第3話:新人ギルド職員と勇者3
◆◆◆◆
ディアの汗で濡れた前髪が垂れ下がり私の頬を撫でた。私の両手は尚も彼女と指を絡めたまま、芝生の上に力強く押し付けられている。
初めの内は足をバタバタと動かし暴れていたが、ディアはまるで”もう逃げられない”ことを分からせるかのように、更に前傾になる。
ミリア程の大きさはないがシャツの下から十分に主張をしている両胸が少しずつ眼の前に迫り両眼を塞いだ。柔らかな感触が顔全体を覆い心地よい気分となるが、それは一瞬で、鼻と口が塞がれ息が出来ない。次第に苦しさが勝り、足で地面をタップしながらフガフガと「ギブアップ」を宣言した。
「やった!やった~!!!ようやく、セツナさんから一本取った!!!」
ディアは体を起こし、喜びの声を上げながら私の上で跳ね回る。
彼女が前後に揺れるたびに彼女の張りのある柔らかな尻が私の下腹部を刺激する。
サポ課の制服である分厚いズボン越しでも、彼女の尻の大きさと形がハッキリと分かるくらい、私の下半身に尻を押し付けながら何度もグラインドさせ喜んでいた。
この状況を誰かに見られたら、あらぬ勘違いを起こされかねないと思い「ちょっと」と声をかけるが、彼女には聞こえていないようだ。
ディアの動きを手で止めようにも、彼女の指と私の指がしっかりと絡んでおり動かす事が出来ない。体をくねらせ、何とか彼女の尻の当たる位置を変えようとしたとき、ディアはピタッと動きを止め、再び顔を寄せた。
「私の両親って、二人共、元騎士団員なんです。なので子供の頃から『体を鍛えなさい』って教わってきました。特に騎士は体幹が重要だと言われたので――」
ここまで話すと、それまで絡めていた手をほどき、シャツの1番下と下から2番目のボタンを外し、豪快にガバっと自らのシャツをめくり上げた。
「見てください、この腹筋!結構自身があるんですよ~」
と嬉しそうに話す。確かに――シミ1つ無い綺麗で健康的な腹筋だ。褐色の腹の中央には薄っすらと縦線が一本入っており、脇腹は美しく流線型にくびれている。
(しかし、この状況は先程よりも更にマズイのでは無いか……!?)などと考えていると、
「おいおいおい――お前ら、そういう訓練を外でやるのはマズイだろ……」
と聞き覚えがある気の抜けた声が聞こえた。びくりと身体を震わせ声の方を見ると、ルークが訝しげな表情で近づいてきた。
ディアも我に返ったのか裏声で「す……すみません。」とあやまり、顔を真赤にしながら慌てた様子でシャツを下ろしボタンを締め立ち上がった。
私もようやく開放されディアに続き立ち上がり、焦りながら「ち……違う、聞いてくれ。これは訓練で……」と弁解したが、ルークはニヤニヤしながら私の言葉を遮るように話しを始める。
「お邪魔しちゃって申し訳ないね……様子を見に来たら、仲良くヤッているみたいじゃない。ただ、面倒事だけは起こさないでね。」
そして、くるりと向きを変え、ギルドの方へと歩き出した。私はルークに駆け寄り「別に、やましい事をしていた訳では――」と言うとルークは、
「まあ、『クラウディアちゃんと力比べをして、お前が負けた拍子に押し倒された』って、とこだろうな。つまり、お前は男なんだから力負けするなってことだ。」
と飄々とした口調で言い放ち、私の頭をくしゃくしゃと撫で、再びギルドの方へと歩き出した。
”全くフザケたヤツ”だとは思うが、これは彼なりのコミュケーションの取り方なのだ。大方、急遽ディアの教育係を押し付けたので、上手くコミュニケーションを取れているか心配になり見に来たというところだ。
まあ、来るタイミングは最悪だったのだが……。
ディアの方を見ると、ポカンとした表情でルークを見ていた。しかし、私がディアを見ていることに気がつくとパタパタと小走りで近づいてきて耳元で囁いた。
「さっき……その……固くしていましたよね。”お尻”と”おっぱい”、どちらが良かったですか?」
そして、シャツをチラリとめくりウインクをした。
◆◆◆◆
「セツナ様、私、本日の業務はもうすぐ終わりますので、もしよろしければ一緒に御夕食いかがですか?」
ギルドのテーブルを拭きながらミリアが声をかけてきた。
彼女の服装はいつものメイド服ではない。白いブライスに深緑色のロングスカート、そして胸下がしっかりと固定され、胸を強調するように仕立てられたチェック柄のエプロン――ギルドの給仕服を身に着けている。
先日からミリアはギルドの給仕スタッフと調理スタッフを兼任している。私の部屋が狭いためメイド以外の仕事をする時間があるとのことで、週4日程、ギルドの仕事を手伝ってもらうこととした。
ミリアと私の関係についてはギルド職員のほとんどが知っている。ミリアが自己紹介の時に、私の家でメイドとして働いていることを話したためだ……。
まあ、数日の間はスタッフ達からイジり倒されたのだが……。
「終わったらすぐに行くから、先に席を取っておいてくれ。」
そう答え、本日分のレポートの執筆を行った。
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