第25話、彼女の笑顔を取り戻す、絶対に②【魔術師サイド】


『――じゃあこれからどうするの、キーファ殿?』


 ギリューとは違う声が、映像内から聞こえてくる。

 キーファが視線を向けると、子供の姿をした可愛らしい男の子がキーファをジッと見つめるように答えている。

 この少年こそ四人目の魔王軍四天王の一人であり、キーファと同様に魔力が強く、『魔術師』として活動している少年だ。

 少年はキーファの発言を待つようにしながら映像から見つめているので、キーファは自分が考えている事を言い出す。


「一つ、まず明日この建物からアルフィナを連れ出して、故郷の村に向かって旅を始める。ついでに冒険をさせたいし」


 アルフィナは昔から、旅がしたい、冒険がしたいと何度も言っていた。

 勇者としての旅は旅らしい冒険ではなかったので、今度はのんびりと故郷まで全てを回れるように彼女の願いをかなえていきたい。


「そしてもう一つ……聖王国を完全に滅ぼすために、『ある人』に力を借りる」

「……ある人?」

『って言うか滅ぼす気満々なんだ、キーファ殿は』

「そりゃぁ……うん、王国も、貴族も、そして暮らしている人々も、アルフィナを『罪人』だと言っていたんだ……絶対に許せないもの」

(本当だったら、私がこの手を使って滅ぼす……ボッコボコにしたいけど、きっとアルフィナはそんな事願わない)


 昔からそのような行動を嫌う、アルフィナにそのような話をしてしまったら、絶対に止めるのは彼女だ。

 感情を失ってしまっても、彼女は彼女のままなのだから、きっと手を伸ばすはずだ。

 だからこそ、勝手だが利用させてもらうのみ。


「実は魔王討伐の旅に行っていた時、アルフィナ達である国の問題を解決した事があるんだ。その時、アルフィナがすごく活躍してね……そこの第一王子にめっちゃ気に入られて、何かあったら力になるって言ってくれたんだ」

「……第一王子、だぁ?」

「ルキ様、魔王顔になっております」


 『第一王子』、つまり『男』がアルフィナを気に入っていた、と言う話を聞いた瞬間、ルキは明らかに魔王様ですと言う顔をし始めたので、キーファは否定する。


「恋愛感情とかはない……と、思うよ。その時アルフィナは『勇者アル』だから、女だとばれていないと思うけど……」

「けど、何?」

「……なんか、胡散臭い顔してたからなぁ、あの王子」


 もしかしたら、アルフィナの性別わかっていたんじゃないかなと思いながら、キーファは一年前の出来事を思い出していた。


 魔王討伐の際にある国に訪れたアルフィナ達は、この国を乗っ取ろうとしていた宰相が悪魔を召喚し、国の人間たちを全て殺そうとしてきた為、アルフィナ達が力を使ってその野望を打ち勝ったのだ。

 その事件を解決したことにより、第一王子である男にアルフィナは随分と気に入られ、何かあれば必ず駆けつけると言う話をアルフィナ、そして隣に居たキーファに言っていたのだ。


「その王子にアルフィナがどのような扱いを受けていたのか、話すと同時に聖王国に攻めてもらおうと思う」

「キーファ様」

「ん?」

「それはつまり――戦争をさせると言う事ですかね?」

「……ん、そのつもりだよ」


 嫌な響きだなと思いながら、キーファは笑いながらプラムの言葉を返す。

 一瞬驚いた顔をしたプラムだったが、すぐにいつもの無表情に戻り、用意しておいた紅茶をキーファに差し出した。


「あなた様が何をしようが、私には関係ございません」

「うん、そうだね」


「――だから、私は最後まであなた様の傍におります、キーファ様」


 プラムは笑う事はしないのだが、その時の顔は何処か心の中で笑っているように見えたような気がした。

 彼女の発言にキーファは再度、嬉しそうに笑う姿があった。

 二人のそのようなやり取りに目を向けている三人の男とカナリア。彼女は静かに息を吐きながら諦めた顔をしている。

 一方のルキは「何処の男はそいつは」とブツブツと呟いている。キーファが言っていた第一王子の事だろう。


『ギリュー、顔が崩れているよ……本当、キーファ殿好きだよね、ギリュー』

『血の果てまで追いかける予定なので』

『だからそれ、ストーカー発言だよ、ギリュー』

「兄がストーカーだなんて考えたくないので、見張りよろしくお願いいたします、ウォーティー」

『え、めんどくさい事引き受けないよ、僕』


 少年――ウォーティーと呼ばれた人物は嫌そうな顔をしながら、プラムに発言するのだった。



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