第3章 第38話 捕まってピカピカにする

僕たちはソードアに到着してすぐに街の人たちに囲まれて捕らえられた。




「この人達を薙ぎ払ってヒミッゾのところへ一気に行こうぜ!」

健太は剣を抜いて戦うことを主張するが、ラポーナさんは平和的解決を望んだ。

「まだヒミッゾの情報をていません。ここは街の人たちの話を聞いてみましょう」


こうして、モタモタしているあいだに全員捕まってしまった。


……ミレイを除いて……


ミレイは獣人としての能力を存分に発揮して、んだりねたりして逃げて行った。


そもそも普通の人間がなんの知恵も道具もなしに獣人を捉えることは出来ない。


僕らはなわしばられ、歩いて街中を進む。

街の中は縄で縛られた人が6人も役人連れられているというのに、いたって平和な日常の風景だ……


通りには市場が開いており、いろいろな屋台が並んでる。

今夜のおかずの材料をを肉屋で求める主婦、きれいな装飾品を眺める若い女性3人組、酒を飲みながらフラフラ歩いてるおじさん、ボーっとこっちを見つめる子供たち……


僕たちをガン見する人からチラ見する人、全く興味がない人まで様々な反応だったが、捕まってから一つも思いがずっと心の中でモヤモヤしている。


……恥ずかしい……


捕まって縄で縛られてるのが恥ずかしいのか?

役人と一緒にいるのが恥ずかしいのか?

変態仮装行列みたいに徒党を組んでみょうチクリンな行進をしてるのが恥ずかしいのか?

それが全部なのか?


……わからない、でも恥ずかしい……


僕は下を向いて歩いていたらやがて行進が止まり、牢屋へと閉じ込められた。


牢屋に入ると食事と尋問とトイレの説明を受けた。


食事は1日2回、朝と夕方にもらえるらしいが、ミレイが作ってくれる食事に比べたら食えたもんじゃないだろう。


尋問は健太から順番に1人づつ受けるらしい。


問題はトイレだ。


牢屋の奥にレンガで1メートルくらいの高さ仕切しきりがあり、その奥がトイレらしいのだが、美咲が利用しようとして仕切りの奥をのぞくと……


……美咲は嗚咽おえつらしながら……ひざまずいて……泣いていた……


「くさい!きたない!無理!! こんなところじゃ無理だよう! 私、死にたい!!!」


いつも明るく元気でくじけた姿を見せたことがない美咲が、こんなに情けない姿を……僕は初めて見た。


ラポーナさんとアリーが美咲をなぐさめるが美咲は泣き止まないので、とりあえず、僕もトイレをのぞいた。


…… こ れ は ひ ど い ……


僕は【掃除屋】として本格的にこの【最悪のトイレ】を【極上のトイレ】にするべく、いつの間にかトイレブラシを持っていた。


そして、トイレはピカピカになっていた。


トイレ掃除の記憶は無い。


何故なら、掃除前のトイレを見た記憶と掃除した記憶をハンディークリーナーで吸い取ったからだ。


憶えていないから何とも言えないけど、余程汚 よほど きたなくて、思い出すと吐き気がするからだろう。


当然、美咲のトイレ掃除前の記憶を吸い取った。


「……一郎……ありがとね……ありがとね……」


男子は耳を塞いでトイレの反対側の鉄格子から外を見て美咲が終わらせるのを待った。

そのうち誰かに肩を叩かれて振り向くと美咲はスッキリした顔で終わらせた。


美咲が無事に用を足せたようで何よりだ。



さて、トイレがピカピカになったら牢屋自体の汚さが目立って見えるようになった。


健太が「なあ一郎、この部屋の方もどうにかならないか?」と言うので、「任せてもらおう」と僕は答えた。


健太の期待に応えるべく伸縮可能モップを取り出した。


壁、天井、床、鉄格子……部屋の隅々までモップでサッと拭くと僕たちが入れられた牢獄はピカピカになった。


仕上げは消臭スプレーでもう何の匂いもしない。


匂いがしなくなって初めて気づくけど、さっきまでカビ臭かったんだ……そんな余裕まで出てきた。


「一郎くん、一郎くん、お話があります」

僕はラポーナさんから作戦を聞いた……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る