第42話、冒険者になりたい


 木陰に移動したアルフィナは持っていたカバンの中身を取り出し、コップ三つ用意した後、一つずつルキとゼロに渡す。


「これ、プラムから。果汁入りの水分」

「え、僕も?」

「お友達と一緒に飲んでくださいって言われて……プラムは私の家で働いているメイドさんで、ルキの元部下」

「へぇ、そうなんですか!あれ、部下って事はルキさんは結構お偉いさんなのですか?」

「……まぁ、そんな感じ」


 まさか『魔王』ですなんて言えるはずがないので、一度どのようにして誤魔化そうかと考えながら、アルフィナはそのような発言をするのであった。

 『魔眼』を持っているならば、最初はもしかしたら気づいているのではないだろうかということが頭の中に浮かんだのだが、ゼロはそんなこと気にする素振りも見せず、笑顔で果汁水を飲む。


「……美味しい、すごく喉に通ります」

「うん、私もこの味好き」

「きっと、料理もお得意な方なんでしょうね!いつかお会いしたいです!」

「まぁ、いつか……」


 いや、そもそも会っても大丈夫なのだろうかと言う気持ちになりながら、アルフィナは果汁水をゆっくり飲む。

 隣では同じように果汁水を飲んでいたルキが少し嬉しそうな顔をしながら果汁水を見つめる。


「確かにプラムが作ったモノだな。相変わらず美味しい」

「ルキにも作ってくれた事あるんだ」

「子供の頃の話だ。あの時は紅茶が飲めなくてな。代わりに果汁水を作ってもらった……変わらない味だから、どこか安心するんだ」

「そんなに長く居ないからわからないけど、ちょっとわかる気がする」


 アルフィナはそのように呟きながら、果汁水を飲み干す。

 体を軽く伸ばすようにしながら、体を解しているアルフィナに、ゼロが声をかけた。


「アルフィナさんはこれからどうするつもりで?」

「そもそもの目的が体力をつけるつもりだったからこれから軽く走るけど……」

「じゃあお供します!今日わがままを聞いていただいたので……」

「でも……」

「……この男が一緒に走るなら、俺も走る」

「ルキは走る理由なんてないだろう?」

「ある、めちゃくちゃ」


 ルキはそのように言いながら拳を握りしめてアルフィナに発言するので、その意味が全く理解できないアルフィナは首を傾げる事しかできなかった。

そんな二人のやり取りを、楽しそうに見守っているゼロの姿があったなんて、誰も知らない。


 数分後、アルフィナの後ろにはゼロとルキの二人がついていくように走り出す。

 少しだけ違和感を覚えながらも、アルフィナはゆっくりと、いつものペースを保つようにしながら、ふと気になったことをゼロに聞く。


「そう言えば、ゼロって冒険者なんだよね?」

「あ、そうですよ。一応冒険者をやらせてもらってます」

「ランクっていうのがあるんだよね?ゼロはランクあるの?」

「一応Cランクをもらいました。今度、Bランクになる予定ではあります」

「……お前、ソロなんだよな?それはすごいんじゃないか?」

「え、すごいの?」

「いえ、運が良かっただけですから!」


 笑いながらそのように発言するゼロに首を傾げながら、アルフィナは今度はルキに視線を向けると、ルキはため息を吐きながら言う。


「Bランクは普通にすごい。それに、ソロなら尚更だ」

「そうなんだ」


 アルフィナは冒険者のルールとかも全く知らないが、ルキはどうやら詳しいらしい。

 ルキにすごいと言われたことが嬉しかったのか、ゼロは顔を真っ赤にしながらははっと笑っている姿がある。


「ほ、本当たまたまなんですよ!そ、それより体力が戻ったら、その、アルフィナさんは冒険者に?」

「うん、一応そのつもり……実はちょっと、冒険者になるの憧れだったんだよね」

「そうなんですか?」

「うん。色々あって冒険者にはなれなかったけど……今なら、体力が戻ればなれるかもしれないし……それに、冒険をしたいんだ」

「え?」


「……色々な世界を巡っていくのが、私の夢だったから」


 『勇者』と言う存在になってから、その夢は途絶えてしまったが、今なら願いが叶うかもしれないと思って、アルフィナは体力を戻すために訓練を一人で続けている。

 最近では普通の食事も食べれるようになったし、このように動くことが出来るようになった。

 後は、昔のように戦えるぐらいの力を持つことが出来れば――アルフィナが右手に視線を向けながら、指先を動かした。


 ふと、二人の方に再度視線を向けると、ルキとゼロの二人は呆然としながらアルフィナを見て固まっていた。


「ん、どうしたんだ二人とも?」

「……たまに思うけど、本当アルフィナって心臓に悪い」

「す、すみません……一瞬天使に見えました」

「え、は?」


 二人の発言に対しての意味がわからず、アルフィナは少し不服そうな顔をしながら二人を見ているのだった。

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