第4章 第53話 白いハンディクリーナー

僕たちは登山をしていた。


今登ってる山のふもとのマノカナクリフという街に馬車や日常で使う荷物をあずかってもらい、非常食などの最低限の装備でリビュードラを目指して山を登る。


しかし、僕だけ他の人に比べて荷物が重い。


国王から貰った金貨500枚がなかなか減らず、まだ10枚くらいしか使っていなくて490枚近く残ってる。


この世界には銀行に相当するシステムが無く、自分のお金は自分で持っていくしかない。


「ねえ?みんな僕の金貨を1ひとり50枚くらい貰ってくれない?」

と僕が言うと


「それは一郎に任せるよ」

と健太が言うとみんな頷いた。


「それは一郎くんが国王陛下からたまわった金貨です。

私たちがおいそれと頂くわけには参りません。大変だと思いますが一郎くんが持っているべきなのだと思います」


……そんなわけで僕はみんなより遅れて歩いてる……


歩く→疲れる→休む→【アベル商店の掃除機】のダイヤルを【疲】に回してスイッチを入れて疲れを吸い取る→休みが終わってまた歩く


これを繰り返すと日が暮れてきた。


「ここらあたりで休みましょうか?一郎くん、佐藤さま、中村さまはテントを張ってください」

ラポーナさんが僕と健太と雄一に指示をすると、美咲がダルそうに僕に頼みごとをしてきた。


「ねぇ~一郎、ハンディクリーナー貸して……私疲れちゃった……」

「わかった。使い終わったらみんなの疲れも吸い取ってよ」

「りょぉ~か~い」

僕は白いハンディクリーナーを取り出すとダイヤルを【疲】に回して美咲に渡すと、美咲がハンディクリーナーを見つめながら僕に質問をした。


「ねぇ~一郎、このハンディクリーナーって名前あるの?」

「……特に決めてないけど……なんで?」

「大きい方の掃除機は名前あるじゃん?」

「ああ、【アベル商店の掃除機】だね」

「じゃあ、私がこの子の名前つけてもいい?」


……この子ってハンディクリーナーの事かな?


「……別にいけど」

「えーとね、ハンディークリーナーだから略してハナちゃん!」


……僕の白いハンディクリーナーは『ハナちゃん』と美咲によって命名された……ハナちゃんって……


この後、僕と健太と雄一がテントを張ってると女子たちが白いハンディクリーナー……いや、ハナちゃんをペットに見立てて遊んでる美咲の声が聞こえた。


「さあ、アリー!ハナちゃんがアリーの疲れを取ってくれますよー」

とか

「ラポーナさぁん!ハナちゃんが疲れを取りに来ましたよー」

とか


……ハナちゃん……ハナちゃんかぁ……


僕はモヤモヤした気持ちでテント張っていた。

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