第23話、冒険をしよう!
「とりあえずまだ数日は食事も喉も通らないかもしれないし、歩ける状態じゃないと思うんだよね」
「その分は私がしっかりと背負わせていただきます、アルフィナ様」
「そんでもって、荷物とかは近くの町に行けば買えたりすると思うし……途中で冒険者ギルドに行って、登録してお金稼いだりした方がいいよね」
「……あの、キーファ?」
プラムと二人でどのような計画を立てているのかわからないアルフィナは、キーファの名前を呼んでみたのだが、彼女は今プラムと会話に夢中で話を聞いてくれない。
アルフィナは自分の両手、そして自分の足に目を向ける。
キーファがプラムと話している通り、アルフィナの身体はうまく動かない状況に等しい。
半年以上傷つけられた体に、体力も奪われ、食事もうまくとれる事が出来なかった彼女の身体は限界に等しい。
食事も今うまくとれず、体がうまく動かないアルフィナは既にお荷物と言う状況なのだが、それでも二人は気にせず話を続けている。
ようやくすると、プラムがアルフィナを背負って向かうつもりらしい。
「諦めた方が良いですわよ、勇者様」
突然会話に参加していない魔王軍四天王の一人、カナリアが諦めた目を向けながらそのように発言した。
諦めると言う事はつまり、プラムに抱きかかえられながら出発をしよう、と言う事なのだろうか?
フフフっと笑うカナリアにどのように返事を貸せばいいのかわからないアルフィナはとりあえず、諦めが大事だという事を学ぶのだった。
話がまとまったみたいだったので、アルフィナがキーファに声をかける。
「キーファ、もう出発するのか?」
「うん、なるべく早くね。ここは聖王国の外だけど、近くではある。多分、すぐに見つかっちゃうと思うから、急いでここから逃げた方がいい」
「ああ、それなら納得できるけど……私、抱えられるのか?」
「安心してくださいアルフィナ様、全力をもってお守りいたしますので」
「え、あ、えっと……」
「もちろん、アルフィナの事を考えて休みながら行くつもりだし……それに、せっかくだからさ、冒険もしちゃおうと思って」
「冒険……?」
「冒険するのが、私たちの夢だったじゃない、アルフィナ」
笑いながらそのように答えるキーファに、アルフィナは呆然としながらキーファに目を向ける。
彼女の言う通り、昔はキーファ、ルキ、アルフィナの三人で冒険者になって大きくなろう、冒険しようと良く話をしたことを思い出す。
勇者として旅をしている時は冒険と言う冒険ではなかった。ただ、【魔王】を倒すための、冒険らしい旅ではなかった。
しかし、今回は逃げる為、故郷に戻るだけの、旅。
ゆっくりと、冒険が出来ると言う言葉を聞いたアルフィナは、目を見開き、唇を噛みしめる。
「……行けるの?」
「うん、いけるよ!」
「いろんな所をめぐりながら、冒険していきましょう……もちろん、アルフィナ様の体力も心配しつつ」
「そっちは私とプラムでちゃんと管理す――」
キーファがアルフィナの顔を見た瞬間、動きを止める。
アルフィナの心は相変わらず壊れてしまったままだ。
笑う事も、泣く事も、怒る事もしない、表情は人形のように無表情――のはずだった。
キーファが一瞬見たアルフィナの表情は笑っている事はしていなかったのだが、それでも彼女の瞳は、まるで『あの時』のように輝いていた。
その姿を見たキーファは動きを止め、次の瞬間アルフィナの両頬を鷲掴みにするように掴み、ジッと見つめてきたのだ。
「き、キーファ様!」
「ね、ねぇ、ぷ、ぷら、プラム!わ、私の見間違いなのかな!い、今、め、目が、か、かが」
「落ち着いてくださいキーファ様。顔面がかなり崩れております。あと、アルフィナ様の表情はいつも通りです」
「あ、そ、そう、そうだよね!ご、ごめん痛かった!?」
「……大丈夫だ、キーファ」
次に見たアルフィナの表情はいつも通りの顔に戻っており、キーファは少し残念そうな顔をしながら、その後の話を始める。
「ま、まぁ……その、ね。つまり、とりあえず、色々周ってみようって言う話!勇者の時は全然見て周るって事なかったし!」
「……ああ、そうだね」
笑いながら答えるキーファに頷くアルフィナ。
それと同時に、少しだけ、胸が熱くなるのを感じた。
久々に感じた『感覚』に思わずアルフィナは胸を手で抑えてしまった。
「どうしたのアルフィナ?」
「……いや、なんでもない」
首をかしげるキーファに対し、アルフィナは変わらない表情で否定をし、そしてそのままこれからの事をキーファ、プラムを中心に話始める。
その姿を、カナリアは嬉しそうに見つめ、奥の方では魔王であるルキが三人のやり取りを見つめながら、静かに息を吐く。
それに気づいたカナリアはルキに近づき、声をかけた。
「魔王様もついていきたいのではないですか?」
「……俺にはやる事があるし、まだ本調子ではない……力の全てが元に戻ったら、片づけなければならない事もあるしな」
「聖王国の件ですか?」
「それもあるが……まぁ、聖王国の件についてはカタがつくかもしれないな」
「え?」
「『あの国』はアルフィナの件を聞いたら、聖王国を攻めるだろうからな」
ククっと笑うルキの姿は、もはやあの時の姿はなく、魔王そのものの姿だったと、カナリアはのちにアルフィナに告げ口をするのだった。
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