第18話、メイドは主の命に従うのみ②【魔王軍四天王&メイドサイド】
「アルが、ざ、罪人……?」
キーファはそのように呟きながら、呆然としている。
『勇者アル』――魔王を討伐し、世界を救った人物。
しかし、その新聞には、アルは『偽勇者』と書かれ、罪人として投獄されたと掲載されている。
次の瞬間、キーファはその場に新聞を叩きつけ、唇を噛みしめている。
プラムは急いでキーファに声をかける。
「……キーファ様、お気を確かに」
「……アルが……アルフィナが……罪人って……そんなわけない。だって、私は見たもの……アルが魔王を討伐するところ……一緒に行って、それで……」
「キーファ様」
「嘘よ……嘘嘘嘘ッ!」
泣き叫ぶ彼女の姿に、プラムの声は届かない。
(それほど、アルと言う人物が大事だったんだ)
嘗て、魔王であるルキから聞いた事がある。
キーファにとって、アルは大切な友人であり、親友であり、家族だという事を。
新聞から見て投獄されて数か月たっている。
今、生きているかどうかもわからない状況のまま、崩れ落ちて床に座り込んでいるキーファをプラムは見つめていた。
なら、プラムが声をかける事は一つ。
「キーファ様、探しましょう」
「……え?」
「まず、アル様がどこへ投獄されているか、聖王国ではどのようになっているのか、そして脱出ルートも調べ……探して助け出しましょう」
「……プラム」
「キーファ様」
アルが一体どのような状況に陥っているのかわからない。
しかし、下調べなしに助けに行くのであれば、逆に捕まるのは自分たちだ。
プラムの顔は相変わらず変わらない顔をしているのだが、キーファはその時少しだけ『希望』と言うモノをもらった気がした。
「大丈夫、私はあなたの味方ですから」
一緒に助け出しましょう、と言う言葉は言わず、プラムの発言に、キーファな泣きそうになりながら静かに頷き、プラムの両手、力いっぱい抱きしめるのであった。
唇を噛みしめながら泣きそうになっているキーファの姿を見て、ふと思い出した。
もし、この場に魔王であるルキが居たらどのような反応を見せるのだろうか、と。
魔王は死んでいない。
ただ、仮死状態になって、眠っているだけだ。
もし、起こしたらどのようになるのだろうか?
昔、プラムは魔王になったルキに聞いてみた事があった。
「魔王様、もしアル様が傷つけられていたとしたら、どのようになさるので?」
「殺す」
「はい?」
「『僕』の大事なアルフィナを傷つける奴は全員死刑だよ」
――魔王ルキは、勇者アルである人物にご執心なのだ。
魔王に就任してから、一人称が『僕』から『俺』になった。
しかし、たまに『僕』と言う一人称を使う時、ルキは殺意を隠さない。
明らかに怒りを露わにしていると言う程、本性をさらけ出す。
「……無理やり仮死状態から起こしたら、どうなるかな」
「え?」
プラムの小さな発言が聞こえなかったのか、キーファは聞きなおしたのだが、プラムはその発言を聞きなおす事はしなかった。
それからプラムはキーファと共に調べぬいて、何とか勇者アルが閉じ込めれている牢獄を発見する事が出来たのだが、そこで見た彼女の姿は悲惨なモノだった。
同時に、感情がうまく表現できないプラムだから理解出来た。
目の前にいる女性には、感情が壊れている、と。
細くなった手、傷ついた身体、この環境でどうやって生き延びる事が出来たのか不思議に感じながら、プラムはキーファを呼び、彼女と一緒に外に出る。
アルの身体を抱き上げた時、とても軽かった。
(彼女が、何をしたと言うのだろうか?)
この時初めて、プラムはアルをこのような姿にした人たちに怒りを覚えたのだった。
同時に、キーファには言っていない計画の事を言わないでおこうと心に誓うのだった。
用意しておいた隠れ家に彼女を寝かせ、そしてキーファは聖王国の聖女たちの所に行っている中、プラムは連絡を取っていた。
「カナリア、魔王様は既に起きているのですか?」
『ばっちり無理やり起こしましたわ……そして状況を伝えたらただでさえ半壊している魔王城をぶっ壊す程、威力が増しておりますの……これ、私じゃ制御出来ないんだけどどうしたら良いかしら!』
「とりあえず放出しても大丈夫だと思う……あとは頼んだ、カナリア」
『ちょ……その、勇者様は無事なんでしょうね?』
「体は傷ついているけど、大丈夫……ただ、体は治す事は出来ても、心は治せないと思う」
『……そう、ですか』
魔王軍四天王の一人、カナリアと連絡を取りながら、プラムは徐々に壊れていく城を考えながら、作戦は成功したと考える。
今回、魔王であるルキを起こす事は計画のうちなのである。
このままいけば最悪聖王国を滅ぼせるのではないだろうか、と言う事。
そして、カナリアは勇者の事を心酔している程の人物だ。彼女の事が心配なのか、声を聞くだけでわかる。
プラムは再度、息を吐きながら、カナリアに言う。
「プランは変わらない。カナリア、ルキ様をお願い」
『ええ、危なくなったら死んでも止めますわ……そちらこそ、勇者様の事お願いね』
「それは大丈夫。仕事のうちだから」
プラムはそのように言い、連絡を切る。
そして、再度横になっている勇者アル――いや、アルフィナに視線を向けながら、腕をまくった。
「とりあえず、体のケアが必要ですね」
そのように言いながら、プラムは気合を入れるのだった。
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