第27話、彼女の笑顔を取り戻す、絶対に④【魔術師サイド】
朝になり、起きてきたキーファはこれからの事をアルフィナに話す。
故郷に向かう事、そして冒険をする事――アルフィナにとって、『冒険』と言う言葉は憧れであり、いつか行きたいと願っていた事だと、キーファは知っている。
その話をした瞬間、アルフィナの表情が一瞬だけ変わったのをキーファは見逃さなかった。
冒険をしようと言う話をした時にそれは起きた。
「……行けるの?」
「うん、いけるよ!」
「いろんな所をめぐりながら、冒険していきましょう……もちろん、アルフィナ様の体力も心配しつつ」
「そっちは私とプラムでちゃんと管理す――」
笑顔でその言葉を向けた時、キーファの両目は見逃さなかった。
無表情だったアルフィナの表情が一瞬だけ、輝いているように見えてしまったのだ。
間違いではなく、心からの喜びのような、そのような表情に。
次の瞬間、キーファはその姿を見逃すわけにはいかないと感じたのか、勝手に両手が動き出してしまった。
両頬を鷲掴みするようにアルフィナの顔を固定する。
そして、近くに居たプラムもキーファの行動に驚いた顔をして急いで彼女を止めようとしたのだが、キーファは止まらない。
「き、キーファ様!」
「ね、ねぇ、ぷ、ぷら、プラム!わ、私の見間違いなのかな!い、今、め、目が、か、かが」
「落ち着いてくださいキーファ様。顔面がかなり崩れております。あと、アルフィナ様の表情はいつも通りです」
「あ、そ、そう、そうだよね!ご、ごめん痛かった!?」
「……大丈夫だ、キーファ」
両頬を鷲掴みにされたアルフィナが大丈夫なわけなかったはずなのに、それでもキーファの興奮は収まらない。
少しだけ諦めていた。
心が壊れてしまった彼女が、もしかしたら二度と笑わず、人形のように毎日過ごしていくのではないだろうかと何度も考えてしまっていた。
しかし、先ほど表情が一瞬だけ変わっていたのは、間違いないと認識する事が出来る。もしかしたらのもしかしたら――彼女の心が癒えれば、笑える事が出来るのではないだろうか?
――昔の彼女に戻る事が出来るのではないだろうか?
『キーファ!』
昔から、笑顔があふれていたアルフィナの姿を、キーファは思い出す。
魔王討伐の旅でも、仲間を励まし合って、毎日笑顔を見せてくれた彼女。本来ならば、アルフィナ自身が辛いはずなのに、それでも彼女はいつも笑っていた。
キーファはアルフィナの笑顔が本当に好きだった。
討伐が終わった後も、勇者ではなく、友人として傍に居るつもりだった。
今でもその気持ちは変わらない。
アルフィナから少し離れたキーファは同じ目線で彼女に目を向ける。その視線に気づいているアルファナは首を傾げた。
「アルフィナ、聞いても良い?」
「……何、キーファ?」
「――冒険に行くなら、何をしてみたい?」
『冒険に行こう!』と言う話はしてみたが、彼女が何かやりたいと言う事をあまり聞いた事がなかった気がしたので、聞いてみる事にした。
アルフィナはキーファの問いに少しだけ考えるような素振りを見せた後、答えを言う為に再度キーファに目を向ける。
ただ、その一言だけだった。
「色々な世界を、見てみたい」
変わらない、無表情の顔だったが、アルフィナの目は何処か輝いているように見えたのは間違いなかった。
彼女自身、本当に『冒険』と言うモノをしてみたかったのであろう。その気持ちは、心の奥底で眠っていたモノだ。
アルフィナの言葉を聞いたキーファは変わらない笑顔を見せながら、頷いた。
「それじゃあ、色々な所を回りながら、冒険していこう!そうだなぁ……最初の街に行ったら、まず美味しいモノを食べよう!体系とか戻さないといけないしね」
「……自分で動けるようにならないといけないな」
「そうだね!」
今のアルフィナはまだ自分で動ける状態ではない。
まず、体力から動かさないといけないと話をしながら、キーファは笑う。
アルフィナは相変わらず無表情のまま――せめて、自分が笑い、彼女が安心する事が出来ればと考えながら、そのままアルフィナの頬に手を伸ばす。
「キーファ?」
「ごめんね、アルフィナ」
キーファはそのまま彼女の負担にならないように、ゆっくりとアルフィナの身体に手を伸ばし、優しく抱きしめる。
変わってしまった事もあるけれど、彼女は間違いなくキーファの幼馴染で、最高の親友と言える存在、アルフィナだ。
アルフィナを傷つけた元、仲間たちの事は許せないし、『偽勇者』として祭り上げた聖王国の奴らもまだ許す事は出来ない。自分の中に『憎しみ』と言うモノはまだ残っている。
キーファはこれから、汚い事に手を付ける事があるかもしれない。
(この先、どんなことが待ち受けても、私は勇者を、友人を絶対に守る)
両手が真っ赤に染まろうとしていても。
(もう一度、彼女が笑う事が出来るように)
キーファは唇を噛みしめながら、出てきそうになる涙を抑えながら、いつか彼女が笑える日が来るように、決心を心の中に秘めるのだった。
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