第12話:勇者の同属4

◆◆◆◆


「よし、じゃあ作戦を説明するぞ!」


 ギルド内のバックヤード中央に設置されているスタンディングを”バン”と叩きながらルークが話す。


「恐らく元々砦に住み着いていた盗賊達は皆、アルバートの味方だと考えて良いだろう。そのため、俺とセツナを中心に、ギルド職員計5名で砦へ向かう。」


 ルークは砦へ突入する残りの3名のメンバの名前を次々に読み上げる。読み上げられたメンバは全て戦争を体験した元騎士団だ。


「……以上!今回はあくまで、アルバートと話をするための突入だ。攻城戦ではない。そのため、もし戦術兵器との戦闘になった場合、逃げ切ることを優先的に考えて欲しい。なお、これは予想だが、アルバートはこちらの動きを察知しているはずだ。冒険者に紛れて盗賊達を紛れ込ませたり、冒険者に催眠魔法をかけ内部の情報を聞き出したり――向こうからすれば、こちらの情報を探る方法などいくらでもあるからな。それに対し、地理的な問題により、こちらから向こうの情報を探ることは難しい。そこで、この張り紙を出した。」


 そう言って一枚の張り紙を机の上に広げた。


++++++++++


クエスト名:

【急募】城門外東に約20kmの砦を拠点とする盗賊達の説得


概要:

城門から東に約20kmの地点に建造された砦を拠点とする盗賊達を武力を用いずに会話にて説得すること。


定員:5名

受領状況:受領済み

     <リーダー>

      ルーク=エドワーズ

     <副リーダー>

      セツナ=タツミヤ


備考:明日クエストを開始する。


++++++++++


「これで、アルバートのやつに、こちらが戦う意志が無い事を伝えられただろう。まあ、向こうが、これを見ても我々を殺す気満々だった時点でアウトなんだがな!」


 これを聞いた瞬間、今回の作戦に参加するメンバの一人が手を上げた。


「アルバートは明らかに、ルークとセツナをおびき寄せるために今回の事件を仕組んでいる。であれば、突入人数やクエストの開始時刻は明かさず、奇襲のような形で砦内に侵入したほうが良いだろう!にも関わらず、この張り紙……これのせいで、戦術兵機が待ち構えていたり、砦の中に様々な罠が仕掛けられたりしたらどうするんだ!もし逃げるにしても、今回は人数的に大型の馬車1台か、小型の馬車2台だろ……逃げているうちに狙い撃ちにされて終わりじゃないか!」


「確かにな……だが、今回はこちらに戦う意志が無いことを伝えることを優先した。向こうにも戦う意志が無いのであれば、それに越したことは無いだろう。しかし、もし、アルバートが我々のことを殺す気であれば、恐らく、罠を仕掛けるよりも戦術兵器を使用してくる可能性が高い。砦内の見取り図を簡単に用意出来ることは相手も知っている。そのため、掛かるか分からない罠を仕掛けるよりも、圧倒的な戦力である戦術兵機を使用した方が確実だ。そして、今回は戦術兵器が待ち構えていた際に逃げ切ることがポイントだ。そのため、各々逃げやすいように、1人1頭の馬を使う。戦術兵器を確認した瞬間に5人が散り散りで逃げ、初めにギルドにたどり着いたものが中央ギルドに報告する。こんな感じでどうだ。」

 

 手を上げたメンバはまだ、反論したげな表情を浮かべていたが渋々と了承した。俺は彼の肩を叩きながら話した。


「この作戦は5名のメンバの内、1~2名が犠牲になることを前提としているように思える。5名が散り散りに逃げても、相手は標的を決めて追ってくるだろう。そのため、奇襲を行うべきだという彼の言い分も分かる。しかし、それでも私はルークの作戦に賛成だ。もし私達の命を狙っているのであれば、戦術兵器と言う絶対戦力がある以上、こんな回りくどいやり方はしない。そのため、明日、戦術兵器と戦闘になることは無いはずだ。」


 そう、もし私の命を狙っているのであればゴブリンの巣を調査したときに、私に対し奇襲を仕掛けることが出来ただろう。


 それに、始業直前もしくは終業直後のギルドを狙えば、ルークを暗殺することも簡単に出来る。ヤツが私達をおびき寄せる理由は他にあるのだろう。


 暫く沈黙が流れた。恐らく皆、今回の作戦について思い思いに考えているのだろう。そんな中、突然、ルークが私の肩に手を回し、


「まあ、色々と思うことはあるだろうが、明日アルバートの野郎に直接聞いてやろうぜ!」


と話した。

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