第50話、手配書の男【ハーフエルフサイド】
痛みに耐えながら何とか動けるようになったゼロはアルフィナとプラムと別れ、森から出て行った後、いつもの場所に向かう。
森から出ると、見えてくるのは冒険者を中心とした街。
色々な種族が、華やかに暮らしている街の中に入り、ゼロはいつもの道を鼻歌を歌いながら歩きながら、周りに視線を向ける。
そんな中、ゼロを見かけた一人の女性が、声をかけてきた。
「ゼロ、今日は……なんか、痛そうな顔をしているわね」
「ああ、カルメン……まぁ、痛そうな顔をしているのは間違いないよ。体中の節々が死ぬほど痛い」
「今日は確か知り合った女の人?それとも女の子?」
「多分、女の人って言った方がいいかな……相手は別の人を用意してくれていたんだけど、その人も結構強かった……で、全身ボロボロ」
「服も泥だらけじゃない。どんだけ強かったのよその人……」
呆れるような顔をしながら、同時に恐怖を感じているような顔を見せてくる女性は、ゼロにとって大切な友人の一人である。
カルメンと呼ばれた女性は、ゼロと同様にソロの冒険者であり、同じ日に冒険者になった事もあって、仲良くしてもらっている。
彼女にはアルフィナ達の事は話しており、今日は手合わせをしてくると話していたのだが――見事にやられてしまっているゼロを見て、驚いているのであろう。
カルメンにとって、ゼロはそこそこ強い冒険者でもあるのだ。
笑うように答えているゼロにカルメンは身体中に視線を向けるようにした後、呟く。
「うーん、ちょっと私も興味あるわ。Bランクの試験を受けようとしているゼロをコテンパンにやってしまう相手って」
「手加減してもらっているみたいだから、多分もっと強いよ、きっと」
「……その人、冒険者なの?」
「わからないけど、メイド服着てた」
「メイド服の、え?メイド服?」
プラムはメイド服を着ていたのは間違いない。
しかし、カルメンはどうやらそれが信用できないらしく、頭には「?」がついている状態になってしまっていた。
(まぁ、信じられないよね。メイド服を着ていた女性にコテンパンにやられた、なんて)
ゼロもただ、笑うしかできない。
実際、それぐらい強かったのである。
二人で変な笑いをしていた後、カルメンが何かを思い出したかのように鞄から一枚の紙を取り出した。
「そうそう、アンタ『勇者アル』って好きだったよね?」
「え、うん。憧れだからね」
「じゃあさ、『聖騎士』のグリードって知ってる?」
「うん、知っているけど……それがどうした?」
「知ってたんだ。アンタ、『勇者アル』しか興味ないと思ってたけど……」
「名前だけしか知らないよ。そもそも近くで見た事ないし」
カルメンの言葉を返していると、彼女は一枚の紙をゼロに見せる。
突然見せられたモノにゼロは首をかしげながら視線を向けた状態のまま、首をかしげる。
彼女が見せてきたのは似顔絵の手配書だ。
その手配書を見て、目を細めた後、再度首を傾げ、カルメンに声をかける。
「で、勇者と、聖騎士と、この手配書にどんな意味があるんだ?」
「……もしかして、ゼロ知らないの?」
「え、何が?」
「一年ぐらい前、冤罪で『勇者アル』が投獄されて、その首謀者が『聖女』と『聖騎士』の二人だったって事」
「……え?」
ゼロは耳を疑う。
それは一体、どういう事なのだろうか?
初耳だった言葉に、ゼロは目を見開き、その場で固まってしまった。
彼の固まった姿にカルメンは頭を抱えるようにしながら、ため息を吐く。
「その顔を見る限り、知らなかったみたいだねゼロ」
「……初耳だ。一年前って……そんな……だって、こっちには伝わってきてないじゃないか?」
「そりゃそうだよ。だって冤罪だとしても『勇者』が罪人になったんだ。聖王国のお偉いさんたちは隠したかったのさ……おかげで全然そんな噂、広まってなかっただろう?」
「……ああ」
憧れの勇者が、冤罪で投獄された。
魔王討伐の後、どうして表から出てこなかったのか、ゼロは察した。
つまり、投獄されて表舞台から消えてしまったからなのだと納得したと同時に、何故かその時アルフィナの姿が頭の中に浮かんだ。
(……どうして、アルフィナさんが出てきたんだ?)
アルフィナの剣の型は、何処か勇者アルに似ていたからこそ、思わず魅入ってしまい、声をかけ、そして仲良くなった。
数年前、遠目から見ていただけだったが、その時現れた魔物の討伐を行っていたところを通りすがりに見ただけだった。
剣を振りかざす動きがとても綺麗で、美しいと思ってしまった。
その見惚れてしまった相手が勇者だと知った時は、驚いてしまったが。いつの間にか勇者が憧れのような存在になっていた。
「……ショックだった?」
「……憧れの人が酷い目にあっていたのに、全然知らなかった」
「私も数日前に聞いたんだよ。んで、本題はここから」
「本題?この手配書の事か?」
「そう、この手配書」
ゼロの顔に押さえつけるようにしながら手配書を掲げるカルメンに、ゼロはたじたじになりながら何とか後ろに下がる。
少し興奮したような顔をしたカルメンにゼロはまた驚かされる事になる。
「この手配書の顔、その『聖騎士』グリードだって言うんだよ」
「……は?」
カルメンの言葉に、ゼロは低い声を出し、睨みつけてしまったのだった。
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