第15話、これからの事


 夜の月に照らされるように帰ってきた二人を静かに見つめるアルフィナに、ルキとキーファは首をかしげながらお互い視線を合わす。

 まるで時が止まっているかのように二人を見つめるアルフィナに疑問を抱きながら、キーファはゆっくりと彼女に声をかけた。


「あ、アル……私たちの顔に何かついてる?」

「……ううん、ついてはいない」

「そ、それなら良いんだけど……ああ、疲れたー。プラム、私に何か飲み物くれるかな?」

「プラム、俺には紅茶を」

「承知いたしました、キーファ様、魔王様」


 二人は本当に疲れているのか、そのままアルフィナの近くで一緒に腰を下ろすようにしながら静かに息を吐いていた。

 確かに本当に疲れた表情をしているのがわかったアルフィナはもしかすると、無意識だったのかもしれない。

 二人に近づき、そのまま両手を伸ばすと、右手はルキの頭に、左手はキーファの頭に、何も言わず置いた後、そのままかきむしるようにしつつ、優しく二人の頭を撫でたのだ。

 突然アルフィナに頭を撫でられたことに驚いた二人は目を見開き、アルフィナに顔を向ける。


「あ、アルフィナ……?」

「あ、アル……私たち――」

「よしよし」

「「……」」


 アルフィナの手を止めようとした二人だったが、アルフィナはそんな二人を無視するかのように、優しく二人に声をかけながら頭を撫で続ける。

 嘗て、幼い二人が頑張った時にやっていた行動を、アルフィナはしているのだ。

 恥ずかしそうな顔をしながら、ルキはアルフィナに視線を向けないように別の方向に目を向け、キーファは楽しそうに笑いながら、同時に少し照れくさそうな顔も見せたのだった。


「……とろけた顔をしておりますね、キーファ様」

「魔王様、恥ずかしいからって、勇者様に視線を背けるのは、どうかと思いますわ」


 魔王軍四天王の二人は、そんな二人の主に静かに声をかけるのだった。



   ▽



「奴らには三日間悪夢を見てもらっているが……それからの事は考えていない」

「つまり、その後運が悪ければ追手が来ると言う可能性がある、と言う事ですね、魔王様」

「ああ」


 数十分後、ルキは周りにそのように告げる。

 結局の所、ただいま悪夢を見て精神的に痛めつけている状態なのだが、これからの事は考えずにその場を去ってしまった。

 このままいけば、間違いなく追手が放たれるに違いないと理解している。

 キーファは静かに息を吐きながら、話を繋げる。


「それに、魔王の姿を知っているサルサとグリードが目を覚ましてしまったら、聖王国は間違いなく魔王討伐に来るだろうね……以外に容赦ないし」

「それからの事を考えないといけないな……現に俺はまだ、力が戻っていない」

「もう少し寝る予定だったしね……仮死状態になるまで力を使っちゃったし」

「ああ、それと……」


 ルキはアルフィナに目を向ける。

 視線を向けられたことに首をかしげている彼女に対し、ルキはアルフィナに指を向けた。


「アルフィナの事も考えなければならない。聖王国からしたら、『偽勇者』だ」

「隣国に逃げ込もうとも思ったんだけど、多分すぐに追手が来る。となればもっと遠い場所で静かに暮らせる所があると良いんだけど……それに、アルフィナの状態がどこまでなのか、知りたいしね」

「……状態」


 アルフィナは静かに胸に手を当てながら、考える。

 確かに今までの自分ではなく、多分別人のような存在だとアルフィナは思っている。

 昔のように笑う事もしなければ怒りも、悲しみも感じない。

 痛みを感じないように、アルフィナは感情を全て捨ててしまっている。

 ルキとキーファに向けて、プラムが一言。


「キーファ様、魔王様。体は治す事は可能です」

「プラム?」


「――しかし、『心』は簡単には治りません」


 静かに冷たい瞳で、プラムはキーファとルキの二人に目を向ける。

 プラムは話を止めない。


「アルフィナ様……勇者アル様の身体は治癒魔法とか手当をすれば簡単に治る事は出来ます。しかし、『心』は無理です。私から考えるに、アルフィナ様の『心』は既に崩壊していると、考えております」

「……プラム、言っていい事と悪い事があるぞ」

「魔王様、私は真面目に言っております。」


 まっすぐな目でそのように発言するプラムに睨みつけるように目を向けるルキの間に入るキーファ。

 キーファの両手で間に入るようにしながら、彼女はルキに目を向けた。


「確かにプラムの言う通り……私も、アルフィナの心が崩壊しかけているとしか考えられない」

「だけど、キーファ……」

「……これからの事は、一応考えてはあるんだ、ルキ」

「え……」


 キーファはそのように言うと、ニコっと笑いながらルキに目を向ける。

 考えていると言うのはどういう事なのだろうかと疑問に抱きながら、首をかしげていると、キーファはアルフィナに視線を向ける。


「ねぇ、アル!」

「……なに、キーファ?」


 キーファに呼ばれたアルフィナは相変わらず無表情の顔をしながら問いかけると、嬉しそうに笑ったキーファはアルフィナの両手をしっかりと掴んだ。


「村に戻らない、アル?」

「……え?」


 その時、無表情だったアルフィナの表情が一瞬だけ揺らいだような気がした。

 


 

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