第44話、魔術師たちは影ながら行動を開始する。【魔術師サイド】


「最近、妙にどこかに出かけるなーと思っていたけど、なるほどね。ただの散歩じゃなかったわけかー」

「そのようです。そして、どうやらお友達もできたご様子」

「男だったんだろうねぇ……ルキのあの顔、間違いなかったわ」

「魔王様はアルフィナ様の事、好きですからね」


 そのように言いながら、キーファとプラムは少しだけ機嫌が悪そうな顔をしているルキに視線を向けると、ルキはそんな二人の視線に気づき、舌打ちをする。

 態度が悪そうに見えつつ、キーファは自室に戻っていったアルフィナが通った場所に目を向けながら、深く息を吐いた。


「……色々あったから、剣を握らないと思っていたわよ」

「確かに、それは一理ありますね」

「けど……彼女、剣を握る積もりなんだなぁって……変わらないなぁ、本当」


 あのような事件があったからこそ、アルフィナは二度と剣を握る事はないと思っていた。寧ろ戦う事を嫌うのではないだろうかと思ってしまったぐらいだ。

 しかし、彼女は剣の型を練習していた。『何か』と戦うために。


「……冒険者を目指しているのかなぁ」

「冒険者になって、仕事をしようとしているのだと思いますよ」

「そもそも、冒険者になるのが、アルフィナの夢の一つだったから……体力作りのために型の練習をしていたのかもしれない」


 ぶつぶつと色々と呟いているキーファは、本当にアルフィナという存在が心配でならないのだ。

 彼女が今、一体何を考えているのかキーファには理解が出来ない。

 既に、感情というモノを表に出さなくなってしまったからこそ、わからない事だらけなのだ。

 今だって、何を考えているのか、わからない。


「ご飯を食べている時だって、相変わらず無表情でもぐもぐ食べて、終わったらすぐに部屋に戻るんだから……」

「最近、よく食べるようになりましたね、アルフィナ様」

「元々大食いなのよ。明日からもう少し多めに作ってくれる?」

「承知いたしました」


 昔からよく食事を人より多めに食べる存在だったことを思い出しながら、プラムに指示すると静かに受け取る。

 そんな二人のやりとりを静かに見つめているルキは相変わらず機嫌が悪そうに見える。

 キーファはそんなルキの姿を見ながら、声をかける。


「で、魔王様……あなたはそのゼロと言う男をどう見る?」

「どう見ると言われてもな……普通の冒険者の男だ。そんでもって、嘗てのアルフィナ……勇者アルに憧れを抱いてる男だ」

「それだけ?」

「魔眼の所持者でもある。悪意はない」

「ルキがそういうならそうなんだろうけど……とりあえず様子見でも良いかな?」

「その方がいいかもしれない」


 ゼロという人物は、アルフィナにとって害のある男なのか、それとも善人なのか、ルキがそのようにいうのであれば、大丈夫だろうと認識する。

 用意された紅茶を飲み、お菓子を摘む。摘みながら、ルキに対しキーファは話の内容を変える。


「ルキ、ルキはあとどのぐらいここにいる予定?」

「体調はかなり改善されたからもう少ししたら魔王城に戻る予定だが……」

「それなら当分アルフィナの事見てくれないかな?ルキがそばにいるならアルフィナも安心するだろうし……私とプラムはちょっと別件で動かなくちゃいけなくなっちゃったから」

「別件?」


「――『聖騎士』グリードの件について、調べなくてはいけなくなりました」


 その名をプラムが口にした瞬間、ルキの表情が一瞬にして変わる。

 目を細めるような姿を見せながら、ルキはプラムとキーファに目を向けながら


「……その男って確かアルフィナとキーファを裏切って、勝手に『勇者』になった男、だよね?」

「うん、そう」

「……実は最近、この付近でグリードが目撃されている情報を入手いたしまして、私たちはアルフィナ様に会う前に捕まえなければならないと考えるようになりましたので」

「……確か、逃げたんだっけ?」

「うん、そう。サルサを置いて逃げたのよ、あの男。ひどいよね?」

「クズ中のクズですね」


 無表情でそのように答えるプラムと笑っているが、目が全く笑っていないキーファの姿を見て、ルキは何も言わない。

 キーファにとって、サルサ以上に恨んでいる相手でもある。

 その男がこの街の付近で見かけたという情報が入った。

 多分、グリードはアルフィナたちを探しているのではないだろうか、という考えに至ったのである。


「……そのグリードという男はどうでもいいが、アルフィナに危害を加えるのであれば、話は別だな」

「そう言う事。いつ現れるかわからないから、それまではちょっと申し訳ないんだけど、アルフィナの事守ってくれるかな?」

「どうぞ、よろしくお願いいたします、魔王様」

「別にそれは構わないが……キーファたちはそいつを見つけたらどうするつもり?」

「え、それ聞く?ルキ?」


 ふふっと笑いながらそのように返事を返してきたキーファの姿を見たルキは、それ以上に聞いてはいけないような気がしてきたため、口を閉ざして首を横に振るのであった。


「……出来れば、グリードがアルフィナと接触する前に、なんとかしないとねぇ」


 そのように言いながら、キーファは静かに息を吐くのだった。

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