第31話、聖女を剥奪、そして――【聖女サイド】
サルサが目を覚ましたその日は雨だった。
静かに降り続けている雨に、嫌そうな目を送りながら、サルサはゆっくりと立ち上がるのだが、足に力が入らない。
体中をよく見てみると、痣だらけやケガをしている場所が見受けられる。全てはキーファが行った行為である。
「……
サルサはこの国の王女であり、そして『聖女』と言う肩書きを持っている。
ケガなんて簡単に治せる――そのように思っていたのだが、何故か
「え……」
しばらくその力は使っていなかったのだが、失われているはずがない。それなのに、キーファにつけられた傷が全く治っていない。
驚いた顔をしながら、もう一度同じ、
舌打ちをしたサルサは入ってきた女中に声をかける。
「ねぇ、司教様とか呼んで、ケガを治してもらえるように言ってくれる?」
「あ……そ、その……」
「……どうしたのよ?」
「……」
歯切れが悪そうな顔をしながら笑う彼女に首をかしげていると、突然居室の扉が勢いよく置き、そこに入ってきた人物にサルサは驚く。
「ゴホッ……治りませんよ、その傷は」
軽く咳をしながら入ってきた人物に、サルサは声を出す事が出来なかった。
目の前の人物はただ一言、そのような言葉を告げると、近くにある椅子に腰をかけ、女中を呼び止める。
「悪いけど、彼女と二人にさせてもらっても構わないかしら」
「は、はい!招致いたしました、大司教様!」
慌てるようにしながら女中はそのように答え、急いで部屋から出ていく。
サルサにとって、目の前にいる人物と二人っきりになるのは死んでもごめんだ。急いで出て行ってしまった彼女に再度声をかけようとしたのだが、既にそこに女中の姿がなかった。
唇を噛みしめながら、サルサは自分が寝ていたベッドに座りこみ、目の前の人物に視線を向ける。
「……どういう事ですか、大司教様?」
「言葉通りの意味です。あなたは、既に『聖女』を剥奪された身ですから」
「は、剥奪ッ!」
大司教と呼ばれた人物は平然とした顔でそのように答え、まっすぐにサルサに視線を向ける。
そのまっすぐな瞳が苦手なサルサは嫌そうな顔をしながら言葉を詰まらせたのだが、納得がいかないため、大声を上げながら大司教に向かって叫ぶ。
「ど、どういう事ですか!な、なんで私が剥奪に……だって、私は『魔王』を倒した勇者一行の一人ですよ!そ、それに、『聖女』としてのお役目は果たしているはずです!」
「……本当に?」
「……え、ええ……」
「――それを、陥れた勇者に言えるのかしら?」
「ッ……」
まるで全てを知っているかのような瞳で答える大司教の姿に、サルサは何も言えなかった。
サルサは嫌だったが、聖女としての仕事はちゃんとしていた。王女として、そしてこの国の聖女として、ちゃんと仕事をしてきたはずだった。
しかし――裏ではサルサはアルフィナを傷つけ、貶めていたのも、彼女が行っていたことだ。
大司教は静かに、目を細める。
「他の者たちはあなたを信じ、勇者アルを偽物だと、罪人だと言い、冤罪のまま牢獄に入れ……そしてあなたは彼……いいえ、彼女に何をしましたか?」
「ッ……」
「――私が知らないとでも、思いましたか聖女様?」
冷たい瞳で大司教は笑う。
その笑いに恐怖を感じながら、立ち上がっていたサルサの身体は震え、そのまま先ほど座っていた場所に戻る。
もう一度立ち上がろうとするが、痛みと、そして恐怖で立つ事が出来ない。目の前の人物に反論する言葉が見つからない。
――遅いよ、サルサ
夢の中で、アルフィナが冷たい瞳でそのように言い、自分に攻撃した事を思い出す。
既にアルフィナは仲間でもなければ、友人でもなんでもない。
あの頃の『勇者』であったアルフィナが笑顔があり、良く笑い、そしてサルサに何かがあった時には前に出て守ってくれた、本物の勇者。
サルサはその本物の勇者に、酷い仕打ちをしたのだ。
恨まれるような事をしたのは間違いない――と、サルサはわかっているのだが、それでもあの時は。
(……あの時は、どうかしていたんだ……)
見開くような目をしながら、サルサは自分の両手に視線を向ける。
そんな彼女を見ながら、大司教は静かにため息を吐く。
「今更罪を嘆いていても仕方がない事です、王女様」
「ッ……そ、そんなのわかっています!」
「わかっているなら、行動に移したらいいのではないですか?」
「……え?」
「――ある国が聖王国に戦争を仕掛けようとしているのを、あなたは知らないのですか?」
――あなたたちが行った行為について、らしいですよ。
嫌そうな顔をしながら答える大司教の姿を、サルサは忘れる事は出来ない。
彼女はその言葉を聞いた瞬間、心が壊れかけ始めていたからである。
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