第2章 第25話 食べる

僕たちはカーフスタンの居酒屋に来ていた。


別にお酒を飲むわけではなく、この世界で外食出来るのが宿屋か居酒屋しかないのでとりあえず居酒屋で食事を取ろうという流れになった。


「腹が減っては戦は出来ぬ、まずは腹ごしらえだな!」

と健太が言うと、美咲も口を開く。

「保存食、不味まずいもんね……」


わぁれらは全員、料理りょぉーりが出来んからしてぇー!

保存食に頼らざぁるを得なぁい!

味は我慢だぁ!生ぃきてるだけで儲けぇものだぁ!」


雄一が言うと僕が補足で「一回料理に挑戦したけどお腹下しちゃったしね」と言いながら思い出していた。




保存食があまりにも不味まずいので、王都からカーフスタンに来る旅の途中に一度だけ料理を作ってみようということになった。


まず、アリーが6匹の鳥を弓で狩って、美咲が薬味もしくは食べられそうな草を探し、健太と雄一がその鳥をさばいて、ラポーナさんが調理をして、僕が片づけをして……


……鳥の香草焼きと草のスープが完成した。


その料理を食べた結果、美咲とアリーは何ともなく、健太は元々胃腸が丈夫で少しお腹を下した程度で済み、逆に雄一は胃腸が弱く一日中腹痛が収まらず、ラポーナさんは3日ほど寝込んでいた。


……調理した鳥が少し生だったようだ。


美咲は盗賊のスキル【食毒耐性】を取得してたので食事において毒や病気になることがないそうだ。

何を喰っても食中毒を起こさないなんて羨ましい。

そういえばフグの肝を食べても平気と言ってたな……


実はアリーは一口しか食べなかったから何もなかったけど、アリーが残した鳥の香草焼きをラポーナさんが食べたので……


ラポーナさんが3日も寝込んだのは食べ過ぎと食中毒が一緒に来た感じかなぁ……


……ちなみに、僕の病状はというとみんなの真ん中くらいの症状で、腹痛で横になりアリーに看病されながら3時間寝てたら立ち上がれるようになった。





僕が旅の途中に調理しようと思わなければ今後2度と起きないことを思い出しながら、みんなは料理を注文していた。


健太はワイルドボアのステーキ、美咲はグラタン、雄一はキンメダイのアクアパッツァを頼み、みんなに少し遅れて僕はトマトソースパスタを注文した後に驚きの言葉を聞いた。


「私は鳥の香草焼きをください」

……ラポーナさんが鳥の香草焼きを注文している。

3日寝込んだ原因の料理をアッサリ注文できるなんて余程の好物なんだろう。


あとアリーの注文は特殊で、塩だけ味付けしたパスタにスライストマト乗せたモノと野菜の塩スープ……スープというよりぬるま湯に塩を適量入れて野菜を入れただけの汁だった。


エルフであるアリーにとっては人間の調味料は合わない……


もしかしたら保存食の味に一番苦労してるのはアリ―かもしれない、と心苦しく思っていると、料理が一品づつやって来て、来た順番に食べ始めた。


やっぱり、出来立ての料理は美味かった。


みんなが笑顔になりながらむざぼって、僕が思ったのは、

「この美味しいパスタを口に入れて、味わってる瞬間が永遠にタイムリープすればいいのに……」


この美味しいパスタを口に入れて頬張ほおばるという行為を永遠に続けたかった……けど、次第に料理は僕らの胃袋へ収まり、僕らの幸せな時間は終わった。


それでも、僕たちは満腹感という新たな幸せを得ながら、勘定を済ませて店を出た。


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