第2話:新人ギルド職員と勇者2

◆◆◆◆

 

「まず、この国には治安維持を行う組織が3つあるのは知っているかい?」


「”騎士団”と”治安維持隊”と”冒険者ギルド”ですか?」


「その通り。」


 挨拶を済ませた後、ディアに”この国の冒険者ギルドの立ち位置”に関する説明を行っている。


 自身の所属する組織が”誰のために”、”何を行う”組織なのか分からずに仕事をするのは酷だろう。


 まあ、短い期間だが騎士団に所属していたようなので、既に知っていることかもしれないが――ということで、ある程度端折りながら説明を行った。


「”騎士団”は国王直属の部隊で国内外の問題を解決する組織、今は、特に戦後復興に力を入れているそうだ。次に”治安維持隊”、治安維持機構という国家機構の組織で、国内の治安維持に努めている。そして我々の所属する”冒険者ギルド”、ギルドは民間の組織で、騎士団や維持隊の手が回らない仕事や、民間人から持ち込まれたトラブルに対し冒険者達を斡旋して解決する組織だ。」


「つまり、ギルドは”冒険者に仕事を紹介する、何でも屋”的な立ち位置ってことですか?」


「まあ、そうだな。猫探しから魔物の討伐まで何でも引き受ける。そのため、仕事量が多いので、城下町にも東西南北の4箇所にそれぞれ冒険者ギルドが設置されている。ここは東ギルド。この他に、冒険者への仕事の斡旋は行わず、各ギルドの運営を管理する中央ギルドもある。」


 ディアは難しい顔をしながら顎に手を当て上を向いている。考え事をしているのだろうか。「どうかしたか?」と聞くと


「いえ、国を復興させるためには騎士団が頑張らなくちゃ駄目なんだって思っていました。でも、人々の生活により近いのは、冒険者ギルドなんですね。」


と話し「よーし、がんばるぞ~」と大きな声で叫ぶと、両頬を両手でパンッと叩いた。


◆◆◆◆


 王国の城下町は高い塀で囲まれており、塀の外は豊かな自然が広がっている。城下町の東門から出てすぐ脇に森があり、その森を抜けた少し先に開けた場所がある。ここは魔物達もあまり出現しない静かな場所であリ、セツナ達の務めるギルド施設からも近いため、ギルドのサポ課スタッフたちの修練場所となっていた。

 

 ギルドの説明を行った後に、セツナはディアをここに案内した。理由はもちろんディアの実力を測るためだ。

 

 初めて訪れた場所に困惑しているのか、キョロキョロと辺りを見渡すディアに、私は「では、始めましょうか――」と声をかけ木刀を構える。


 正眼の構えよりも少々刃先を下に落とし、手を少しだけ前に伸ばす。ディアはハッとした表情で、「もう始めるんですか?」と言って、慌てた様子で木剣をこちらに突き出し半身に構えた。

 

 対峙しているにも関わらず、どこか集中力に欠けるディアに「どうした?」と尋ねると、ディアは困惑した様な表情を浮かべながら答えた。


「そ……その……本当に本気で打ち込んで良いのかと思いまして……あの……セツナさんって見た目は子供ですし……」


 どうやら、子供の姿をした私に向かって、全力を出すことをためらっているらしい。気持ちが分からなくはないが、全く失礼な話しだ。


 確かに見た目は子供となり、刀を振るうことも出来ないくらい非力だが、新人の力量を見極める程度の稽古であれば問題ない。恐らく、このときの私はムッとした顔をしていただろう。


「力では女性にも勝てないかもしれないが、剣技なら負けんぞ!」


と話すと同時に、全力で地面を蹴って横薙ぎを仕掛けた。ディアは動揺しつつも後ろに下がり攻撃を避けた。そして瞬間的に、今度は前に踏み込み突きを繰り出す。私はディアの突きを木刀の峰で滑らせるように軌道を変え、ディアの懐に潜り込み、木刀の刃筋を首筋にピタリと当てた。


◆◆◆◆


 その後、ディアと何度か剣を交えた。


 大方の実力を把握出来たため「休憩にしよう」と提案したところ、ディアは肩で息をしながら「ありがとうございました~」と言って、ぺたりと座り込むみ、手足を大きく伸ばし芝生の上に寝っ転がった。


 胸を上下させながら息を整えた後、あぐらをかいて座る私の方に顔だけを向けて質問をした。


「セツナさんは、どうして私の攻撃を全て捌くことが出来たんですか?沢山攻撃したのに――」


「何となく、ディアの攻撃が分かるんだ。」


 ディアはまるで”理解が出来ない”と言いたげな顔でキョトンとコチラを見返す。私は改めて説明をすることとした。

 

「ディアの剣は、基礎がしっかりしていて型も美しい。恐らく何年も修行をしてきたんだろう。しかし、基本に忠実だからこそ、次にどのような攻撃を行うか何となく分かる。教科書通りの攻撃であれば、教科書通りに受ければ良い。」


「でも、受けるにも力が必要ですよね。セツナ先輩よりも私のほうが力があるなら、攻撃を受けきるのって難しくないですか?」


「それは色々な受け方があるからな。」


 ただ、「ディアが型通りの攻撃を行ってしまうこと」そして「私が全ての攻撃を受けきることが出来たこと」は表面的な問題であり、根本的な問題は更に根深い様に感じる。


 しかし、それは本人が自分で気が付かなければ一生身につかない問題だろう……今、伝えるべきか……等と考えていると、ディアはおもむろに立ち上がり、


「セツナさんも立ち上がって、手の平をパーにして前に突き出してください。」


と言う。


 ディアはニヤニヤしながら何かを期待する様な表情でコチラを見るので、嫌な予感を感じながらも渋々、言われた通り立ち上がり手を開いて前に突き出す。


 ディアは私の手の平に自分の手の平を合わせ、指と指を絡めたかと思うと急に体重をかけて手を押してきた。


 私も負けじと押し返すが、ディアのほうが若干力が強くバランスを崩しそうになる。何とか踏ん張ろうと左足を一歩後ろに下げて耐えるが、ディアは私を更に押し込もうと、胸がぶつかるくらい体を寄せてきた。


 ついにはディアの力に耐えきれなくなり、二人でもつれ合うように芝生の上に崩れ落ちた。


 倒れた衝撃でディアは私の上に馬乗りになり、長いまつげの一本一本が目視出来る程、顔が近づく。女子用の清涼剤の爽やかな香りが鼻孔を突く。


 風が木々をそよぐ音と、乱れたディアの吐息だけが響き渡る中、彼女はニヤリと笑った。


「もう動けませんよ。覚悟して下さいね。」

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