第1章 第9話 命名される

「そんなことよりラポーナさん……ちょいと事件が起きましてね……」

クデーゲがラポーナに重い口調で話しかける。


「いいでしょう。【アベル商店】に展示していた、あの大きな緑色の宝石の原石のような石の塊【緑魔蝗石りょくまこうせき】の話をしましょう」

ラポーナは真剣な面持おももちで言うと、静かに続けた。

「あれは3ケ月ほど前の話です」

「遠くの空がなっていき、その暗さは徐々に我が国に近づいてきました。

そのはやがて漆黒となり、段々我が国の空を覆いつくし、やがて我が国は真っ暗な闇となりました」


美咲が小さい声で

「うわぁ……まるで蝗害こうがいみたい……そうか……【緑魔蝗石りょくまこうせき】の蝗の字は【蝗害こうがい】の蝗なんだ……」

と呟いた。


ラポーナの話は続いた。

「闇の中で何かうごめいていると思えば、小さな塊となっていきました。その塊にめがけて空をおおいつくしてたがドンドン集まって大きな塊となりました」

「そして空をおおいつくしていたは全て塊に吸引されて大きな塊となりました」


クデーゲが少し不機嫌に、横から口をはさんだ。

「その塊をこのクデーゲが見つけて持ち帰り、国王に献上したところ我が店【アベル商店】で置くよう言われて、その【緑魔蝗石りょくまこうせき】はうちの店で展示していたのです」

ラポーナは横目でこちらも同じくらい不機嫌に言った。

「【緑魔蝗石りょくまこうせき】が現れてから魔族の出現、被害が報告されるようになりました。きっと、不吉なものに違いないので城に置いておくわけにはいきません」


ここでラポーナは少し笑みを浮かべて話をつづけた。

「……ですが、【緑魔蝗石りょくまこうせき】は高橋さんが持つコードレス掃除機という異世界の道具に変化しました」

「国としては不吉なものが消えて万歳バンザイ、【アベル商店】としては邪魔な展示物が退いて万歳バンザイ、高橋さんは魔道具を得て万歳バンザイ、と三方得して一件落着ですね」

ラポーナはそう言って締めくくろうとしたが、クデーゲが待ったをかけた。


「ラポーナさんよぉ……そりゃ合点がてんがいかねぇえなぁ……」

「確かに最初はいらねぇーモンを押し付けられた気でいたが、展示してるうちに買いたいって言ってくる奴がいてさあ」

「断るのに苦労したんだぜ……だから、タダで、しかも他人に口外しちゃいけねぇ異世界人に、モノが渡っちまったとあっちゃあ、こちとら言い訳に骨が折れるのよぉ……」

クデーゲは実はうっぱらって金に換えたかったのを黙って、グダグダ言ってきた。


ラポーナが面倒くさそうな表情をすると何故か雄一が口を開いた。

「つまぁり、クデーゲ氏はぁ石を保管していぃた手数料てすぅうりょぉ異世界人いぃせかいじん隠匿手数料いぃんとくてすぅうりょぉう、石の購入こぉにゅぅうお断り手数料てすぅうりょぉなど、なぁあにかぁねぎらいが欲しいぃ・・・とぉいうわけですぅなぁあ」

「夕暮れの魔術師さん、その通りです!流石はおさとい」

クデーゲは手をパーンッと打ち、雄一に指を向けてそう言っては笑顔になった。


ラポーナがさらに面倒くさそうな表情すると今度は健太が口を開いた。

「じゃあ、一郎が持ってる掃除機を【アベル商店の掃除機】って名付ければいいんじゃない?」

美咲が被せて言った。

「あ、それ知ってる!ネーミングライツってやつでしょ?野球場とかコンサートホールとかに企業の名前を付けて建物の持ち主が企業からお金貰うヤツだ!!」


つまり、クデーゲは宣伝料として掃除機に変化した【緑魔蝗石りょくまこうせき】を一郎に進呈し、一郎は掃除機を【アベル商店の掃除機】と名付けることで行く先々でアベル商店の宣伝をすることでネーミングライツとする。


「まあこれならいい訳も立ちますし、いいでしょう」

クデーゲは腹の中では不満タラタラだったが、表には出さずスンナリ納得したように見せた。

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