第3章 第36話 掃除機を持ってる理由を知る

そうかぁ……ラポーナさんが魔王四天王に知られているのは、生まれたての【魔帝まてい】を連れて行った人物から魔王に教え込まれて四天王にまで伝わったからなのか……


すっかりタルタルチキンバーガーを食べ終わっていた健太がラポーナさんに質問した。

「俺よくわかんないんだけど、その魔帝っていうのは魔王と何が違うんですか?」


「魔王は魔帝の部下です。魔王の数は不明ですが、我々が目指す【魔王ザルド・ダークネス】も数が不明な魔王の一人です。

……ですが、その魔王の居場所がどこだかわかりませんから、四天王に【魔王ザルド・ダークネス】の場所を聞き出して倒しましょう!

そうすれば、あなた方4人は元の世界に帰れます」

ラポーナさんは笑顔で説明してくれた。


……【魔王ザルド・ダークネス】を倒せば、元の世界に帰れる……


「よし!【魔王ザルド・ダークネス】を倒せばクラスメイト全員で元の世界に戻れるのか……頑張ろう!」

僕は思わず声を上げると間髪入れずにラポーナさんが答えた。

「それはわかりません」


……え?


「帰れるって言ったじゃないですか?!」

僕はラポーナさんに顔と顔を限界ギリギリまで近づけて言った。


「そもそも魔狼まろうのようなレベルの低い魔物の魔力では何万匹倒しても皆さまの誰一人として元の世界に帰れません。

ですが、魔王四天王の魔力量でようやく一人帰れる量であることはわかりました」


……眉毛一つ動かさずに凛々しい表情でラポーナさんは続けて答えた。


「ただ、残りの28人分の魔力を【魔王ザルド・ダークネス】が持ち合わせているかが不明なので、

つまり、一郎くん、佐藤さま、山田さま、中村さまの4人分の帰還に必要な魔力は、四天王4人分で十分じゅうぶんに確保できますが、ほかの方々は【魔王ザルド・ダークネス】の魔力で何人分の帰還に必要なな魔力が確保できるかどうかは、不明ということです」


……と言い終わると凛々しい顔がいきなり、意味ありげな笑顔に変わりタダでさえ近い顔を更に近づけてきた。


「一郎くんが顔を近づけてきたという事はキスするんですね!

いいでしょう!

さあキスをしましょう!


愛を!


愛をお互いの口の中で交じり合いましょう!!」


ラポーナさんが早口で近づいてきたので、僕はりラポーナさんから離れ2,3歩後 ぽ あとずさりをして逃げた。


「うふふ、そんなに恥ずかしがらなくても……」

とラポーナさんが僕に再びせまろうとすると

姉弟子あぁねでぇしよぉお……そぉの魔力まぁりょくぅはどぉおこにたぁあめておるのぉだぁあ?魔力まぁりょくぅはぁ魔石まぁせきぃにしかぁたぁあめられんぞぉ!魔石まぁせきぃがぁひぃとつもぉ見当みぃあたらなぁいがぁ、どぉこぉにぃたぁあめておるんだぁあ?」


雄一がラポーナさんの方に手を置いて顔を横から近づけながら聞いた。


するとラポーナさんは、まるでお気に入りの服が突然のアクシデントで泥だらけになったような、いやなイヤ~な表情でつぶいた。


「姉弟子と呼ぶのはヤメテ、わたしアイツの弟子でしなんかじゃないから!」


……雄一の師匠ってラポーナさんに嫌われてるんだ……僕は無関係な人間関係の修羅場しゅらばを知ってしまった……


ラポーナさんは気を取り直して、いつもの凛々しい表情に戻って静かに言った。

「魔力をどこに溜める?

……と中村さまは仰いましたが少し考えればわかる事で……」


……!!!……そうだ!【緑魔蝗石りょくまこうせき】がコードレス掃除機に変化へんげしたのはそういう意味があったのか!……


僕はラポーナさんの説明を受ける前に理解した。


「一郎くんの【アベル商店の掃除機】の中です」

ラポーナさんはそのまま静かに話をつづけた。

「一郎くんが『吸引道具として一番優秀なもの』を【緑魔蝗石りょくまこうせき】が察知してコードレス掃除機の姿となりました……

……ゆえに【アベル商店の掃除機】は魔力を吸い、その魔力は【緑魔蝗石りょくまこうせき】の姿を変えた【アベル商店の掃除機】に溜め込まれと言う事です」


「【緑魔蝗石りょくまこうせき】も魔石の一種です。姿を変えたとは言え、魔狼や四天王の魔力は【アベル商店の掃除機】にそのまま溜まってると思われます」


……魔王の配下を倒すと僕たちが元の世界に帰れる仕組みはだいたい分かったが、僕にはもう一つ疑問があった……


「ちなみに魔力以外に吸い込んだ……とりかぶとの木とかも溜め込まれているってことですか?」

と僕がおそるおそる聞くと


ラポーナさんは突然困った顔で口を開いた……


「魔力以外は専門外なのでそれはわかりません」


僕の疑問は解消しなかった。

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