第25話♡:勇者とメイドの甘美な時間3

◆◆◆◆


 先日、ベッドの中で会話をしている最中に行ったキスとは根本的に違う。


 唇と唇が隙間なくピッタリとくっつき、口の中にさわやかなミントの香りが広がる。


 まるで、強制的にミリアの唇の柔らかさを私の唇に覚え込ませるかのような口づけ。


 そして、ミリアは唇を付けたまま、徐々に私の身体に体重を預ける。私は身体を支えられなくなりベッドの上に押し倒された。


 ようやく唇を離すと、銀色の糸のような唾液が私とミリアの唇を一瞬だけ結び解けるように消えた。


 ミリアは私の上で馬乗りになり身動きが取れない。さらに、今の出来事が強烈過ぎたため思考がまとまらない状況だ。

 

「『我慢していた』ということは、セツナ様も”シ”たいということでよろしいですか。」


 ミリアは眼鏡を外し髪の毛を結ぶ。黒縁の眼鏡を外し、前髪を下ろすだけで、野暮ったさが一切なくなり洗練された大人女性に見える――いや、実際、ミリアはこちらの姿の方が自然体なのだろう。


 淫靡で蠱惑的な笑み――高揚した表情を浮かべるその姿は、まるで色気が具現化したようだ。


 私は操られるようにコクリと頷いた。


◆◆◆◆


 ミリアは私の顔を両手で抑え、再び私の顔に自身の顔を近づけた。


 私はキスをされるのかと思い目をつむるが、いつまで経っても唇に先程の感触は無い。


 ゆっくりと目を開けると鼻先がくっつきそうな程、顔を近づけて私を覗き込んでいる。


「可愛らしいキス待ち顔ですね。」


 ミリアはクスリと笑うが、いつもの柔らかな笑顔が嘘のようだ。その瞳の奥には欲情を孕んでおり、今すぐにでも行為が始まりそうである。


 吐息がかかるほど近い唇を開きミリアは話始めた。


「セツナ様、1つ確認しておきたいことがございます。セツナ様は童貞では無いと思っているのですが、私の認識に間違いございませんか。」


「ああ、女性経験は少ないが童貞ではない。実家にいた頃に卒業はしているし、騎士団時代に上司に連れられて娼婦を買ったこともある。」


「安心しました。私……抑えきれそうに無いので……もし、これが初めてなら、トラウマになってしまうかも知れませんから……。」


 ミリアは右手を私の首筋そして、乱れた胸元に這わせる。


「セツナ様、女性も発情してしまうことがあるんです。好きな男性と共に何ヶ月も過ごし、こちらからアプローチをしているにもかかわらず全く手を出してもらえず――かと言って私に対して劣情を抱いていないわけでもない。大切に思って頂いていることは感じますが……。先日、アル様がミラの首輪を外した際に、ミラの姿に見とれていましたね。」


「あ……あれは……。」


 確かに、あの時のミラの姿には目を奪われた。しかし、


「でも、ミリアと初めて出会った瞬間の方が衝撃的だった。」


「ありがとうございます……。でも、私……厚かましいのですが、少しだけ嫉妬してしまったんです……。だから、今晩は私に付き合って頂けますか?」


 ミリアはグリグリと自分の下半身を私の下半身にこすりつけた。布を2枚挟んでいるが、ジットリと湿っていることが感じ取れる。


「最後に確認いたします。もし、セツナ様が私の相手をして下さるのであれば、私はこれから身動きの取れないセツナ様の唇を、私の唇と舌で蹂躙し、”あそこ”が空っぽになるまで何度も何度も腰を打ち付けます。今、セツナ様の眼の前にいる女は、ベッドの上では百戦錬磨の淫乱女――いえ、発情しきった一匹のメスです。セツナ様も欲望のままに動く一匹のオスとなり、私と交わって頂けると考えてよろしいでしょうか。」


 思えばミリアが私の家に来たあの日、こうなることは決まっていたのかも知れない……。


 私を縛る呪い……それを破るかのようにミリアが私の前に現れたのだ……。


 私は首を縦に振った。


 その瞬間、ミリアの唇が私の唇を塞ぎ、閉じた私の前歯を舌先でノックするようにトントンと叩く。


 条件反射で口を開けると、間髪入れずにミリアの舌が口の中にニュルリと滑り込み、私の舌に絡みつく。


 今まで私の行ってきた口づけがまるで遊びのように感じる程、濃厚な接吻。


 何分間、唇を擦り合わせ、舌を絡めあったのか分からない――。


 静寂の中、二人の微かなあえぎ声と、唇の間から鳴る水音だけが艶めかしく鳴り響いた。


 このまま時が止まれば良いとすら思えるような濃厚なキスを交わし、ミリアは唇を少しだけ離す。お互いに舌を伸ばし合い、名残惜しげな舌先が最後に離れると、ミリアはメイド服のポケットの中から避妊具を取り出し私の手に握り込ませた。


 これは水魔法を応用したもので、男性器にあてがうと男性器を包み込む膜が発生し、精液を遮断するアイテムだ。


 早速つけようとするとミリアが私の手を抑えた。


「これは、出そうになってから付けても遅くはありません。」


 私はドキリとしてギンギンになっている下半身をよじると、ミリアは更に身体を倒し私の耳元唇をつけ囁いた。


「でも、頑張って我慢して下さいね。じゃないとパパになっちゃいますよ。」


◆◆◆◆


 重だるい身体を無理やり起こし頭を抑えると、手のひらからくしゃくしゃになった未使用の避妊具が落ちた。


 シーツがこれでもかと思うほど乱れ、ぐっしょりと濡れている。そして、生臭い――発情した男女が交わりあった香りが、昨晩の出来事が夢ではなかったことを物語っていた。深呼吸をすると微かなミントの香りを感じドキリとする。


 大きく伸びをしてから身体を起こしキッチンを覗くと、メイド服をピシッと身に着けたミリアが、鼻歌を歌いながら朝食の準備をしていた。


 昨晩、普段の姿からは想像も出来ないような蕩け顔を晒し、発情したメス猫のような声を上げていたことが嘘のようだ。


 ミリアはこちらに気が付き、「セツナ様、おはようございます。お早いですね。」と声をかけた。時計を見ると、いつも通りの起床時間だ。習慣は恐ろしいものだと思いながら昨晩のことを謝罪した。


 というのも昨晩は我慢が効かず、何度もミリアの中に何度も注ぎ込んでしまったのだ。「もし”出来てしまったら”責任は取るから。」というと、ミリアは料理の手を止めてクスクスと笑う。


「すみません。昨日は安全日です。それに私、赤ちゃんが出来にくい体質なので――。」


「でも昨晩、我慢しないと”出来てしまう”って……。」


「あれは冗談です。セツナ様に少しだけ意地悪をしちゃいました。私、無責任に扱われても大丈夫な身体なので――とても都合が良い女なんです。」


 この時、笑顔を浮かべるミリアの目の奥に、悲しさ――憂いを帯びているように見え、何も答えることが出来なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る