第57話、嫌な感じがする。気のせいだと思いたい。【魔王サイド】


 アルフィナがまだ、グリードと対峙していない時、キーファは目の前に現れた人物に、どのように声をかければいいのか迷うのだった。


「こんにちわ、キーファ様!!」

「あ、あれ?ギリューさん?」

「……………お兄様、なぜこちらに?」

「もちろん!キーファ様にお会いするためです……あ、これ私のささやかなおもてなしの薔薇でございます」

「うわ、赤い薔薇だー!」

「……………………誰ですか、キーファ様に近づけさせて奴は」

「……悪いなプラム、俺だ」

「あれ、ルキ?」


 扉を開けて全力で挨拶してくる魔王の右腕の存在であるギリューが何故か登場し、そしてキーファに赤い薔薇を花束にして持ってきた。

 その後ろで呆れた顔をしながらため息を吐く魔王、ルキの姿だった。

 どうやらギリューはルキが連れてきたらしく、疲れた顔で察したプラムが声をかける。


「魔王様、ではお兄様が外に出ていると言う事は城の方はカナリアが?」

「ああ、アルフィナに会いたいと泣き叫んでいたが、今回はギリューに負けたらしい……まぁ、仕事ばかりだから息抜きにと思ったんだが、間違っていたかなぁ……」

「うちのお兄様は本当にキーファ様一筋ですから」


 呆れる顔をしながらプラムはギリューに視線を向けており、ルキも同様にギリューに目を向ける。

 ふと、呟くようにしながら深いため息を吐くプラムを見た後、ルキは周りに視線を受けると、彼女の姿がない。

 いつもだったらまだ出かける時間ではないはずなのだが、と思いつつ、プラムに視線を向ける。


「アルフィナ様をお探しですか?」

「わかっているなら教えてほしいんだが……」

「朝食を食べ終わった後、すぐにお出かけになりました……相変わらず変わらないご様子でしたが」

「そうか」


 昔から、アルフィナは時間は正しく使う女だと知っている。

 牢獄から出た後も、規則正しい生活をしているのは間違いない。


(……ゼロと言うやつと約束をしていたか?)


 アルフィナの前に突然現れた男は正直今でも気に入らない人物なのだが、どうやら話が合うらしく、アルフィナは最近外に出かけると、ゼロと言う男と一緒にいるようになった。

 彼女が言うには、アルフィナは『勇者』と同じような剣の型を扱うから声をかけてきたらしい。


(いや、本人だからなぁ……)


 アルフィナは『勇者アル』として活動していた。

 彼女が男装して、男となり、『勇者』になったと知っているのはごく一部であり、この中にいる者たちはすべて知っている。

 ゼロは、勇者に憧れを持っているらしいのだが、まさか目の前の本人が実は勇者アルだなんて伝えたら、どのようになるのであろうと考えながら。


「それより魔王様、聖騎士グリードの件なのですが……」

「……ああ。どうやらこっちに向かっているらしいな」

「やはり狙いは、アルフィナ様でしょうか?」

「……」


 聖騎士グリードの事を色々とルキの方面でも調べていたのだが、結果的にどうやらこちらに向かってきていると言う事はわかっている。

 しかし、既に勇者ではないアルフィナを狙うのは、なぜなのか?


「プラムはこのままギリューと一緒にキーファの所にいてほしい」

「承知いたしました。では、魔王様はどうなさるおつもりで?」

「とりあえずアルフィナの所に向かう……何事もなければいいんだがな」


 変わらず、体力作りをしていれば問題なのだが、と思いながら、ルキはそのまま外に出ようとしたのだが、ギリューの事を忘れていたルキは足を止め、声をかける。


「ギリュー、あんまりキーファに嫌がる事をするなよ?」

「魔王様!私がキーファ様に嫌がる事をすると思いますか!?」

「前科があるから注意をしているんだよ……プラム」

「お兄様は私が見張っておりますので大丈夫です」

「プラムまで!?」


 まさか妹にまで言われるとは思っていなかったのか、イケメンの顔が台無しになるぐらい、ショックを受けている。

 日頃の行いなのかもしれない、と思いながらルキは静かに息を吐く。


 外に出ると、日差しがルキを照らし始める。


(今日も暑いな……まあ、よい事だ)


 昔もこのような暑さの中、アルフィナとキーファの二人と一緒に水遊びをした事を思い出す。

 あの頃は勇者でもなく、魔王でもない、ただの幼馴染三人として遊び、暮らしていたはずだ。


 アルフィナが勇者に選ばれたことで色々と変わっていってしまったのだが。


 同時にアルフィナと敵対する形になってしまったルキは、二人と相談し、長年、嘘をつくことになる。

 幼馴染だからこそ戦いたくない。


(……それに、俺……いや、僕は、アルフィナと戦うつもりはないし、殺すつもりもない)


 幸い、魔王となったルキは周りの四天王たちには自分がこれから行う『嘘』を話、理解してくれ、協力してくれた。

 アルフィナ、キーファが前戦に立った事で、何とか出来る作戦だった。

 作戦は成功し、このままめでたしめでたしでは終わらなかった。


 アルフィナが冤罪をかけられ、牢獄に入れられてしまった。


 全ては中心となった、嘗ての仲間たちが仕組んだこと。

 おかげでルキが大好きだった、アルフィナの笑顔が失われてしまった。

 今でも彼らを許すつもりはないし、あの時はキーファの手前見逃してしまったが、次は許さない。

 そんな事を考えながら、ルキは魔力を使って動き、いつもアルフィナがいるはずの場所についたのだが、そこには彼女の姿がない。


「……?」


 ふと、嫌な予感が、ルキに過った。



 

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笑わなくなった元勇者と笑顔を取り戻したい魔術師は新たに楽しい冒険を始める 桜塚あお華 @aohanasubaru

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