第19話、メイドは主の命に従うのみ③【魔王軍四天王&メイドサイド】


 それから一度魔王であるルキが姿を見せ、また消えていなくなり、カナリアが来て仕事を手伝ったりする中、勇者であるアル――アルフィナが目覚めた。

 嬉しそうに笑いかけながら、勇者様に心酔するカナリアが手を握った瞬間、彼女は顔に出す事なくその手を払いのけた。

 それを見て、プラムはすぐに察する。


 アルフィナの身体をケアしている最中、彼女の『中』に傷のようなモノがあったのを発見した。

 同時にわかった事は、彼女は男たちにもてあそばれた、と言う事になる。

 プラムの考え通り、少し暗い表情を見せているアルフィナが呟く。


「……私の手は、身体は、汚れているから。カナリアを汚したくなくて、ごめん」


 カナリアが綺麗だから、と言う言葉を言った後に言った発言だった。

 一瞬目を見開いてしまったプラムだったが、同時にどうして彼女が『汚れている』だなんて思うのだろうか?

 それに、カナリアの性格を知っているからこそ、プラムは何も言葉を出さないし、カナリアもそのような発言に対し、傷つくわけでも軽蔑するわけでもない。

 彼女自身、本当に『勇者アル』と言う存在の事を心酔している存在なのだ。崇めている存在なのだ。

 カナリアは両肩を鷲掴みにしながら言葉を発した。


「汚れておりませんわ勇者様!」

「カナリア……」

「寧ろ私の方が汚れております!人間たちを何十人、何百人殺したか全くわかっておりませんのよ……勇者様は綺麗ですわ!」

「……きれいじゃ――」

「いいえ、綺麗です」


 カナリアの瞳は揺るがない。


「だってあなたの瞳は、未だに綺麗な色をしているではありませんか」


(……カナリアとしては、良い言葉ですね)


 プラムはそんなカナリアに対し、静かに笑みを零すのだった。


 それから、数十分後にはキーファとルキの二人が姿を見せた。

 すっきりした表情を見せているキーファの姿に目線を動かしていると、キーファがプラムの前に立ち、少し不貞腐れたような表情を見せた。


「プラム、聞いたよ……計画していたんだってね!ルキを起こすって事!」

「はい、計画しておりました」

「一人でボッコボコにする予定だったんだよ!魔王が現れちゃ計画が――」

「私は魔王軍四天王の一人でありますが、戦闘はあまり出来る方ではありません……寧ろ、私は魔王ルキ様より力はありません」

「ん?え、どうしたのプラム?」


「――私の方も、結構怒っているんですよ、キーファ様」


「……ぷ、ぷらむ、さん?」


 何度も言うが、魔王軍四天王が一人、プラムは感情をうまく表に出せない。昔から苦手だった。

 しかし、そんな彼女は別に感情を捨てているわけではない。

 プラムだって、怒る時は怒るのである。

 静かに、ゆっくりと見つめてくるプラムの姿に、いつもの違う表情を見せてきた彼女に対し、思わずキーファは驚き、震えてしまう。

 そんな二人のやり取りに目を向けたのがルキだった。


「キーファ、言っておくが多分この中で一番怒っているのは、プラムだと思うぞ」

「え、ど、どうして……」

「――感謝していらっしゃるのですよ。キーファ様とアルフィナ様には」

「え?」


「あなたがたは、破壊ではなく、和解を選んでくれたので」


 プラムはそのように言った後、アルフィナとキーファの二人に対し、静かにお辞儀をしたのだった。


 【勇者】は【魔王】を滅ぼす存在。

 嘗て、何度も同じように言われてきた言葉を、あの二人は世界を【騙す】ような形で、『自分たち』を助けてくれた存在。

 プラムにとって、この二人は命の恩人だと言って良い――だからこそ、アルフィナをこのような扱いにした『奴ら』を許す事が出来なかった。


 しかし、プラムは戦闘能力と言うモノがあまりなく、出来ると言えば身の回りのお世話ぐらいだ。魔王軍四天王に入ったのは、ただ単にルキとルキの母親が選んだ為。

 戦うやり方は知っているが、前線には出た事はない。

 どのように、あの聖女と聖騎士を痛めつける事が、絶望を味合わせる事が出来るのだろうかと考えた結果。


 仮死状態である魔王ルキを呼び起こし、代わりに戦ってもらおうと言う考えを持ったのである。


 キーファはそんなプラムに目を向けた後、静かに息を吐く。


「……プラム、そう言う所は何て言うか、人らしいね」

「恐れ入ります」

「褒めてないんだけど……まぁ、計画はズレちゃったから別に良いか」


 とりあえず起こってしまった事はしょうがないとキーファは考えるのをやめるのだった。


 それからアルフィナとキーファの二人はこれからの事を考えると、キーファが自分たちの故郷に行こうと考え、アルフィナは了承する。

 プラムは一度は反対したのだが、彼女たちから離れるわけにはいかず、了承するのだった。

 話が終わった後、ルキがカナリアに声をかけた。


「カナリア」

「はい、魔王様」

「残り二名の四天王を招集しろ」

「え……」


「――最後の会議を行う」


(あ、これはまた面倒なことになりそうな予感がしますね)


 プラムはこれから起こる災難に備えようと誓うのであった。

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