第04話、友人の姿に涙する【魔術師サイド】


 アルが捕まっている場所は、古びた牢獄だった。

 汚れた状態のまま、放置されているような牢獄に、アルは一年過ごしてきたと言うのだろうかと考えると苛立ってしまう。

 苛立ちを抑えながら、キーファは古びた牢獄でプラムと別で探してみる。


(こんなところに閉じこめるなんて……私は何をやっていたんだ!)


 考えれば考えるほど、キーファは苛立ちを増幅させている。

 それと同時に、自分自身に腹が立つ。


 ずっと、魔術の勉強がしたくて、魔王討伐が終わった後、笑顔で送り出してくれた友人であるアルの姿は未だに思い出させる。

 同時に、どうして自分は傍に居なかったのだろうかと考えれば考えるほど、空しくなる。


 傍に居れば、アルの事を助ける事が出来たのかもしれないのに。


(アルフィナ、何処……?)


 奥に進むにつれて、匂いが充満してくる。

 鼻を抑えながら何とか明かりを頼りに辺りを探し回っていた時、別方向から声が聞こえてきた。


「――見つけましたよ、キーファ様!」


 別方向から声が聞こえたので、キーファは急いでその声がする方に走り出す。

 そして、絶句した。


 目の前で、プラムに抱かれている細い体の人物は、一体誰なのだろうか?


 笑う事なく、まるで人形のようにジッと自分を見つめているのは、本当にアルフィナなのだろうか?


 あの優しかったアルフィナ――友人は既に、もう居ないのかもしれない。

 死んでいるのではないだろうかと言う程、アルの姿が酷かった。


「あ、ああ……アル!アルフィナ!!

「……キー……ファ」


 唇を震わせながら、アルは自分の名を言ってくれた。

 間違いなく目の前にボロ雑巾のような姿になっているのは、友人のアルフィナだ。

 急いでアルフィナに近づき、優しく抱きしめる。

 涙を流しながら、何度もキーファはアルの名前を呼んだ。


「アル!アル……やっと会えた!ゴメン!本当にごめんね!!」

「キーファ様」

「ううっ……え、あ、アルフィナ?へ、返事が、ない……」

「大丈夫です安心してください、生きておりますからそんな顔しないでくださいキーファ様」


 動かなくなってしまったアルに気づいたキーファが青ざめた顔をしながらプラムに視線を向けるが、プラムは冷静な対応を見せる。

 息を簡単に確認した後、身体の骨が折れないようにしながらアルの身体を抱き上げる。

 抱き上げると同時に、プラムの表情が変わる。


「……体重があまりありません。本来の一般の体重よりもかなり減っていると思われます……食事もあまり取っていない様子が見られますね」

「……ここの人の形跡はある、プラム?」

「数日前には着来ている様子が見られておりますが……」

「毎日は、来ていないのか」

「そうですね、毎日はないと思います」

「……」


 キーファはその言葉を聞いて、握りこぶしを作る。

 その様子を見つめながら、プラムは何も言わず、落とさないようにアルの身体を支える。


「プラム、私がアルを連れていくよ」

「いえ、キーファ様。キーファ様はこれから体力が必要になると思われますので、そちらに保存しておいてください」

「あ……じゃあプラムに甘えようかな」

「それまでは私がアル様をお守りさせていただきます」


 行儀のよいメイド服を着たプラムと共に、キーファは三人で牢獄の外に出る。

 牢獄の外でまず見えたのは、綺麗な星空だった。

 その星空を見つめながら、キーファは静かに呟く。


「……私はこれから聖王国に乗り込むよ。十分ぐらいで終わらせる予定だからそれまではプラムはここで彼女と一緒に居て待っててくれる?」

「承知いたしました……ここは確か」

「うん、私とアルが暮らしていた、

「……廃村になったと、お聞きしました」

「まぁ、そうだね……崩れた建物がいくつかあるから、そこでアルを見ておいてくれる?」

「承知しました、キーファ様」


 プラムは一礼をし、気絶したアルの身体を落とさないように強く抱きしめる。

 キーファは軽く詠唱のようなモノを行った後、プラムとアルに杖を向けた。

 次の瞬間、二人の姿はなくなり、残されたのはキーファだけだった。


「……さて」


 再度、静かに息を吐いたキーファは、怒りをぶつける為に動き出す。

 目指すは聖王国――アルを閉じ込めた裏切者の二人の所へ。

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