第05話、殴り込みにいこう【魔術師サイド】


 自分を転送する魔術なんて、すぐに覚えた。

 今となっては、キーファの得意分野の魔術になってしまっている。

 イメージすれば、どこにもすぐに、簡単に行けるようになった。


 しかし、欠点が一つだけある。

 行った所でなければ、発動しないと言う事。


 アルが閉じ込められていた場所は、古びた牢獄だった。

 その牢獄は行った事もなかったし、場所が聖王国から少し離れた場所にある所だった。

 一年、長い一年。

 彼女は一年、冷遇を受けてきた。


 それに気づかなかった自分自身も、憎くてたまらない。


 キーファは杖を握りしめながら、怒りを胸に閉じ込め、転送魔術を使った。


 魔術で到着したのは、王宮の中だった。

 この場所は以前、アルと二人で歩いていたのに覚えている。

 周りに人がいない事に安堵しながらも、キーファは関係なく進む。

 目指す先は【聖女】と謡われている、サルサが居る場所へ。


(気配から探知すると、寝室か……夜だもんね)


 探知する魔術も得意中の得意だ。

 サーシャはそのまま軽く怒りに任せながら進んでいくと、入り口付近にメイド二名が現れる。

 メイドの一人がサーシャの姿を見て驚き、声をかけてきた。


「え、さ、サーシャ様?」

「……私、あなたと何処かで会ったっけ?」

「あ、あの、一年前に王宮で何度も顔を見た事がございます。あの、こちらは王女サルサ様のお部屋ですが……何か御用でしょうか?」

「あ、君私の顔見た事あるんだね。じゃあ、まず言っておこう」

「え?」

「衛兵でもなんでも連れてきた方が良いよ?」

「え、あの?」


「――私、これからサルサとグリードの二人をボッコボコにする予定だから」


 笑顔でそのように発言した次の瞬間、キーファは扉に杖を向け、そのまま詠唱もなく魔術を放った。


「フレア・アロー」


 簡単に、淡々とそのように告げた瞬間、一気にサルサの部屋だと思われる扉が燃え上がり、そして轟音がなる。

 目の前で爆発音が聞こえたメイドの二人は目を見開き、驚き、一人は腰を抜かしてしまったようだ。

 もう一人は悲鳴を上げながら逃げていく姿を見送り、キーファはそのままゆっくりと前に進む。


 進んでいくと、そこには大きなベッドで寝ている寝間着姿のサルサと、上半身服に着替えていない男、グリードの姿だ。

 二人は突然の爆音に何が起きたのか理解できず、辺りを見回している。

 グリードとサルサの姿を見て嫌そうな顔をしながら、キーファは二人に声をかけた。


「久しぶり、サルサ、グリード」

「え、ちょ……あ、あなた、キーファ?い、いつ帰ってきたの!?」

「キーファ!?な、なんでお前ここに……」

「え、そんなの決まっているでしょう?」


 キーファは笑顔で二人に目を向けると、杖を二回程鳴らし、二人を睨みつけた。



「ボッコボコしに来たんだよ。よくも私たちを裏切ったなクズ野郎」



 一瞬で笑顔がなくなった。

 二人は一瞬驚いた顔をし、怯えた表情を見せたが、グリードが近くに置いてある長剣に手を伸ばそうとした。

 しかし、突然目の前の長剣が簡単に折れ、使えなくなってしまう。


「なっ……」

「悪いけど、一年間平和ボケしていた奴らに負けるつもりはないよ。こちとら一年前より魔術磨いてきたんだから」

「ちょ、ま、待ってキーファ!」

「待たない」


 サルサがキーファに声をかけたが、キーファは聞く耳を持つことはなかった。

 杖の先をもう一回、床を使って鳴らす。

 次の瞬間、サルサとグリードの動きが止まる。

 いや、止まったのではなく、強制的に動けなくなってしまったのだ。

 指先も何もかも動かなくなってしまったが、唯一動くのは、口と目だけだった。


「私とアルが平民だから、蹴落としてもいいと思った?そもそもアルが何をした?魔王を退治したら世界が平和で終わりで、それで終わったからもう用ナシと言う事であんな事したのかな?」

「そ、それは……」

「す、すまないキーファ!俺達は――」

「アルをあんなところに閉じ込めて……死ぬ覚悟は出来てるよね二人とも」

「「ッ……!」」


 『死ぬ』

 その言葉を聞いた瞬間、二人は青ざめた。

 二人が知っているキーファはこのような言葉を口にしなかった。

 しかし、二人には既に武器もないし、サルサはそもそも戦う力を持っていない。

 青ざめている二人に対し、キーファは冷たい目で二人を見る。


「あんなところに閉じ込めておくと言う事はもういらないって事だよね。いらないなら、私がもらっても構わないよね?」

「な、ざ、罪人を助けたと言うの!?」

「罪人?アルは罪人じゃないでしょう、サルサ……君たちとはあまり馬が合わないとは思っていたけど、まさかここまでするとは思わなかった。仲間だと思っていたんだけどね……ねぇ、サルサ」

「な、何よ……」


「――アルが、アルフィナが男じゃなかったから、嫌がらせで『偽勇者』にしたんでしょう?」


 冷たい目でそのように言った瞬間、サルサの顔色が変わった。

 震えた唇で何かを言おうとしたのだが、その言葉を言う前に、キーファは二人の拘束を解く。

 そのままベッドに崩れ落ちた二人に対し、キーファは軽く詠唱を行った後、二人に目を向ける。


「早く帰らないとアルが起きちゃうから早めに済ませないと」

「な、何をする気……」

「え、さっきも言ったじゃん」


 キーファがサルサの問いに笑顔で答えた。



「二人をボッコボコにしに来たんだよって」



 次の瞬間、無数の小さな岩のようなモノが二人の周りを囲む。

 そしてそのまま杖が振り下ろされ――二人の絶叫が王宮から響き渡るのだった。

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