第13話、俺は、死ぬのだろうか?【聖騎士サイド】


(俺はただ、有名になりたかっただけなのに……)


 たった、それだけの理由だった。

 それだけの理由で、グリードと言う男は、今まで生きてきた。


 【聖騎士】


 神聖な力による加護を受けた騎士。

 神に選ばれた存在の一人だと言ってもいいほど、グリードは上位にいる存在だった。


 本当は、【勇者】になりたかった。


 しかし、グリードは信託に選ばれる事なく、自棄になり、努力をして、なんとか自分でこの地位にいる事が出来るようになった。

 そして、【聖女】であるサルサに魔王討伐に同行する事に選ばれたグリードは喜んだ。

 同時に、【勇者】と呼ばれた人物を見て、どうしてあの男が選ばれて、自分ではないのだろう、と言う【闇】を抱えることになる。


 【勇者】であるアルはよく笑う人物だった。

 隣にいる【魔術師】のキーファと一緒にいる事が多く、二人はどうやら一緒の村から出た平民だと言う事を聞いた。


(平民なのに、【勇者】に選ばれたのか……ッ)


 徐々に自分が隠してきた【闇】が膨らんできている事を、この時グリードは知らなかった。


 グリードはとにかく一生懸命、努力し、魔物を倒し、このまま【魔王】を自分一人で倒すことが出来るのではないだろうか、と考えるようになったのだが、その考えが間違いだと言うことに気づいた。

 段違いだったのだ。【魔王】にあった時、サルサ同様にその場から動けなくなってしまったのである。



「――来たか、【勇者アル】よ」



 四人の四天王が跪いている中、王座が座るような場所に一人、赤い瞳をした男が笑みをこぼしながらアルたちの前に立ちはだかる。

 グリードは、動けなかった。サルサ同様に。

 しかしキーファとアルは全く違った。

 睨みつけられても、二人は一歩、前に進んで目の前の男を見る。


「うん、来たよ――【魔王ルキ】」


 アルはそのようにまっすぐ、剣を握りしめながら、【魔王】の前にたった。


 討伐出来るはずがない、と思っていた。

 しかしアルは時間をかけて、キーファと共に、二人で討伐してしまったのである。


 グリードはそんなアルの姿を見て、一瞬――綺麗だと思ってしまった。



   ▽



 討伐されているはずの男が、なぜ目の前に居るのか?

 しかも、キーファと肩を並べて。

 まるで、最初から仕組んでいたかのような素振りに、サルサも、そしてグリードの二人も動けない。

 ただ、目の前の【魔王】は明らかに二人に対し、敵意を抱いている。アルという人物のために。


「……プラムが言っていた。外も、中も、暴行されていた、と」


 【魔王】はそのように唇を噛み締めながら言ったあと、すぐさまサルサとグリードに目をッ向ける。

 赤い瞳がジロっと見つめるその姿に、二人は怯える事しか出来ない。

 戦う事すらも出来ない。既に体中ボロボロで動ける事すら痛みが襲いかかってくる。

 アルを牢獄に捕らえて半年は、サルサも、そしてグリードの二人は外では英雄のように気取っていたが、中では堕落した生活を送っていたのである。

 グリードも最近では武器すら握って戦っていない。


(か、勝てるわけがない……)


 それが、グリードの今の状況だった。


 体が勝手に震えているグリードを見つけたキーファは静かにため息を吐きながら笑う。


「体を見てわかるよグリード。鍛錬とか全くしていないんじゃないの?堕落した生活を送っているって調べてわかっているんだから」

「う、うるさい!お前には関係ないだろうキーファ!!」

「関係あるよ。美味しいモノを食べて美味しいお酒を飲んで、性欲発散して……そんな中、アルは冷たいあの牢獄で痛みに耐えながら生き続けてきたんだ」

「キーファに知られないように、小細工みたいなこともしていたらしいな」

「あれは確かに腹がたったよ」


 ルキの言葉を聞いて納得しているキーファは冷たい瞳でグリードに目を向ける。

 彼女の言う通り、気づかれないように、簡単な小細工をしていたからこそ、半年バレていなかったのだ。


(このまま死んでしまえば、死体ごと燃やして証拠隠滅させるつもりだったのに……途中でなぜ気づいたんだ?)


「途中でなぜ気づいたんだ、って言う顔してるね、グリード」

「っ!!」


 自分が考えていた事を簡単に言い当てたキーファに青ざめた顔をしながら彼女を見ると、彼女は静かにため息を吐きながらルキを見る。

 ルキも納得したかのように静かに笑いながら、キーファを見つめた。


「彼女には、優秀な部下をつけたからな」

「私が勝手に雇っただけだったんだけどね。まさか、四天王だとは知らなかったけど!」


 ハハハッと笑いながら答えるキーファに、グリードは何も言えなかった。

 笑っているのに、目が全く笑っていなかったのである。


「……き、キーファ、教えてくれ」

「ん、なーに?」


「……俺達は、今ここで、殺されるのか?」


 青ざめた顔をしたまま、グリードは静かにキーファを見つめた。



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