第43話、魔王は二度と、『王子様』にはなれない【魔王サイド】
相変わらず、彼女は笑うことはない。
笑うこともないが、それでもいつも以上にどこか楽しんでいるように見えるのは、自分だけなのだろうかと、思った。
久々に会うことになった幼馴染に声をかけようとした矢先、知らない男が目をキラキラさせながらアルフィナのそばにいて、話をしているのがわかった。
別れた後、思わず詰め寄ってしまった自分自身を反省したい。
次の日、話をしていると、意外に良い人物なのだと自覚することができた。
どうやら勇者に憧れを抱いているらしく、勇者アルの話になると、とても早口になっている姿がある。
目の前にいるのだが、『勇者アル』と言う人物が。
元々は男装をして、男として、勇者として振る舞っていた女だ。
それに全く気付かずに、アルフィナに声をかけ、楽しそうに笑っている姿をみると、胸の奥がぐちゃぐちゃになりそうな感じになるのは気のせいだと思いたい。
(アルフィナに下心丸出しで近づく男たちは、許せん)
幽閉されていた時に、アルフィナは男たちに辱めを受けた。
その男たちを今でも殺したいほど憎いのだが、そんなことをしたところで彼女が喜ぶはずがない。
(そもそも、相変わらず無表情で、何を考えているのか全く読めない)
感情を出すことがなく、まるで人形のように無表情で暮らしているアルフィナが一体どのような事を考えているのか、ルキはわからないでいた。
未だにどのように対応をしていけば良いのか、ルキにはわからないのだ。
(けど、それでも、俺はアルフィナのそばにいたい……)
アルフィナがどのようなことを思っているのかわからない。
しかし、それでもアルフィナのそばにいたいと思ってしまう自分自身がいる。
そんな事を考えながら、アルフィナが軽くストレッチのようなモノをやっているのに視線を向けていると、隣に座っていたゼロがルキに声をかけてきた。
「ルキさんって、アルフィナさんの事、大好きですよね?」
「…………は?」
突然そのように言ってきたこの男は何を言っているのだろうかと目を見開きながらゼロに視線を向けると、ゼロは楽しそうに笑いながらルキに目を向けている。
この笑いが、どこか苦手だ。
それと同時に、まるで見透かしてくるその瞳を向けられると、不快でしかない。
性格上、多分良い青年なのだろうと理解をしたいのだが、半分変な気持ちが邪魔をして、そのように見えなくなってきている。
フフっと笑いながら、ルキに再度声をかけた。
「だってルキさん、アルフィナさんの顔を見ている顔、なんて言うかお兄さん的な、それか愛しい人を見るような感じに見えます」
「……そう見えるか?」
「はい、そう見えます!」
「……どっちかっていうと、俺はお兄ちゃんと言うより、弟だ……昔は泣き虫で、いつもアルフィナの後ろについていくような小心者だったからな」
「ええ、全然見えない!」
昔のルキはこのような性格ではなかった。
いや、ある意味無理に作っているような感じだ。
今は『魔王』として王様として前に出る存在になってしまったからこそ、性格を変えるように努力した。
(だが、アルフィナとキーファの前では、甘える弟になっていたい)
何があっても、いつもそばに居てくれたキーファ、そして大好きなアルフィナがいたからこそ、ルキは『魔王』として動くことができた。
魔王討伐という、おちゃらけた茶番も出来た。
アルフィナとキーファでなければ、きっとルキは死んでいたのかもしれないと何度も思ったことがある。
しかし、それでも。
「だが俺は、アルフィナを助けることが出来なかった……あのようになったのは、俺の責任でもある」
「え、それって……?」
――苦しんでいるとき、そばにいることが出来ればそれこそ、『王子様』になれたかもしれたのに。
泣き叫んだだろう。
暴れただろう。
傷ついただろう。
それでもルキは、アルフィナの事を知らずに、眠りにつき、助ける事が出来なかった。
彼女が無実の罪に囚われ、幽閉され、暴行され、辱められ、そんなことが起きていたなんて知らなかった。
仲間に裏切られる事が、余程辛い。
「アルフィナは笑う事はない。泣く事も怒る事もない……自分を守ために、心を壊したんだ」
「壊した……」
「俺は、助けることもできず、アルフィナの笑顔を、二度と見ることが出来なくなったんだ」
(だからこそ、今度は絶対に彼女を守らなければならないんだ)
唇を噛み締めるようにしながらそのように話すルキの姿を、ゼロは静かに見つめている。
少しだけ驚いた顔をした後、ゼロは再度、体を伸ばしているアルフィナに視線を向け、静かに笑った。
「……あなただけではないですよ、ルキさん」
「は?」
「――僕も、大切な人を守る事が出来なかった、臆病者なのですから」
その時見せたゼロの表情は、とても苦しく感じ、同時にその表情は、以前自分が見せた顔と同じだなと理解する。
その先を聞くことができず、ルキはただ言葉を喉に詰まらせるのだった。
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