第51話、グリードと言う男【魔術師サイド】
「キーファ、これ郵便物の中に入ってたんだけど」
「え、何?」
いつものように朝から目覚めたアルフィナは郵便物にあるモノを発見する。
その郵便物を開いて中身を確認した後、キーファが眠そうに起きてきたので問いかけ、郵便物を受け取ったキーファが中身を確認し、頷いた。
「あー……まぁ、手配書は出ると思っていたけどねぇ……」
「キーファ」
「ん?」
「――グリードは私たちの前に現れるかな?」
興味ないような瞳でキーファを見つめるアルフィナに対し、彼女は笑いながら答えた。
「まぁ、恨んでいたら来るかもね」
「そっか」
淡々と答えるキーファに対し、アルフィナも気にしないようにする。
そんな彼女の姿を、キーファは静かに見つめる。
まるで、他人のような素振りを見せているアルフィナに、キーファはつい声をかけてしまった。
「ねぇ、アルフィナ」
「何?」
「――グリードの事、気にならない?一応仲間だったし」
アルフィナをジッと見つめるようにしながら、キーファはそのように発言するが、アルフィナは首をかしげるようにしながら彼女を見つめる。
そしてたった一言、変わらず他人のような素振りで告げた。
「別に?」
「……そっか」
無表情で変わらない顔を見せるアルフィナの表情にキーファはこれ以上何を言っても無駄なのだと認識した。
彼女はそのまま近くに置いてあった本を手に取り、静かに読み始める。
キーファはそんなアルフィナの姿を見ながら、ふと昔の事を思い出していた。
昔のグリードは、努力家で真面目だった。
それは、数年一緒にいたからこそ、彼がどのような性格だったのはわかっていた、つもりだった。
しかし、全てが終わってしまった後、真面目だったグリードが歪んでいく姿を、最初の頃キーファは気づいていた。
英雄と、勇者だの、そのように周りから言われ続けたグリードの性格は徐々に歪んでいき、最終的にはアルフィナを冤罪にかけ、自分自身が『勇者』として聖王国の表舞台に立ってしまった。
なぜ、あの真面目だったグリードがあそこまで落ちぶれたのか、未だにキーファは疑問が残る。
(グリードも、ある意味被害者みたいなもんなんだよねぇ……)
周りからちやほやされてしまったグリードは、崩れ落ちるには時間の問題だったのかもしれないとキーファは考える。
しかし、キーファは救う手を伸ばすつもりはなかった。
その時には既に、キーファはグリードに構っている時間もなく、自分の魔術を極めたい一心で、聖王国を出て行ってしまった後だった。
まさかグリードが聖女であるサルサに唆されて、アルフィナを裏切り、投獄し、そして自分を『勇者』として聖王国の民衆をだますなんて、誰が想像しただろうか?
嘗て一緒に旅していた時、恥ずかしそうな顔をしながら話をしているグリードの事を思い出す。
『実は勇者になりたくて――』
――彼は、『勇者』になれず、『聖騎士』となった。
(なれなかったこそ、努力して『聖騎士』になったって話をしていたよなぁ……)
キーファは『勇者』になってしまったアルフィナのそばにいたい、支えてあげなければならないと思い、自分が出来る範囲で努力して、『魔術師』になった。
勇者一向に選ばれたときは本当に嬉しくて、二人で喜んだ事を思い出す。
あの時のアルフィナの顔は本当に綺麗な笑顔だった。
『やったねキーファ!!』
『うん、これで一緒に旅できるね!』
『私も、キーファがそばで戦ってくれるのは、すごくうれしい!』
二人で子供のようにはしゃいだ事を今でも忘れない。
「……」
「……キーファ?」
何かを考えこむようにしているキーファの姿に気づいたアルフィナが彼女に声をかけるが、キーファは黙ったまま、ぶつぶつと何かを呟いているようにも見える。
このモードに入ってしまうと、アルフィナの声は届かない。
ジッとキーファの姿を見つめていると、そんな二人の姿に気づいたのか、プラムがアルフィナとキーファの間に静かに紅茶を置いた。
「この考えこむモードになりますと、キーファ様は動かなくなりますよね……アルフィナ様、今日はどのような予定で動きますか?」
「昨日と変わらない。今日もゼロと約束しているから一緒に体力作りしてくる」
「承知いたしました」
昨日と変わらない日常を送るのだといった後、アルフィナは椅子から立ち上がり、軽く体を伸ばすようにしながらキーファに視線を向ける。
変わらず何かをぶつぶつと呟いているキーファに、アルフィナは軽く肩を叩き、声をかけた。
「キーファ」
「ふぇい!?あ、アルフィナ……あ、ごめん、またやった?」
「いつもの事だから気にしない。今日の予定だけど、変わらないから」
「あ……体力作りだね、了解。何かあったら――」
「うん、キーファとプラムを呼ぶ」
アルフィナはうなずくようにしながら答え、キーファと約束した後外に出て行ってしまった。
残されたキーファも体を軽く伸ばすようにしながら椅子から立ち上がり、プラムの方に視線を向ける。
「プラム、いつものよろしくね」
「招致いたしました……キーファ様、今日のご予定は?」
「部屋にこもりたいんだけど……こもれない気がする」
キーファはそのように呟いた後、どこか遠い目をする姿があり、その言葉の意味を理解していないプラムは首をかしげるのだった。
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