第28話、目指すは故郷へ、冒険の旅を


「ハンカチ持った?」

「持った」

「飲み物装備した?」

「鞄の中に入っている」

「あとは――」

「キーファ、私は子供ではないぞ?」

「ああ、ごめんごめん。あと、武器は一応持っておいた方がいいよね。勇者の頃に使っていた長剣は聖王国に置いてきちゃったから、次の町で使えそうなやつを買おうか」

「それぐらいのお金、あるのか?」

「大丈夫大丈夫!プラムを雇えるほどのお金、たんまり持ってるから!」


 笑顔でそのように言うキーファの姿に、アルフィナは「おお」と呟きながら両手で拍手を送るのだった。

 あれから数時間後、アルフィナはプラムとキーファの助けがあって、なんとか準備をする事が出来たのだが、それでも両足はまだ動かない。せめて動くのは両手と上半身のみ。下半身はまるで石になってしまったかのように動かない。


(逃げないように、痛めつけられたのも原因だよな……)


 牢屋に幽閉された時、逃げられないように足中心に痛めつけられた事を思い出す。だからこそ動かないのであろうと思いながら、アルフィナは自分の右足に触れる。

 触れたところで何も感じない。もしかしたら本当にこのまま、一生動かないのではないだろうかと言う気持ちになっていたのだが、それを遮ったのはプラムだった。


「足が動かない事を気にされておりますか、アルフィナ様?」

「ああ……もしかしたらこのままなのかなとさっき思って……」

「それは大丈夫です。確かに傷が多いですが、一番の原因は栄養が全身に行きわたってないだけの事です。十分は休息と治療を行えばきっと大丈夫です」

「それは本当に?」

「ええ、本当です。まだ歩く事は厳しいですが、私が保証しましょう。私、生まれて初めて嘘をついた事がありません」


 プラムはそのように言いながら少しだけ目をキラキラとさせている様子が見られている。その姿に、少しだけ勇気づけられたアルフィナは静かに頷く。

 彼女を見ていると、信じていいような気がしてならないのだ。

 しかし、それでも迷惑をかけられないような感じがしたアルフィナはせめて歩く事は出来なくても、立つことぐらいは出来るだろうかと思いながらチャレンジをしてみたのだが、それでも彼女の両足は動かなかった。


「アルフィナ」


 ふと、奥に居たルキが彼女の身体を支えるようにしながら、ゆっくりと後ろに回り、彼女の身体を起こしてくれる。

 両足が微かに震えながらも、何とか立つ事が出来たアルフィナだったが、まだ不安定な状態。ルキがアルフィナの身体を放してしまったら、多分倒れるかもしれない。思わずアルフィナはルキの手をしっかりと握りしめた。


「ま、まだ、立つのは難しいな……支えてもらって済まない、ルキ」

「あ、う、うん……アルフィナの身体ってこんなに柔らかかったっけ?」

「え?」

「な、何でもない!うん、なんでもないから!!」

「ルキ?」


 顔を真っ赤にしながらルキは慌てる素振りを見せており、そんなルキの姿に首をかしげながら見ている事しかできない。

 その後、ルキは軽く咳払いをした後、彼女のを身体を支えるようにしながら、笑みを零す。


「僕はやる事がまだたくさんあるから一緒に行動する事は難しいから、今回プラムを一緒に同行させるよ。やる事がだいぶ終わったら、今度はギリューをそっちに向かわせるから……いいよね、キーファ?」

「え、ギリューこっちに来るの!?私は別に構わないけど……ギリュー私たちの方に連れてきたら大変じゃない?」

「任せっぱなしだからね、そろそろ開放してあげないと、向こうが何をするかわからないぞ、キーファ?」

「うーん……説得力のある話だ」


 キーファとルキがそのように会話をしている中、アルフィナはただルキに視線を向けており、何も言わない。

 彼女の視線に気づきながらも、キーファと話をしているルキに対し、アルフィナは静かに問いかける。


「……当分はお別れ、と言う事か?」

「まぁ、そうなるね……『魔王』としての役目がまだ終わってないし……終わり次第、きっとアルフィナ達の所に戻るよ。まだ君が心配だから」

「……そうか」

「……もしかして、寂しい?」

「寂しいかどうかわからないが、出来ればまだ一緒に居てほしい気がする」

「うっ……!」


 アルフィナの突然の発言に、まるで心臓を何かに貫かれたような感覚を覚えたルキは、この場に残っても大丈夫なのではないだろうかと言う気持ちになるのだが、そんな事を考えているのはお見通しだと言う顔をしている無表情のプラムがルキに目を向けている。

 睨みつけられているのではないだろうかと考えながら、ルキは首を横に振る。そしてそのままアルフィナの頭を優しく撫でる。


「必ず、また君の傍に居るから……それまで待っててくれる?」


 少しだけ寂しそうな顔をしているルキに、アルフィナは変わらない顔で静かに頷いた。


「魔王様」


 プラムが手を伸ばしたので、ルキはアルフィナをプラムに託す。

 アルフィナの身体を優しく、そしてしっかりと支えるようにしながら、プラムと一緒に動き出す。


「勇者様、仕事が終わり次第魔王様と共に向かわせていただきます!」

「カナリアもまた会おうね」

「……魔王様、やっぱり私も残「ダメだ。俺だって我慢しているんだから」


 勇者様LOVEのカナリアは涙目になりながらアルフィナに手を伸ばし、ルキに引きずられるような格好になった彼女の姿が少しだけかわいそうに見えてしまった。


「図太いですから大丈夫ですよ、アルフィナ様」


 フォローなのかわからない発言を、プラムが言った。


 そして、アルフィナはプラムに支えられながら、一日過ごした小屋を出る。

 外に出ると、まぶしい太陽がアルフィナの身体を照らす。


「あ……」


(そう言えば、太陽を見るの……久しぶりかも)


「行こうアルフィナ!」

「ああ、キーファ」


 嬉しそうに笑いながら答えるキーファの姿を見たアルフィナは、ゆっくりと彼女に手を伸ばし、しっかりと手を握りしめたのだった。

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