第09話、三人の幼馴染は仕組んでいた【魔王サイド】


「……本当に【魔王】になるなんて、誰が想像すると思う?」


 呆れたような顔をしながら答えるアルフィナに涙目になりながら正座をしている少年、ルキの姿があった。

 あれから一年、まさかルキが本当に【魔王】になるなんて思いもせず、魔人として覚醒し、同時にあらゆる魔術を完璧にこなすようになってしまったなんて、誰が想像しただろうかとアルフィナは頭を抱え、キーファは笑いながら正座しているルキを見ていた。


「キーファ、笑いすぎ」

「だ、だってぇ……あははは!う、うけるぅ……ヒヒヒッ……」

「……笑いすぎだよ、キーファ」

「だって、あの泣き虫ルキが本当に魔王になるなんて……で、どうするべきですかね、【勇者】様」

「うーん……」


 全く持って、想像できない事が起きてしまった。

 まさか幼馴染が【勇者】になってしまうなんて、そして敵対する【魔王】になってしまうなんて、誰が想像したのであろうか?

 考えれば考えるほど、笑いが止まらないキーファ。

 頭を抱えるアルフィナに、今でも泣きそうな顔をしているルキ。


「ま、まさかアルフィナが【勇者】なんて……ま、まぁ、僕、アルフィナに殺されるなら本望だから」

「何くだらない事言ってるんだよルキ……もう」

「あー、お腹痛い。笑ったぁ」


 キーファは次はどのようにしながらルキをからかおうか考えているのだが、それをアルフィナが睨みつけながら黙らせる。

 流石にアルフィナを怒らせてはいけないと感じたのか、引きつった顔をしながら一歩後ろに下がるキーファの姿があった。


 数日前、アルフィナは新たに誕生すると予言された【魔王】を退治する、【勇者】に選ばれた。

 教会から信託があったらしい。


 そして、新たに誕生すると予言された【魔王】こそ、目の前の泣き虫ルキだった。


 ルキの祖父は以前、【魔王】と呼ばれていた存在だったらしい。

 脅威とはならなかったのだが、その血筋であるルキがこの世界を脅かす【魔王】と言う。

 普通の御伽噺では、【勇者】と【魔王】が敵対し、【魔王】を倒した【勇者】が勝ち、平和が訪れるという話なのだが。

 アルは嫌そうな顔をしながらキーファとルキに目を向ける。


「やめていいかな、勇者」

「そんなことしたら、連れて行かれて処罰されるんじゃない?」

「それも嫌だなぁ……」

「でも確かにこのままだと、アルフィナが泣き虫ルキを倒さなきゃいけなくなるし……ねぇ、アルフィナもルキも嫌でしょう?」

「私は嫌だな」

「ぼ、僕もいや……」

「うーん……」


 キーファは考えるようにしながら二人を交互に見ながら、深く考える。

 アルフィナもルキも、戦いたくない、対決したくない、という気持ちがあり、しかしこのままでは二人は敵対関係という形になってしまう。

 キーファは悩みに悩んで数分。


「……ルキ、今君が【魔王】になったって知ってるの、村の中では私とアルフィナだけ?」

「う、うん……あと、お母さんも知ってる……でも、アルフィナが【勇者】に選ばれたから、1週間後ぐらいにこの村を出る予定……」

「そっか……なら、アルフィナ、ルキ。私達三人だけの秘密だよ」

「え?」


 キーファが突然言い出した言葉に驚いたアルフィナだったが、彼女はにししっと笑うようにしながら答えている。

 昔から良からぬ事を考えるのが彼女の悪いところだなと思いながら、アルフィナはため息を吐いて、頷いた。


「それから私、これから魔力をもっと最大限に引き出して、【魔術師】になるって決めた!」

「え……キーファ、魔術師になるの?」

「そうだよルキ!そんでもって、勇者一向に加わることができれば計画が実行出来る!」

「「けいかく?」」


 キラキラと輝く目をしながら答えるキーファが一体何を考えているのか、この時アルフィナとルキは全く理解出来なかったのだった。



   ▽



「――我が出てきたのは予想外だったか?聖女よ」


 サルサとグリードの前に現れた黒髪の魔人の青年――彼こそ、一年前アルフィナが一生懸命命をかけて倒したはずの魔王の姿だった。

 なぜ倒したはずの魔王が目の前に現れたのか理解できない。

 呆然としているサルサとグリードの間に入るようにしながら笑顔で手を振ってきたのはキーファだった。


「どうして出てきちゃうのかなールキ」

「キーファ。生ぬるいぞ」

「生ぬるくないよ。これからじわじわと断罪する予定だったのに、一気に予定狂っちゃったよ……まぁ、出てくるかなーとは思っていたけど。いつ目覚めたの?」

「一週間前だ」

「予定より二年早かったね。誰かが目覚めさせた?」

「四天王の一人がアルフィナの状況を把握してな」


 冷たい赤い瞳がどこか疲れたような顔をしているように見えるのは気のせいだろうかとキーファは考えた。

 しかし、サルサとグリードは、今の状況を理解できないのか震えながらキーファとルキのやり取りを見ているだけ。

 突然舌打ちをしたルキが二人を睨みつけながらキーファに向けて発言する。


「アルフィナに会ってきた」

「あ、そうなんだ。プラムも居た?」

「……やせ細ってて、まるで人形のような顔をしていた」

「うん」


「……プラムが言っていた。外も、中も、暴行されていた、と」


 忌々しくそのように発言したルキの姿は、いかにも【魔王】と呼ばれていた存在なのだと、キーファはその場で理解するのだった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る