第06話、恋が憎しみに変わる【聖女サイド】
『――アルが、アルフィナが男じゃなかったから、嫌がらせで『偽勇者』にしたんでしょう?』
(ええ、その通りよ……私は、アルが好きだったのにッ)
体中傷だらけになりながら、何とか一命をとりとめる事が出来たサルサは周りの自分の寝室に視線を向けながら、深くため息を吐く。
身体を起き上がらせようとしても、うまく動かず、声も出せない。
目の前には笑いながら憎しみに目を向けている嘗ての仲間が居た。
(あんたがこの聖王国に帰ってこなければ、アルはあのまま死んでいたのに)
ボロ雑巾のようになって傷ついていくアルが楽しかった。
徐々に弱っていく、アルを見るのが好きだった。
しかし、いつの間にかアルは何も反応する事なく、まるで人形のようになってしまったのは、一ヵ月前の事。
痛みを感じなくなってしまったかのように、悲しみも憎しみも、笑いも怒りも、何もしなくなってしまったアルの姿を見て、サルサは理解した。
おもちゃが壊れてしまったのだと。
それからサルサは徐々にあの牢獄に近づく事なく、退屈な毎日を過ごしていた。
婚約者となり、来月に結婚する聖騎士、グリードとハメを外しながら。
聖女と言う行いを無視するかのように、彼女は楽しんだ。
魔王討伐の時、サルサはまさか自分が『聖女』として選ばれるとは思っていなかった。
元々白魔術を好んで使っていたこともあり、また教会が彼女を認めた事となり、魔王討伐の『聖女』として選ばれたサルサは、初めて恋をした。
華奢な身体なのに、剣術、そして魔術を使いこなす、美しい人物に。
『勇者』アル――それが、彼女にとって初恋であり、美しい『勇者』だった。
討伐が終わったら、サルサはアルに告白するつもりだった。
きっと、断るとは思っていなかったのだ。
彼女は『聖女』であり、『聖王国』の第一王女なのだから、結婚をすればもしかするとこの国の王になれるかもしれないのだから――きっと、アルも承知してくれるはず。
長い長い旅が終わり、そしてアルは見事に魔王を討伐した。
聖王国に帰宅すると同時に、サルサはアルと二人っきりになる事に成功する。
いつもなら幼馴染の『魔術師』であるキーファが隣に居るのだが、どうやら隣国の学園都市に行きたい為、準備をしているらしい。
「あ、あの、アル!」
「あ、サルサ様」
顔を真っ赤にしながら、サルサはアルに近づき、一生懸命言葉を考えながら、思い切って自分の気持ちを伝えた。
絶対に断れるはずがないと、思っていたのに。
「……すみません、サルサ様。あなた様のお願いは聞けないです」
――アルはさっさと、断ってきたのだ。
自分と結婚できるのに。
もしかしたらこの国の王様になれるのかもしれないのに。
「ど、どうして……」
「あの、サルサ様、私はその……女なのです。こんな姿をしているのですが、性別は女性なので、サルサ様とは恋人にはなれないのです」
「え……」
「大変申し訳ございません。失礼いたします」
アルは誰かに呼ばれているらしく、そのまま背を向けて申し訳なさそうな顔をしながら走り出して行ってしまう。
残されたサルサは目を見開いたまま、呆然とその場に立ち尽くす事しかできない。
同時に、アルが言っていた言葉の意味――彼は、彼女だという事を。
あんなに好きだったのに。
生涯、ずっと隣に居てくれる人物だと、思っていたはずなのに。
サルサの頭の中で、全てが崩れ落ちた。
何もかも全て。
そこからの行動は早かった。
サルサの『愛』は一気に『憎しみ』に変わったのである。
「……許さない」
サルサはその場に去って行ったアルに向けて、憎しみの瞳を向けたのだった。
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