第1章 第6話 伝説の始まり

僕は三つ編みの女性に疑いの目で見られてる。


女性に感情むき出しで見られる機会が少ない僕にとって、妙齢みょうれいの女性に見つめられるとドキドキして自分を見失いかける。


しかも疑いの目で!


さっきまで自信がみなぎっていたはずの僕は落ち着くために呼吸を深くゆっくりとしながらしゃべりだした……

「こ、今夜あたり・・・町中で・・・噂になりますよ」


女性と話す機会が少なすぎて緊張してる自分を何とか落ち着かせながら続けた。

「【アシカの髭亭】がピカピカになっていた……ありゃ誰の仕業だ……ってね!」


「……それで……結局何が言いたいんですか?」

三つ編みの女性は更に疑いの目で見つめながら言う。


「僕に掃除のバイトをさせてください、それだけです」


このままではらちが明かない事に気づいた三つ編みの女性は口を開いた。

「じゃあ……とりあえず、そこの机を綺麗にして見せてよ」


言われた瞬間、僕は右手でサッと机を拭く。


「まぶしっ!」

三つ編みの女性は叫んだ。


僕はこのピカピカに磨いたら驚かれるコンボを、もう慣れたかと思ったが突然叫ばれるとやはりビックリする……でも嬉しかったりする。


僕はいつの間にか持っていた雑巾で三つ編みの女性を指しながら言った。

「どうですか?この宿をピカピカにしたくないですか?」


三つ編みの女性はメースィーと名乗り僕に【大通り3番目の宿屋】全体の掃除と洗濯を任された。

掃除の方は【アシカの髭亭】と同じくアッサリピカピカに仕上げたが、洗濯の方は少し悩んだ。

結論から言うと洗濯も掃除と同様に綺麗にすることも出来る……出来のだけれども……


雑巾でサッと服を拭くと汚れが落ちてパリッと仕上がった。


モップでシーツを拭くと、服と同様に見た目は綺麗になり触り心地はフカフカになった。


服に雑巾……シーツにモップ……どう考えても、違和感と罪悪感がぬぐえない。


「やっぱ洗濯は水と洗剤で洗って天日干しにするのが一番良いよね」

そう思い、次から洗濯は遠慮したいと言ったらメースィーが少し残念そうな顔をした。


この人は感情がすぐ顔に出るらしい。そんなメースィーは笑顔で僕に話しかけた。

「あと、少ないですが、こちら賃金です。……明日も来ていただけるとありがたいのですが……」


金貨2枚と銀貨5枚貰いながら僕は言う。

「予定が空いていたらまた来ます」

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