第1章 第4話 お皿を洗う

「どうも、掃除屋です!おひとつ如何いかがですか?」


僕は掃除屋として営業を始めた。まずは居酒屋だ!


居酒屋というのはとにかく汚れるものである。

お皿、ジョッキ、机、床……食材の汚れもそうだが油汚れがいちばん執拗しつこいだろう。


僕はおもむろに居酒屋に入って掃除のバイトをする交渉を始めた。

開店前で料理の仕込みをしている最中だった髭面のガッチリした体型の中年男が面接として話しかけてきた。


「掃除のバイトがしたい?」

「はい!皿洗い、ジョッキ洗い、机拭き、床掃除、窓ふき・・・何でもやります!」

「じゃあ、まず皿洗いからやってもらおうか……賃金や待遇の話はその後だ」


スンナリと交渉がまとまり皿洗いから始めることにした。


その時、不思議なことが起こった。


汚れたお皿を一枚持つと右手で雑巾を取ろうとして右手を見ると、何故か、既にスポンジを持っていた。

「このスポンジ……いつの間に持ったのだろうか?」

「まあ、いいか・・・お皿を洗うか・・・」


いつの間にか持っていたスポンジを汚れたお皿をサッと拭いたら突然お皿が光りだした。

「まぶしっ!」


眩しいと思った次の瞬間、左手に持っていた汚れていたはずの皿はピカピカに輝いていた。


僕は何が起こったのかわからなかったけど、頭を巡らせ一つの結論にたどり着いた。

「僕は掃除をしようとすると、その掃除に適した最高の道具を取り寄せることが出来る」


どういう仕組みかは全く分からないけど今は考えるのはやめて、とりあえず皿洗いを続ける。


皿洗いと言っても汚れたお皿をスポンジで サッ と拭くだけでピカピカになるほど綺麗になるので【皿なぞり】という方がしっくりきそうだ……余計なことを考えていないでサッサとお皿を洗った。


1枚2枚3枚10枚20枚50枚70枚……皿洗いは加速していく……


100枚近くの皿洗いが終了すると同時にレベルがまあまあ上がっていったようでレベル8くらいなってた気がする。


何故気がするかは8回くらいレベルが上がったような音が聞こえた気がしたのだ。


「大将、皿洗い終わりました」

僕は料理の仕込みをしてる最中の男に声を掛けた。


男はキョトンとした顔をして答えた。

「……そんな早く皿洗いが終わる訳ないだろ?そんなウソをつく暇があったらサッサと皿を洗え」

「ウソじゃないのでお皿をチェックしてもらっていいですか?」

と僕が言うと渋々料理の仕込みを中断して手を拭き、お皿をチェックする。


「まぶしっ!」

男は目を瞑り両手で目をふさぐように両手を構えて驚いた。


あーやっぱみんな僕と同じ感じで驚くんだあ……

僕が洗ったお皿の眩しさに耐えられる人間は、僕を含めてこの街にはいなさそうだ。


「こりゃ驚いた・・・じゃあ次はジョッキとホールの方も頼む」

男はそう言うと少し動揺を隠せない様子で料理の仕込みに戻った。

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