第36話、彼女は既にあの頃の彼女ではない。【魔術師サイド】


「聖女サルサの件ですが、幽閉されたらしいですね」


 プラムが片づけを行っていると、ふと何かを思い出したかのように発言する。

 キーファはアルフィナが聞いていないか一度確認すると、紅茶を飲みながら窓の外に視線を向けていたので、どうやら耳を傾けていない事を確認し、キーファは立ち上がる。


「プラム、その話は私の部屋で」

「……承知いたしました」

「うん……アルフィナ、私ちょっと奥に居るから何かあったら声かけてくれる?」

「ああ、わかった」


 アルフィナはキーファに目を向けて頷いた後、再度同じ場所に視線を戻し、窓の外を見つめている。

 彼女の行動を見つめた後、プラムの背中を押すようにしながら、キーファの部屋に向かって動く。

 プラムをキーファの部屋に誘導し、扉を閉めると、プラムは嫌そうな顔をしながらキーファの顔ではなく、キーファが作った壁の穴に目を向けている。


「先ほど聞きましたが、派手にやりましたねキーファ様」

「あはは、ごめんねー」


 笑いながら答えるキーファに少しだけ苛立ちを見せているプラムにため息を吐きながら、どのような状況なのか、穴を確認しているプラムに対し、近くの椅子に座りながらキーファは問いかける。


「因みにサルサの件、誰から聞いたの?」

「魔王様……ルキ様から昨日の夜ご連絡をいただきました。どうやら以前キーファ様がお話した第一王子……フィリス王太子とご連絡を取っているみたいで」

「うん、それは驚いた。ルキから『数日だけ側近のフリをしてた』って聞いたから」

「それから仲良くしてくださっているらしく、先日そのような連絡をいただいたと」

「そっか……フィリス様、アルフィナの為に本当に動いてくれているんだなぁ。私はてっきり戦争しかけると思っていたけど……」

「それはルキ様が止めたらしいです……キーファ様、フィリス王太子の性格知っててルキ様にお話したのでは?」

「まぁねー」

(アルフィナはフィリス様の性格気が付かなかったらしいけど、私は気づいちゃったからなぁー猫被ってるって)


 魔王討伐の旅の途中で王位継承と言うきな臭い事件に巻き込まれ、フィリスを助けたのは勇者であるアル――アルフィナだった。

 フィリスはそんな命の恩人でもあり、国を救ってくれた英雄を幽閉し、彼女の全てを壊した国を、張本人となった人物を許す事は出来なかったのであろう。

 戦争をしかけると思っていたのだが、とキーファは考えていたのだが、まさか予想外の結果になった事に驚いた。


「いやぁ、まさかルキが間に入るとは思わなかったなぁ……」

「魔王様は何を考えているのかわかりませんからね。昔からそうです」

「昔は臆病だったからねぇ、今じゃ立派になって……まぁ、それは置いといて、やっぱり可愛さかなぁ、王様父親姫様には甘いかやっぱ」

「そのようですね」

「私は『処刑』の方が良かったんだけど……これを聞いたらアルフィナは何て言うかな?」


 キーファは今、アルフィナが嘗て裏切った仲間二人の事をどのように思っているのか聞いてはいなかったが、アルフィナの様子から見ると興味なさそうな顔に見えるのは気のせいだろうか?

 この街にきて二ヵ月生活してきて、アルフィナは以前のアルフィナではない。

 全てが壊れてしまった、アルフィナなのだ。

 興味を持つものがほとんどなく、二ヵ月でやっと動けるようになったアルフィナはまず部屋の掃除、そして庭掃除をするようになった。

 相変わらず彼女が何を考えているのか、キーファも、そしてプラムもわからなかった。


「……やっぱ、読めないんだよね、アルフィナの事」

「アルフィナ様ですか?」

「何を考えているのかわからないんだもん。幼馴染なのにね……」


 幼馴染で、大切な親友。

 離れる事がなければ、キーファの知っているアルフィナだったのかもしれない。

 隣で笑顔を見せながら、冒険を一生懸命話すアルフィナだったのかもしれないが――彼女は既に、もう居ない。


 今のアルフィナはキーファにとって、別人のような存在になってしまったのだ。


(変わってしまったけど、それでも私はアルフィナの傍に居る。何が何でも)


 どんな理由があったとしても、キーファはアルフィナの傍に居る事を誓った。

 何が何でも傍に居る。

 例え世界が滅びても、アルフィナの傍に居ると心に誓ったのだからこれからも彼女の傍に居るつもりだ。

 遠目でアルフィナに視線を向けていたキーファは静かに息を吐きながら呟く。


「……とりあえず娘可愛さに親が城の隅の時計塔みたいなところに幽閉したらしいけど、あのサルサが耐えられるかなぁ?」

「何でも最近よく悪夢を見るらしいです」

「ああ、きっとそれはルキだねぇ……乗り込んだ時に二人に魔術かけたから、それが残ってるのかな?」

「だと思います……あと、これは知らされていないのですが?」

「ん?」


 首をかしげるキーファに面倒臭い顔をしたプラムがキーファに告げた言葉に、目を見開いた。


「逃げたそうですよ、嘗ての『聖騎士』は」

「……はぁ!?」


 その言葉を聞いた瞬間、キーファは声を荒げたのだった。



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