第40話、魔王様は何故かお怒りです。


「あの男は、ダレなんだ?」

「……やっほールキ」


 笑顔でそのように答える魔王様――ではなく、幼馴染のルキだ。

 相変わらず黒い服装で現れた彼は、暑くはないのだろうかと思ってしまうほど、暑い格好をしているように見える。

 簡単に挨拶をしたが、ルキは笑顔を戻すつもりはないらしく、笑ったまま、ただ笑顔は明らかに黒い。

 何故そのような事を聞いてくるのか理解不能なアルフィナは普通に、嘘なく答えた。


「今日出会った人」

「今日出会って、明日も会う約束をするのはなぜだ?」

「型が見たいんだって。剣術の。勇者アルに構えが似ているからって」

「……勇者はお前だろう、アルフィナ」

「今は勇者じゃない。ただのアルフィナ」


 そのように言いながら、アルフィナは行ってしまったゼロが通った道を静かに見つめている。

 何も言わず静かに見つめているアルフィナの姿を、ルキは隣に座り、アルフィナの頭を撫でながら問いかける。


「あの男に何かされたのか?」

「違う……多分きっと、優しい人だと思う」

「それなのに、どうしてそんな顔をしているんだ?」

「……ルキ」

「なんだ?」


「――私は、『人形』じゃなかったんだよ」


 一瞬、彼女が何を言っているのか理解できなかったが、次に気がついたのはアルフィナの手が微かに震えているのがわかった。

 何故震えているのだろうかと思ったのだが、ルキはそれに問いかけるような事はしなかった。

 言ってはいけない、そのような気がしてならないのだ。

 しかし、アルフィナは続ける。


「ゼロを見た時、『怖い』と感じることができた」

「それは、どうして……」


「『男』が多分、怖いんだ。知らない、『男』が……あのぐらいの年齢の『男』たちが」


 アルフィナは淡々とそのように発言し、ルキは怒りを覚えた。

 理由はわかっている。

 アルフィナは幽閉されていた時、男たちに暴行をされていた。

 外も、そして中も。

 彼女の意思など関係なく、無理やり行ったと調べでわかっている。

 しかし、ルキはアルフィナの言葉を聞いて怒りを覚えた後、驚きを覚えてしまった。目の前の少女は、『怖い』と言ったのだ。

 つまり、彼女は何も感じることのない『人形』ではないと言うこと。それを聞いて思わず嬉しくなってしまったのは、考えてはいけないことだろう。


「……このような言い方をしてはいけないと思っているのだが、良かったな……じゃなくて、良かったね、アルフィナ」

「無理に魔王様の喋り方から普通の幼馴染の言葉使いに戻さなくていいよ、ルキ」

「〜っ!だって、その方がアルフィナにとっては良いでしょう!」

「もう魔王の喋り方には慣れたよ。本当、色々変わっているよねルキ」

「〜!」


 アルフィナの発言で何も言えなくなってしまったルキは顔を真っ赤にしつつ、再度アルフィナを見る。

 二ヶ月ぶりにある彼女はいつもより肉付きが良くなったように感じる、と思っていた。

 対し、アルフィナもルキの方に視線を向け、ルキには容赦なく手を伸ばし、腕を触る。

 ぷにっと言う感触が、アルフィナに伝わってきた。


「いっ……な、何!?」

「いや、ルキも肉付きが良いなぁと……昔はひょろひょろだったのに……」

「魔王がひょろひょろの男だったら嫌でしょう!だから、体と、ついでに顔も結構整えて、イケメンですーみたいな感じの顔にしたの」

「いけめん……」

「え、ちょ、なんかバカにされてる僕!?」


 アルフィナがじっとルキに視線を向け、ルキの顔をじっと見つめている。しかし、彼女は別に何も反応はしない。


(まぁ、確かに顔は綺麗になったのかもしれないが、ルキは、ルキだからなぁ……)


 アルフィナにとって、ルキと言う魔王は幼馴染で泣き虫のルキでしかないのだ。顔が変わろうが、体格が変わろうが、アルフィナにとっては変わらない男。

 そして、そのまま腕を何度も触りながら、容赦ない動きをしているアルフィナに、ルキはちょっとだけ我慢が出来なくなってしまった。


「あ、アルフィナ!そろそろ触るのやめて欲しいんだけど!」

「嫌だったか?」

「いや、むしろ幸福……じゃなくて!とにかく、さっきの男に会うの?」

「明日、約束したからな。型を見せるって」

「型って……戦えるのアルフィナ?」

「……まだ、戦闘に立つのは難しいが」


 そのように言いながらアルフィナは立ち上がり、先ほど握りしめていた棒に手を伸ばし、触れる。

 次の瞬間、鋭い動きで剣を振り上げるアルフィナの姿を見たルキは、呆然としながらその光景を見ていた。

 縦に振り、横に振り、動きは素早く、綺麗で隙のない動きを、アルフィナは行っている。、その姿を、ルキは呆然と見つめることしかできない。

 三分ほど、その動きを繰り返し行った瞬間、思わずアルフィナは動きを止める。

 次に見えたのは、呆然としながらアルフィナに視線を向けているルキの姿があった。


「……ルキ?」

「はうっ!?」


 アルフィナがルキに声をかけた瞬間、ルキの間抜けな声がアルフィナに聞こえ、何かを感じたルキは勢いよく立ち上がった。


「アルフィナ!」

「あ、うん」

「僕も!僕も明日ここにくるから!」

「え、あ、うん、別にいいけど……」

「良いよね!ありがとうアルフィナ!」


 何故その時ルキは興奮しているのか、アルフィナには全く理解ができず、思わずそんなルキの姿を見て首を傾げることしかできなかった。

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