第22話、夜が明けて


「おはようございます、アルフィナ様」


 目を開けると、そこにはまっすぐな瞳でこちらを見つめているメイド服の女性、プラムの姿があった。

 相変わらず、変わらない表情を見せている彼女だったが、アルフィナは目があった瞬間、思わず考えていたことを口に出してしまう。


「プラム、疲れてる?」

「……良くお気づきになられましたね、アルフィナ様」

「なんか、そんな気がした」

「感情が死んでしまった分、敏感になってしまったのでしょうか……いや、そんな事どうでも良いですね。睡眠をあまり取る事が出来ませんでしたので。あの後、四天王四人と、魔王様の五人で、緊急の会議を簡単に行っただけの事なので、アルフィナ様はお気になさらずに」


 気にならないでほしいと言われると、余計に気になってしまうのが人間の性分なのではないだろうかと思いつつも、アルフィナはそんなプラムを見て再度首をかしげていたのだった。


「おはよぉ、アルフィナー……ふぁあ……」

「おはようキーファ……キーファも疲れてる?」

「うん、ちょっとねぇ……ルキに起こされて眠いぃ……」


 そのように言いながらふらふらとアルフィナの所に寄ってきて、近くに腰を下ろすと、彼女の身体の負担にならないようにそのまま近くにキーファが横になってきた。

 再度欠伸をしている彼女の姿を見ながら、アルフィナは無意識にキーファに手を伸ばし、頭を優しく撫でる。

 細い指先だが、キーファはアルフィナに撫でられると思っていなかったらしく、一瞬驚いた顔をしたのだが、また眠そうな顔に戻る。


「ううー……アルフィナの手、ひんやりしていて冷たくて気持ちい……体温あるよね?」

「元々低体温だっただろう?」

「そうだっけ?」

「……多分、そうだったと思う」


 昔はどうだったのか忘れてしまったアルフィナだったが、とりあえず誤魔化しておこうと言う考えになったのでとりあえず誤魔化しておいた。

 頭を撫でた事で安心したのか、アルフィナに目を向けたキーファは起き上がり、そして指を指す。

 指を指した方向に視線を向けると、そこには同じように寝そべりながらため息を吐いている、魔王であるルキの姿があった。


「ルキも、疲れてる?」

「まぁ、魔王だからねぇ……あれから色々と話をして、結論に至らなかったからねー」

「結論、至らなかったの?」

「出なかったって言った方がいいかな。まぁ、結局私とアルフィナの今後は変わらないんだけどさ」


 そのように言いながら答えるキーファの背後から、簡単に作られた朝食をもって食うプラムの姿が。


「キーファ様。パンに野菜を詰め込んだものを用意いたしました。それと、アルフィナ様は多分まだうまく食べれないと思いますので、簡易のスープを用意いたしましたので、お熱いのでお気を付け下さい」

「うわーお腹空いてたんだよ!ありがとうプラム」

「あんまりお腹空いてなかったから、ありがとう」

「いえ、私はこのような事を生業としておりますので」


 そのように言いながら奥に引っ込もうとした時、ルキの腕が上に向けられる。

 気づいたプラムが視線を向けた。


「魔王様も何かご所望ですか?」

「……とりあえず、眠気覚ましになるモノを頼む」

「ではカッファはいかがでしょう?私用に数日前に豆を購入いたしましたので」

「……それで頼む」


 眠そうな顔をだしながら、ルキはアルフィナに目を向けると、昨日の夜のようにいつもの笑顔でアルフィナに向けた後、再度ため息を吐きながら顔を隠した。

 後ろの背中はとても疲れているオーラが出ているように見えたアルフィナは一言。


「――お疲れ様、ルキ」


「…………うん、ありがとう、アルフィナ」


 ルキは顔を向ける事はなかったが、微かに肩が震えているように見えたのは気のせいだろうか?

 首をかしげるアルフィナに対し、キーファはフフフっと笑いながらアルフィナの身体を優しく包み込むようにしながら、彼女の頭も撫でる。


「うんうん、アルフィナはそのまま気づかないでいてほしいなぁー」

「何がだ?」

「なーんでもないよ!それよりご飯食べ終わったら簡単だけどこれからの事を話そうか?」

「これからの事?」


 アルフィナは首をかしげながらキーファを見ると、キーファは再度嬉しそうに笑いながら言った。


「もちろん、故郷に帰る相談だよ!」


 まるで自分の事のように、誇らしげに言った彼女の姿はとても綺麗なんだなとアルフィナはその時感じたのだった。

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