第14話、永遠に許すつもりはない。【魔王サイド】
「……俺達は、今ここで、殺されるのか?」
怯えるようにしながら答える男の姿を見て、ルキは吐き気を覚える。
どうしてこのような男に、そして隣に同じように怯えている女に、大切な友人であり、大切な存在であるアルフィナが穢され、汚され、暴行をされ、そして罪を償う事をしなければならないのか、理解出来ない。
本当にこの国は『聖王国』と呼ばれる存在なのだろうかと考えさせられる程、ルキは冷たい瞳で『敵』に目を向ける。
【勇者】と【魔術師】の二人にやられて死ぬと言う事がエピソードだった。それから先の事はルキでもわからない。
『アルフィナは、世界が平和になったら、どうする?』
『とりあえず平和になったら……家に帰りたいなー』
『え、〇〇になりたいって言うの、ないの!?』
『……終わったら家に帰って……普通に暮らして、家庭をもって、静かに暮らしたいかもしれないなぁ……』
旅立つ前に、アルフィナは笑顔でそのように答えていた。
その願いも空しく、崩れてしまったのだが。
唇を噛みしめるようにしながら、ルキは拳を握りしめた後、静かに解く。
相変わらず殺気は収まっておらず、周りに覇気のようなモノがまとわりついているように感じながら。
「……カナリア」
「はい、魔王様」
「お前はプラムの所に行け……俺を支えてくれる【魔術師】が居るから大丈夫だ」
「勇者様の元へ行ってよろしいと……招致致しました我が主」
少し嬉しそうに笑うカナリアの表情は見逃す。
カナリアは勇者の事を大事にしているとルキはわかっている。
フフっと楽しそうに笑いながら消えていく部下の姿を見つめた後、ルキはキーファに目を向ける。
魔王の表情ではなく、幼馴染の表情でキーファを見た。
「ごめんキーファ、申し訳ないんだけど……」
「目覚めたばかりだから体の制御がうまく出来ないってことでしょう?別に構わないけど……死ぬことはしないでもらいたいな」
「死ぬつもりはない」
「知ってるよ、約束したんでしょ?」
「……」
笑顔で答えるキーファに、ルキは変わらない彼女の姿に安堵した後、魔王の顔で再度怯えている二人に目を向ける。
ゆっくりと前に近づき、目の前に立つルキに何もできない二人はその場に崩れ落ちて座っているだけ。
体中は傷だらけで武器すらも持てない、軟弱もの。
――アルフィナはこの二人を現況に、『人形』になってしまった。
(……人形になるのは、俺は望んでいなかったんだがな)
目を覚ました時に、笑顔でただ『おかえり』言って欲しかった。
まさ三人で、あの村で過ごしたかっただけだった。
「さて、何処で狂ったんだろうな」
ククっと笑った後、ルキは二人の頭に手を置いた。
『
二人にそのように言った瞬間、まるで糸が切れたかのように崩れ落ち、倒れる。
その姿を見つめながら、キーファがルキに近づき、倒れている二人に視線を向けながら呟く。
「闇魔法、かな?」
「ああ……これから三日間、この二人には悪夢を見てもらう。死んだほうがマシだと言えるほどの夢だ」
「うわぁ……残酷ー……まぁ、その方が良いのかもしれないな」
「……これからどうするつもりだ?」
キーファがこの部屋に入って来た事は入り口のメイドに告げており、同時に応援を呼ぶように言っているらしい。ある意味宣言してしまったので、捕らわれるのはキーファになる。
しかも今回、討伐されたはずの【魔王】が出てきてしまっているのだから余計に公にされる可能性があるが、キーファは相変わらず能天気な返事を見せた。
「とりあえず、アルフィナと一緒に逃げるつもり。場所はわからないけど……今のアルフィナを一人にさせたくない」
「それは俺も一理ある……ただ、俺はまだ一緒にアルフィナ達と居られないからな……これから魔王城に戻り、後片付けをしないといけないし」
「すっからかんにする予定?」
「俺も逃げるつもりだ……戦いはもう面倒だし、もう部下は四天王以外居ないからな」
ルキはそのように息を吐きながら、これからの事を考えると頭が痛くなる。
抱えるようにしながら考えた瞬間、突然体が揺らぎ、膝をついた。
それに気づいたキーファが急いでルキを支える。
「ほらほら、無理しない!とりあえずアルフィナの所に戻ろ?きっと帰ってくるの、待ってるよ」
「……そう、だろうか?」
「うん……アルフィナにとって、ルキは大切な友達だもの。きっと『おかえり』って言ってくれるって」
「……」
ふと、ルキはアルフィナの事を頭の中に入れる。
笑顔はまだ見せてくれないかもしれないが、それでも『おかえり』と言ってくれたら、どんなに嬉しいか。
『ルキ!』
嘗て、笑顔で手を振ってきたアルフィナは、もう居ない。
全てを奪われた彼女は、人形のようになり、笑顔を失った。
きっと、最後までアルフィナをあのようにした奴らを、永遠に許す事は出来ないだろう。
しかし、アルフィナはきっと、『復讐』と言うものをするつもりはないのかもしれない。だからこそ。
「……キーファ」
「何?」
「――俺は、死ぬまで彼女を永遠に追い詰めた奴らを、許す事は出来ない」
「……それは、私もだよ、ルキ」
ルキは唇を噛みしめるようにしながら、早く彼女の所に帰りたいと願うのだった。
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