第3章 第37話 佐藤健太と語り合う

話をしていたラポーナさんはみんなより遅れて食事取ることとなった。


冷めた【タルタルチキンバーガー】を口に運ぶと豪快に一口ガブリと行く。

夢中でモグモグ味わい、のどを通して胃袋へ……


「おぉーいしぃー!!なぁんて美味しさなんでしょう?!」


冷めても美味しい【タルタルチキンバーガー】を笑顔で食べるラポーナさんはまるで子供にでも戻ったような、かわいいリアクションをとった。


……ラポーナさんにもこんな一面があるんだな……


僕がラポーナさんを温かい目で見つめていると、健太は剣の鍛錬を、雄一は馬の世話を、美咲は盗賊道具の確認を、アリーは弓と矢の手入れをして、ミレイは僕の膝で寝ていた。


ラポーナさんが食べ終わると僕は片づけをサッサと済ませて、馬車はソードアに向けて出発した。





美咲は昼夜問ちゅうや と わずに御者をやってるけど、昼は雄一が、夜は健太が、お互いに交代して馬車の御者になる。


夜の馬車の中では揺られながら雄一、ラポーナさん、ミレイが眠ってるが、僕とアリ―がなかなか寝付けない。


僕はささやく声で話しかける。


「眠れないの?」

「うん、イチルウが……もうすぐ帰るかもしれないと思うと寝付けなくて……」

「僕はここにいるし、まだ帰れると決まったわけじゃないから……」

「でも、いつかは帰るかもしれない……そう思うと……」


前に話した時と逆だ。前は僕が悩んでてアリーが慰めてくれて……


……よし、アリーの悩みを解決しよう!


「アリ―の悩みをハンディークリーナーで吸い取ろう……」

「ハンディクリーナー?」

「小さい掃除機だよ」

「それって考えてる事だけ吸うの?」

「そうだよ。記憶は吸わない、アリーは僕の事を何一つ忘れないよ……」

「私、イチルウの事一つも忘れたくない……」

「でも寝ないと明日がツラいからね、悩みだけ吸うんだ。信じてくれるかい?」

「うん!イチルウの事は信じる!」


僕は白いハンディクリーナーを出してダイヤルを【悩】に合わせると、アリーの頭に当てる。


クゥゥゥゥン……


馬車が出す音より小さな音でアリーの悩みを吸い取るとアリーはすぐに寝た。


……いい夢を見るんだよ、おやすみアリー……


たまには健太の御者に付き合ってみるか……馬車の先頭にある御者の席まで僕は移動する。


「一郎どうした?寝ないのか?」

「うん、少しね……少し、話をしないか?」

「ああ、俺はいいぞ」


僕は健太と美咲の間の席に座って健太にひそひそ声で質問をする。

「美咲って昼夜問わず御者やってるけど寝なくて平気なの?」


健太は言った。

「美咲って、実は盗賊スキル【半睡眠】により御者をしながら寝ることが出来る」

「……御者しながら寝てるんだ……」


僕の右にいる美咲を見ると遠い目をして、まるで人形のように馬の手綱を持っていた。


「1つだけなら何かしてても寝てるそうだ」

健太が前の馬の様子を見ながら答えると僕は質問をした。

「ところで夜の馬車を走らせても大丈夫なの?」


「馬ってさ、1日3時間くらいしか寝ないらしくて、15分~30分しか眠ないから10回ぐらいに寝たり起きたりを繰り返すらしい。

昼は馬が草を食べるから、昼も夜も小休憩をコマメにはさみながらゆっくり進むのさ……

……さてそろそろ休憩するか……」

静かに話しをしていた健太が美咲に命令口調で言った。

「おい美咲!そろそろ休憩するぞ!」


人形のように不自然な動きをしながら、美咲は健太の手綱捌たづなさばきに合わせて馬を制御して、街道を歩いていた馬を草むらにみちびいて街道から少しは連れたところに馬車が止まる。


「ここから30分休憩する」

「話し相手がいなくて寂しくないかい?」

「6人も仲間がいるんだ、寂しくなんかないさ」

「いや、夜一人でさ……」

「馬を見ながらずっと考え事をしてるよ」


健太は星があふれんばかりの夜空を見上げて言った。

「ちょっと前まではさ、『なんで俺がこんな世界に……』って思ってたけどさ、加藤さんや田中くんを見たら『俺もしっかりしなきゃ』って思ってさ……

……一郎もそう思うだろ?」


……ドミルガンに捕らえられた後にトールス・ドイムに連れ去られた加藤さん、トールス・ドイムに捕まり加藤さんと魔力を抽出ちゅうしゅつされる儀式の生贄いけにえにされそうになった田中くん……


……ふたりは助け出した後に、今は王都で客人としてもてなされてるってラポーナさんが言ってたけど、元気だろうか?……


僕はふたりの事を思い浮かべながら健太に返事をした。


「うん、クラスのみんなと一緒に帰りたいよね」

「一郎が一番大変だろうけど頑張ろうな」

「大変なのはみんな同じだよ。

でも、帰れるその日まで頑張り続けるよ」


車輪が止まった馬車の御者席で僕たちは語り合った。


「馬はもう眠りについてる。一郎、お前ももう寝ろ、明日キツイぞ」


健太が気を使ってくれたので僕も寝るために、人形みたいな美咲を横目に馬車の中の僕の寝るスペースへ向かい、ハンディクリーナーを出してダイヤルを【悩】に合わせて自分の頭に当ててスイッチを押す。


クゥゥゥゥン……


僕は考えてることが無くなり、やがて眠った。

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