第16話、壊された故郷へ


「……村に戻るって、キーファどういう事?」

「アルにとっては一番帰りたい場所でしょう?まぁ、住んじゃおうぜって言う所じゃないかもしれないけど……どうかな?」

「……」


 キーファの発言に驚いてしまったのは嘘ではない。

 そもそも、アルフィナ、キーファ、そしてルキが暮らしていた場所は既に、暮らせる状態ではないからである。

 人もいなければ畑も、水もない場所だと、幽閉されていた時に聞いている。そんな場所にこれから向かうと言うのだろうか?

 もちろん、状況を知っているからこそ、プラムが二人に声をかける。


「お待ちくださいキーファ様、それは危険すぎる場所だと思うのですが……」

「え、プラムも否定するの?」

「否定と言うよりかは、反対です。だってあそこは既に『瘴気』であふれかえっております。二年前の、スタンビートの関係で」

「うん、そうだね」

「あそこを浄化できるのは、クソ聖じ……いえ、聖王国の王女、サルサ様しかおりません」

「今クソ聖女って言おうとしましたわね、プラム」

「あんな女、クソ聖女で十分です」


 カナリアの発言に相変わらずの無表情で返すプラムの姿を、アルフィナは静かに見つめながら、キーファの発言を考えた。


 スタンビート――二年前、魔王討伐の旅をしている際に、突如入ってきた情報だつた。


 アルフィナとキーファの村の近くにある魔物が住み着いた事によって、大量の魔物が集まってきてしまった。

 そのため、近くの村全て魔獣の餌食になってしまった。当然、アルフィナとキーファの家族はそのまま命を落としてしまったと、旅の途中で聞いた。

 帰る場所がなくなってしまった事で、アルフィナも、そしてキーファも悲しんだ。

 それは、魔王として君臨していたルキにもその話を聞き、秘密裏に村の近くに住み着いた魔物たち全てを四天王の力を借りて排除したぐらいだ。


 今のあそこは、人が住む環境になっていない。

 それをわかって、キーファは提案しているのだ。

 あそこならば、人は寄り付かないからである。


「瘴気の事は歩きながら考えるとして、寄り付かない場所に住めば、まさかそこに罪人の偽勇者、アルが居るとは思わないでしょう!」

「しかし、キーファ様……」

「プラム、もう決定事項なんだ。もし、それでも反対するのであれば、私のお世話係、止めても大丈夫だよ。退職金出すし」

「……」


 キーファの発言に、プラムはこれ以上言っても無駄だろうと判断し、そのまま口を閉ざす。

 静かに息を吐きながら、一礼して続ける。


「……解雇されると困るので、これ以上何も言いません」

「うん、ごめんなプラム」

「……あなた様がお決めになった事です。私は従うまでです」


 仕方がない、と小さく呟くように聞こえたのは気のせいだろうか?

 プラムはそのまま後ろに下がり、アルフィナたちに新たな飲み物を提供するために準備に入った。

 そんなプラムに目を向けていたキーファに対し、カナリアがキーファに告げる。


「心配しているのですよ、プラムは。キーファ様の事を」

「うん、それはわかってるの……プラムの言う通り、あの場所は危ない。死んだ魔獣たちが残した瘴気もまだ浄化されていないと思うし……けど、あそこに隠れるのはうってつけだと私は思ってる……ねぇ、アル」

「……」


「――アルは、故郷に帰りたくない?」


 何処か悲しげな表情をしているキーファに、アルフィナは静かに見つめる。


(滅びた、故郷)


 あそこには、アルフィナにとって大切な場所だった。

 魔王討伐が終わったら、家に帰って、勇者になってどのような体験をしたのか、家族に話すつもりだった。

 しかし、その家族は魔獣たちに滅ぼされ、あの村に住んでいる全員が命を落とした。友人も、家族も、何もかも全て。

 あそこは既に、アルフィナにとっては帰れない場所になってしまったのである。


(……けど)


 それでも、アルは心の奥で何回も考えた事がある。


「……キーファ」

「何、アル?」


「私、村に帰りたい。どんな理由があっても、あそこは私の故郷だから」


 もう、アルフィナを優しく読んでくれる家族は、いない。

 しかし、それでもアルフィナにとって、あそこは彼女の故郷なのだ。

 まっすぐな瞳が、キーファを捕える。

 そして、その発言を聞いたキーファは嬉しそうにアルフィナにとびかかり、抱きしめる。


「うん、帰ろう!村に!」

「……ん」


 嬉しそうに笑いながら答えるキーファの背中を静かにさするようにしながら、アルフィナは目を閉じた。

 そんな二人のやり取りを見ていたもう一人の幼馴染であるルキは静かにため息を吐きながら、カナリアに目を向ける。


「カナリア」

「はい、魔王様」

「残り二名の四天王を招集しろ」

「え……」


「――最後の会議を行う」


 ルキはそのように言いながら、再度、息を深く、静かに吐くのだった。


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