第46話、手合わせ相手はメイドさんになりました。

「こんにちわ、アルフィナさん」

「こんにちわ、ゼロ」


 いつものように体を動かしていると、笑顔で挨拶をしてきた青年、ゼロが姿を見せてきた。笑顔のなのだが、少し様子がおかしい。

 アルフィナは首を傾げるようにしながらゼロに視線を向けると、視線を向けられているのが嫌なのか、ゼロは別の方向に目を向けてしまう。


「あの、えっと、その、今日はルキさんは居ないんですか?」

「ルキは別件があって今日は来ない」

「そうなんですね、相談したいことがあったのですが……アルフィナさんは冒険者登録していないんですよね?」

「してる」

「え、してるんですか!?」

「身分証がないから、作らないといけなかったから、一ヶ月前冒険者登録のみはしてある」


 そもそもこの国に入る時も身分証明書が必要だったのだが、アルフィナ、プラム、そしてキーファの三人は持っていなかったので、手っ取り早く身分証明書を作るためには、冒険者登録をした方がいいのではないだろうかと言う事があったので、身分証明書の為に登録はしている。

 しかし、キーファ、プラムの二人は冒険者としての仕事をしているのだが、アルフィナは冒険者としての仕事はしていない。その時は怪我と、衰弱をしていたので動ける状況ではなかったからである。


「最低ランクだけど、一応しているよ。今度、同居人と薬草採取に行こうかって話をしてる。三ヶ月に一回依頼をしないと抹消されるらしいから」

「ああ、そういうルールでしたねぇ……因みに、ルキさんはしているのですか?」

「本人に聞いたことはないからわからないけど、多分していないんじゃないかな?」

「そうですよねぇ……していたら、ルキさんを誘ったのですが」

「何かあったのか?」


 涙目になっているゼロに首を傾げるようにしながらアルフィナが視線を向けると、少しだけ泣きそうになっているゼロはため息を吐きながら話を始める。


「実は今度Bランクになるための試験が行われるのですが……」

「あ、確かこの前言っていたやつだったな」

「そうなんです……ただ、まだ自信と言うものがなくって……僕からしたらルキさんがとても強く感じていたので、もし可能だったらルキさんにお手合わせしてもらう事はできないでしょうかって思って……」

「ルキと手合わせ?それはやめておいた方がいいよ」

「え、な、なぜ!?」


「ルキ、手加減できない」


 アルフィナは淡々とそのようにつげ、ゼロはその発言を聞いた瞬間、その場で固まってしまった。

 手加減ができないと言うのはどう言う意味なのか理解できないまま、静かに首を傾げるようにしていると、アルフィナは続けるようにしながらゼロに向かって答える。


「昔からだけど、ルキは手加減というものを知らない。そもそも、誰もルキに対して手加減というものを教えなかった。前よりかはできるようになったかもしれないけど、それでもできないものはできない……ルキの魔力量、その目で見たんだろう?」

「はい、見ました……バケモノですね、あれ」

「ルキはバケモノなんだよ、ある意味で」

(魔王だからしょうがないかもしれないが……)


 ゼロがアルフィナではなく、ルキに教わりたい理由は、彼が持つ『魔眼』だ。

 ルキの魔力量をその目で見たからこそ、手合わせをしてほしいと願い出たのだとアルフィナは悟る。

 しかし、ルキと手合わせしたいと思う奴などこの世界の中で数人しかいないだろう。それぐらい、ルキは強い方なのだ。

 ため息を吐いて落ち込んでいるゼロの姿。どうやら試験のために強くなりたいからこそルキに手合わせを願おうとしたのだろう。


「……ルキは無理だけど、違う人なら紹介していいよ」

「え?ほ、本当ですか!?ルキさんより強い人!?」

「ルキより強くはないけど、それぐらいの実力を持ってる人だと思うし……まぁ、私は『魔眼』というものはないし、多分だとしか言えないけど、けど、結構よく見てくれると思うよ」

「しょ、紹介してもらっても大丈夫ですか!」

「うん、大丈夫。向こうに言っておく」

「ありがとう!アルフィナさん!」


 嬉しそうに笑いながら答えるゼロの姿を、少しだけ微笑ましく見てしまったアルフィナの姿があったという。


 次の日、アルフィナが連れてきた人物に、ゼロは思わず固まってしまった。

 目の前の人物はとても綺麗な顔立ちをしており、そして『魔眼』で見たその姿は、明らかにルキ同様の力を持つ人物だと、認識することが出来た。

 ただ、一つを除いては。


「……メイド服?」

「初めまして、ゼロ様。私、アルフィナ様のご友人であるキーファ様にお使いしております、メイドのプラムと言います」

「プラムは力強いし素早いし、そんでもって昔、ルキのところでメイドをしていたこともある実力者らしい」

「うん、強いのはわかったけど、メイドさん!?」

「よろしくお願いいたします、ゼロ様」


 ゆっくりと、綺麗なお辞儀をするプラムの姿に、ゼロは大丈夫なのだろうかと不安に思ってしまったのだが、その不安は数分後に一気に飛ぶことになった。

 手合わせを初めてすぐに、ゼロは容赦なくプラムの攻撃に当たり、吹っ飛ばされる姿を、アルフィナが静かに見つめていたという。


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