが、カナリアはそのまま口に手を当てたあと、ゆっくりとプラムに視線を向ける。

 プラムに目を向けるのは明らかに先程の笑顔のカナリアではない。

 そのままプラムの両肩を鷲掴みにしながら唇を噛みしめるように叫ぶ。


「ちょ、ぷ、プラム!あ、あなた……あ、あの、私が知っている美しいあの勇者様は……だ、誰が、あ、あんな姿に……っ!」

「やはりあなたならそのような顔をすると思いました。もちろん、『聖女』が中心になって行ったに決まっているじゃないですか。私怨で」

「……やっぱり、魔王様が手を出す前に殺しておくべきだったかしら」

「そんな事をしてしまったら、魔王様に怒られるのはカナリア」

「ああああああ、ゆ、勇者様……酷い、酷すぎる……このようなお姿になるまで気づかなくて、本当に申し訳ございません!い、痛くはありませんか?なにかございましたらこのカナリアに申してください!!」


 涙目で必死にそのように答えるカナリアにアルフィナは少しだけ安心感というものを感じてしまった。


 魔王軍四天王が一人、カナリアは昔からこのように積極的だった。

 協力者という事で色々と協力してくれたこともあったり、そしてどこを気に入ったのかわからないが、カナリアは勇者を崇拝するかのように掲げていた。魔王のルキと同じように。


 カナリアはそのままアルフィナの手を強く握りしめるようにしながら涙目になっている。

 ふと、自分の手が握られていることに気づいたアルフィナは無意識にカナリアの手を振り払ってしまった。


「あ……」

「え……勇者様?」


 突然振り払われたことに驚いた顔をしているカナリアに、アルフィナの顔は変わらず、人形のように無表情だった。

 しかし、彼女の目には微かに戸惑い、というものが見受けられたのをプラムは見逃さなかった。

 

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