第48話、彼女は一体何者なのだろう?【ハーフエルフサイド】
目を開けると、じっと見つめてくる人形のような人物が姿を見せた。
その顔に見覚えがあったゼロは急いで起き上がろうとしたのだが、体が上手く動かない。
何故動かないのであろうと驚いた顔をしていると、人形のような人物――アルフィナが変わらない顔で話し始めた。
「無理しない方がいい。ゼロ、今全身が疲れている状態だから」
「え、つ、疲れているだけで!?」
「うん、疲れているだけ。使わない筋肉でも使ったんじゃないかな……もう少し横になっていた方がいいよ」
そのように言いながら、アルフィナはゼロの腕に視線を向けながら、手を伸ばして軽く揉んだりしてくれる様子が見られ、その様子を少しだけ恥ずかしそうに見つめてしまう。
昔から、魔力の流れのようなモノが見えた。
それは、自分に『魔眼』があるのだろうと、両親が話してくれた事を今でも覚えている。
アルフィナの魔力は、憧れている数年前に魔王を退治した勇者、アルと同じ魔力の流れをしている。
その事についてはアルフィナには話していない。
彼女が何者で、どんな人物なのかは、まだ出会ったばかりなのだが――それでも、彼女はとても優しい人なのだと認識する事は出来る。
(勘なんだけどね……)
そのように考えながら、ゼロはアルフィナに視線を向ける。
彼女は透明な瞳でゼロに目を向けて、首を傾げる。
(まぁ……アルフィナさんより、肝心なのはメイドさんと、あとルキさん……あの二人の魔力を見たけど、ヤバい。あれは絶対にヤバいやつ……敵に回したくないぐらい、ヤバい)
ゼロが恐怖を抱いているのはプラムと、そしてルキ――プラム以上にルキの魔力がヤバいと感じたからこそ、一番強いのではないだろうと思い、手合わせ出来たらしてもらいたいと思ったのだが。
『ルキは手加減が出来ない』
アルフィナはそのように言っていた。
手加減が出来ないまま、ルキと戦っていたら、間違いなく死んでいたのではないだろうかとゼロは考えた。
プラムはどうやら手加減をしてくれたらしく、自分に合わして手合わせをしてくれたのだと、やっている最中理解した。
(マジでプラムさん感謝だよ……本当、アルフィナさんとプラムさんのおかげで、もうちょっと頑張れそうかも……)
自分がどのぐらいの力量で、どこまでいけるのか、自分自身でわかっていた。
わかっていたからこそ、もう少し強くなれるのではないだろうかと思い、アルフィナさんにお願いして手合わせをお願いしたのだ。して良かったのだと改めて思った。
相変わらず体を起こしたのだが、起こす事が出来ない。
しかし、アルフィナは休むように言ってくれたので、ゼロは息を静かに吐いて休ませてもらう。
「……ねぇ、アルフィナさん」
「なに?」
「その、ルキさんって、すごく強い?」
「うん、強いよ?」
「今日、もし僕が手合わせを願い出たら、どうなっていただろう……?」
「さっきも言ったけど、ルキは手加減というモノを知らないから、ボロボロになっていたか、死んでいたかもしれない……だからプラムに頼んだ」
「……想像しただけで、怖いんですけど」
「しょうがないよ……手加減を教わっていなかったってプラムが言っていたし、本人も上手く出来ないって言っていたから」
「そっかぁ……でも、強いよね」
「うん、強い」
その時、一瞬だけだった。
透明な瞳に一瞬だけ、光のようなものが見えた。
しかしすぐにそれは消えてしまい、変わらない表情のままアルフィナはゼロを見る。
ふと、ゼロは考えてしまった。
(……そう言えば、アルフィナさんって表情が本当に人形みたいなんだなぁ)
ゼロはアルフィナの過去を知らない。
聞くつもりもないし、これからもそれを探るつもりはない。
仲間でもなければ、ともだちでもない。ただ、この森で知り合った人物、と言う事だけ。
しかし、考えてしまう。
(アルフィナさんは、何者なのだろう……なんて)
「――アルフィナ様が何者なのか、と言う顔をしていらっしゃいますね、ゼロ様」
「うぉ!?」
突然、目の前にプラムの顔が現れたので驚いたゼロは大きく反応を見せてしまったが、その反応と同時に動かなかった体が動き、起き上がる。
同時に起き上がった瞬間、鋭い痛みが全身に襲いかかったため、ゼロはそのまま体が丸くなる。
「い、いだだ……こ、これは、筋肉が……」
「無理やり体を起こしたので、痛みが増したのでしょう。とりあえずゆっくり、また横になってください。今から私がマッサージを行いますので」
「い、いや、そこまで……」
「はい、寝て」
「……はーい」
押し切られるようにとりあえず痛みに耐えながら横になったゼロにプラムは両手の指先を軽く鳴らすようにしながら準備を進めている。
その指の音だけで、恐怖を抱きそうになりながら、ゼロはアルフィナに目を向けた。
アルフィナは一言。
「頑張れ」
「え、何をがんば――」
ればいいのだろうと言おうとした瞬間、この世のものとは思えない痛みが、ゼロに襲いかかったのだった。
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