第17話、メイドは主の命に従うのみ①【魔王軍四天王&メイドサイド】


 プラム――ただ、それだけの名前。


 昔から人に尽くすのが好きだったプラムは、初めての主人――魔王となられたルキの護衛兼お世話係として着任する事になった。

 元々プラムの母親がルキの親戚に仕えていた、と言う事もあり、次期魔王となるルキの傍に、そしてついでに護衛として、魔王軍四天王の一人として、籍を置く事になった。

 生まれ育った村から離れ、次期魔王としての教育が始まろうとしている際、ルキと言う人物はプラムから見て一言。


(泣き虫小僧)


 だった。


「ううう、アルフィナーキーファー……会いだいよぉ……」

「……」


 将来、魔王として君臨するお方がこのような泣き虫だとしたら、絶対に、間違いなく威厳がない。

 プラムは元々感情を表に出さない為、その時はいつも通りの無表情で布団にくるまっているルキを見つめていた。

 毎日のように泣きじゃくっているルキだが、そんなルキが泣くのは自室のみ。

 

 ルキの母親は人間であるが、父親は嘗てこの世界を混沌に導こうとしてしまった人物、【魔王】となった人物である。

 現在、ルキの父親は他界してしまっているので、その席が親戚のモノたちが交代となって続けているようなモノ。

 ルキは【魔王】である父親の血を受け継ぐ、たった一人の人物だ。ハーフだとしても、彼はそれを受け継ぐ力を持っている、はずだ。


(しかし、本当に威厳のない時期魔王だ……)


 プラムはそのように考えながら、泣き続けているルキを無視し、いつものように就寝させる支度をさせる。

 そんなプラムに気づいたのか、泣き続けていたルキの表情がピタっと止まった。


「……ねぇ、どうしてプラムはいつも、そんな顔なの?」

「そんな顔とは、どんな顔ですか?」

「なんか、全く表に表情を出さないと言うか、僕……君だけは全く読めないよ」

「両親にもそのように言われた事はあります」


 涙を拭きながらプラムに目を向けるルキを彼女は静かに見つめる。

 鼻水が少しだけ垂れているが、そんな事はプラムには関係のない事だ。

 ハンカチを取り出し、それをルキに渡すと、ルキはすぐに受け取り、涙を拭いた。


「その……怒ってるのか笑っているのか、わからないよって言われた事あったりする?」

「ええ、よく言われます。その……自分から言うのも恥ずかしいのですが、あまり感情と言うものがわからないのです」

「わからない?」

「はい。一応、心の中では楽しい、嬉しい、悲しい、腹が立つ、と言う事は芽生えているので、感情が死んでいるワケではないのです。ただ、それを顔に出すのが、外に出すのが苦手なんだと思います」

「……そうなんだ」


 少しだけ同情されたかのような視線を向けられたので、どのように反応したら良いのかわからず、プラムは動きを止めてしまう。

 すると、ルキは突然、プラムの手を握りしめ、先ほどの笑顔は何処へやら。

 少年のようにこちらを向いて笑ったルキはとても輝いているように見えてしまった。


「僕、君のような逸材、探していたんだ!」


「……はい?」


 キラキラした目を見せながらそのように発言するルキに、プラムは首をかしげながら思わず首をかしげてしまったのだった。


 それから、プラムはルキがこれから行おうとしている計画を聞いて、驚く。

 幼い子供がまさかそのような計画を立てているとは知らず、呆然としながらそれを話し終えた後、照れくさい顔をしながらルキは答える。


「ど、どうかな……もし可能だったら、協力してくれる?」

「……ルキ様、もしその計画を私が断ったら、どうするおつもりでしょうか?」

「口封じ……って言う事だったら無理だから、とりあえず、解雇させてもらってもいいかな?」

「流石にそれは嫌なので、ぜひ協力させてください」

「ありがとう!」

「ここの給料、とても良いんです。出来ればやめさせてもらいたくないので」

「プラムって、意外にお金大好き?」

「ええ、大好きです」


 変わらない顔で答えるプラムだったが、お金の話になると少しだけ目が輝いていたなんて、ルキはその姿を見て思わず笑ってしまった。

 しかし、それでもプラムにとって、次期魔王となるお方――ルキは相変わらず泣き虫だった。

 そんな泣き虫は一年後に卒業し――それからルキは立派な【魔族】の中心となる、【魔王】として君臨する事に成功した。


 ルキが【魔王】なって三年後、【勇者】として現れたアルに彼は討たれ――倒される。


 それが全て計画済みだと言う事を知っているのは【魔王軍四天王】の四人のみ。


「プラム」

「はい、魔王様」

「俺が倒されたらお前はキーファの元へ向かえ。この戦いが終わったら隣国で魔術を学ぶらしい……キーファは自分の生活面は壊滅的だからな。新しい雇用主となってくれるだろう」

「承知いたしました、魔王様」


 全ては計画通り――そのはずだった。

 魔王が倒された後、プラムは言われた通りキーファの元へ向かい、彼女の身の回りを世話するメイドとして、働かせてもらう事になった。

 ルキの言う通り、彼女の生活面は壊滅的だった。

 二日ほど放置していると、ゴミ屋敷のようにするほど。

 魔術の研究をする事で放っておけば三日ほど、飲まず食わずに行うと言う事が何度もあった。

 このままでは彼女が死んでしまうと言う事を踏まえて、メイドとしてキーファの傍に居る事にした。


 そして、予想外の出来事が起きた。


「……何、これ?」


 ある聖王国に出される新聞を見て、キーファの運命が変わってしまった。

 それは、キーファの大切な幼馴染が、『偽勇者』として『罪人』になったと言う記事だった。


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