第08話、大切な、大事な人だった【???サイド】


 アルフィナの村は、人間だけではなく、隠れて数人の魔人、獣人などが暮らしていた。

 そのような村があるらしいが、アルフィナが暮らす村の近くの町は、差別が酷かったと言う事で、隠れて暮らしているようなモノだった。

 村に余所者や業者が来ると隠れるだけと言う簡単な事なのだが。


 アルフィナには幼馴染が二人いる。


 一人はキーファ。自分より魔力が高い少女だった。


 そしてもう一人は――。


「……僕、【魔王】になるかもしれないんだ」


「「いや、ないない」」

「二人ともォ!他人事だと思って酷いよォ!!」


 突然自分は将来魔王になるんだと言ってきた少年――彼は人間ではなく、魔人と言う種族だった。

 そんな彼が泣きながらそのように発言したので、キーファとアルは真っ先に否定する。

 彼が【魔王】になるなんて、絶対にありえないからである。


「だって、泣き虫だし、いつもアルの隣じゃないと歩けない男が何を言ってるのよ」

「泣き虫な君には無理だと私は思うけど……誰がそんな事言ったの?」

「ううう……か、母さんが言ったんだ。僕は魔王との間に生まれた子供だって」

「……なんか、おばさんが言うと、真実じゃないって思えるのは私だけかなアルフィナ?」

「いや、あのおばさん嘘は嫌いだから、信憑性はあると思うけど……けど、無理でしょう?きっと」

「私も無理だと思う」

「アルフィナ!キーファ!ひどすぎない!!」


 涙をためている少年を別にからかっているわけでもないのだが、二人にからかわれているのではないだろうかと言う気持ちなのだろう。

 唇を震えながら拳を握りしめている少年に対し、アルは静かに息を吐きながら隣に腰を下ろす。


「でも、【魔王】になって、何かが変わるのかな?」

「え……だ、だって、【魔王】だよ?」

「【魔王】になったら、何をするの?」

「え、あ……う、そ、それは……」

「御伽話なら、この国を、この世界を混沌にしてみせるーとか、虐殺するぞーとか言う話だけど、絶対に君じゃ無理そうだし」

「……そ、うだけど」


 目の前の少年は、虫すら怯えてしまう程、臆病な性格の持ち主だ。

 そんな少年が、【魔王】になれるはずがないし、ましてや【魔王】になった所で、この世界は混沌に陥れるとでも言いたいのだろうか?

 アルとキーファの二人はフフっと笑いながら答え、顔を真っ赤にした少年は震える唇を静かに動かす。


「……ねぇ、アル」

「ん、何?」

「もし、僕が本当に【魔王】になっちゃったら、アルはどうする?」

「別にどうもしないよ。だって、君は君じゃないか」


 【魔王】になった所で、幼馴染の友人が簡単に変わるとは思っていない。

 アルは笑顔を見せながら両手を握りしめる。


「どんな形になっても、私たちは友達だよ、ルキ」


 少年――ルキはその時優しい笑顔と共に、アルフィナと言う人間に惹かれたのだった。



   ▽




「アルフィナ」


 青年がゆっくりと、やつれた顔をしている人物の頬に手を添え、息をしているのかを確認すると、間違いなく息をしている確認が出来た。

 少しだけ安心を感じた青年は、次にメイド服を着た女性に視線を向ける。


「申せ」

「では、発言をお許しください。まず、勇者アル様が見つかった場所はカビ臭いところの牢獄でした。最近では食事もまともにもらっていなかったご様子。いや、そもそもまともに食事をされていたかどうかは未定です。傷の方を確認いたしましたが……これは、おっしゃって良いのかわかりません」

「構わぬ、言え」

「体中痣だらけでもありましたが、それ以外に……性的暴行も受けていたご様子です。中の方を簡単に確認いたしましたが、傷だらけでした。体は癒す事は簡単ですが、心は……」

「……」

「……私から言えるのは、これまでです」


 ゆっくりと、一礼した後、メイド服の女性――プラムは静かに後ろに下がる。

 青年は表情も崩さず、怒りを胸の中に抑え込んでいる様子だった。同時に、今ここで怒りを露わにしてしまったら、アルフィナが傷つく可能性がある。

 傷だらけの彼女にどのように声をかければいいのか、わからなかった。


 どのような夢を見ているのだろうか――そんな事を考えながら、青年は再度、アルの頬を撫でる。


「ルキ様」


 メイド服のプラムが声をかける。

 彼女は相変わらず無表情で、淡々と話をしているが、ルキと呼ばれた青年の周りには明らかに魔力があふれ出ているのを理解している。

 それほど、アルフィナにこのような仕打ちをした奴らが許せないのであろう。


「……プラム」

「はい、ルキ様」

「お前は引き続きキーファと、そしてアルフィナと行動を共にしろ」

「承知いたしました……それと、キーファ様はいち早く彼らの元へ参りました」

「……全く、キーファは相変わらずだね」


 先ほどの表情と打って変わって、ルキと言う青年はまるで子供のように笑った後、すぐに先ほどの顔に戻る。

 冷たい瞳をプラムに向けている。


「襲撃が起こらないよう三十の結界を張れ。お前如き出来るであろう?」

「無茶を言いますねルキ様……了解いたしました。そのようにしておきます。魔王様はキーファ様の所へ?」

「キーファは優しいかもしれないが……」


 ルキは寝ているアルフィナに一瞬だけ目を向けた後、静かに笑う。



「――俺は、優しくするつもりはない」




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