第49話、いつか、本当の事を語り合う仲になれたら【ハーフエルフサイド】


「……死ぬかと思った」

「生きているのが不思議だと思いたい」


 十分程、ゼロは全身筋肉痛になりながら、その場に動けない状態が続く。

 そんな彼の姿を、アルフィナが指先で軽く突くようにしながら見つめており、そんなアルフィナに対し、プラムが声をかける。


「アルフィナ様、それはやってはいけないですよ」

「どこが痛いのか、調べてみたかっただけだよ」

「それでも痛いですからやめてください。手加減なしで行いましたので……」

「うん、あれは手加減してなかったね、プラムさん……まだ痛い……」


 腕、足などなど、全身を痛みありでマッサージしてくれたことで今まで感じたことのない痛みが今でも襲いかかってきており、ゼロは動けない。

 そんなゼロの姿を、プラムは不思議そうな顔をしながら見つめ、言った。


「この内容のマッサージはルキ様にも行っております。ルキ様は数分で痛みに耐え、立ち上がることができたのですが……ゼロ様、いかがでしょう?」

「……それは、きっと、ルキさんが化け物なんでしょうね……はい……」

(この痛みを数分で完治させたの!ヤバくないルキさん!)


 一体ルキは本当に何者なのであろうかと考えさせられる発言だと、ゼロは思ったのである。


 それから三十分してなんとか起きられるようになったゼロは自分自身の体の変化に気づきながら、指先を一つずつ確認、足などを確認していた。


(すごい……プラムさんのマッサージ、痛かったけどめちゃくちゃ動けるようになってる……)


 そのように感じながら、ゼロはプラムに視線を向けると、プラムはVサインをゼロに向けていたのだった。

 プラムに感謝をしつつ、ついでにふと考えた。


(ルキさんもすごいけど……プラムさんもすごいよなぁ。本当、普通の人間?人間は人間だけど、僕と同じようなハーフだとか?)


 ゼロはそのように考えながら、無意識にどうやらプラムに視線を向けていたのかもしれない。

 彼の視線に気づいたプラムは一度首を傾げながらゼロに目を向けていたのだが、そのまま何も言わず、プラムに目を向けていたため、少しだけ恥ずかしくなってしまったのか、プラムの表情が無表情から少しだけ緩んだ。


(え、表情が変わった?)

「…………ゼロ様」

「え、あ、は、はい!」

「そんなにジッと見つめられると、ちょっと私でもどうしたらいいのかわかりません。出来れば、やめていただきたいのですか?」

「え、あ、ああー!す、すみませんごめんなさい!」

「……ええ、大丈夫です」


 自分もプラムに対して見つめていたなと実感し、改めて謝罪したあと、顔を真っ赤にしながら視線を逸らし、プラムも少しだけ恥ずかしそうな顔を見せながら同じように視線を逸らす。

 そんな二人の姿を見つめていたアルフィナは声をかけた。


「二人とも、顔真っ赤だけど大丈夫?」

「だ、いじょうぶです、多分、はい」

「問題ありません、アルフィナ様」

「それなら良いけど……」


 二人の様子がいつもと違っていたこともあり、少し疑問に抱いたのかもしれない。

 アルフィナの問いに二人は簡単に、はっきりとそのように答え、彼女はそのままゼロに目を向ける。


「……ゼロ、私、ゼロが思っている事ちょっとわかる」

「え、な、何を!?」


 突然そのように言われ、驚いたゼロだったが、真っ直ぐにアルフィナはゼロに目を向けた。

 まるで全てを見透かされているような、そんな瞳に見えてしまい。


「――私たちが、何者なんだろうと思ってる?」


「……え?」


 一瞬、息が止まりかけてしまった。

 本当に、考えていた言葉を口にしたのだから、驚くのも無理はない。

 瞬きもしないような瞳で、アルフィナは相変わらず見つめ続けているのに、少しだけ恐怖を感じてしまった。

 呆然としながら目を見開いた状態でその場に居るゼロに対し、アルフィナは一呼吸して、再度ゼロに声をかける。


「聞きたかったら聞いても良いけど……その覚悟ある?」

「かくご、ですか?」

「うん……そもそも私とゼロは、まだ出会って日も浅い。信じるか、信じないかは、ゼロが決める事」

「……」

「それと、私たちは色々と秘密を持ちながら、この生活をしてる」

「……アルフィナさん」


「触れてみたい?私たちの『秘密』に」


 首を傾げるように、まるで子供のような感じで声をかけるアルフィナの姿が、やはり恐ろしくてたまらなかった。

 ゼロは息を静かに飲みながら、少しだけ考えた後、結論を出す。


「……アルフィナさんと僕は、まだ出会って浅いです」

「うん」

「だからこそ、聞かない事にします」

「良いの?」

「はい。それに――」


 ゼロはふふっと笑いながら、二人に向けて声を出した。


「僕だって、『秘密』持ってますし、実は探っていくのが好きなんですよ」


 そのように言いながら笑うゼロの姿に、アルフィナは少し驚いた目を見せた後、静かに頷いた。

 プラムも変わらない顔を見せながら静かに頷く。


「そっか」


 その一言で、先ほどの会話が終了した。

 アルフィナも、プラムも、相変わらず表情を見せなかったが、それでもゼロは、彼女たちが喜んでいるように見えた。


(けどいつか……本当の事を語り合う事が出来たらいいな)


 ゼロはそのように思いながら、再度二人に向けて笑顔を見せるのであった。

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