第11話:勇者の同属3

★★★★


 俺と戦術兵器13号──アイリスの除隊申請が通ったのは、つい1月前のことだ。


 人間と魔族の間で停戦条約が結ばれてから約1年、停戦直後に除隊申請を提出したが、予想通りすんなりと申請が通ることはなかった。


 それどころか、除隊申請を提出した直後、騎士団の上層部には私を抹殺するべきだと言う意見すら挙がったらしい。


 まあ当然と言えば当然だ。私自身が王国騎士団の”闇そのもの”と言っても良い程の多くの機密を握っており、新聞社にでも密告すれば、騎士団のみならず王国自体が諸外国から叩かれるだろう。


 それでも、今、生きているのは戦争が再開された時のためだ。


 人間と魔族の間で結ばれた条約はあくまで”停戦”条約であり、いつ戦争が再開されてもおかしくはない、危ういものなのだ。そのため戦争が再開した場合、私とアイリスは騎士団に連れ戻されることとなるのだろう……。

 

 ★★★★


 俺達がこの砦にたどり着いたのは、脱退してすぐのことだった。


 王国内はどこにいても騎士団により監視される。しかし、他国への渡航は制限されているため出来ない。


 そこで王国内ではあるが監視の目が届きにくいこの砦に目をつけたのだ。


 王国の城門から約20kmの高台に建築されており周りに建物もない。


 更に、元々魔族達が攻めてきた時の防衛拠点の1つであるため、外から中の様子を伺いにく、逆に中からは外の状況を見渡せる。


 騎士団の目を掻い潜るには最適の環境だ。


 すでに先客はいたが、多少武力を交えた説得を行ったところ、俺達のことを快く受け入れてくれた。彼らは彼らで大変なようだ……。


 というのも、彼らは元騎士団員や元傭兵で、戦争がこの先も続くことを前提に生きてきたとのことだ。騎士団を脱退させられ、警備隊やギルドへの就職も出来なかった彼らは仕方なく盗賊行為を行っているらしい。


 俺は盗賊達と交渉し、崖の下に巣を作っているゴブリン達を生け捕りにする等、実験の助手をしてもらうこととした。報酬は動物たちの捕え方と捌き方を教えること。学生時代、実験用の魔物を捕えるために学んだ技術がこんな所で役に立つとは……。


★★★★


 俺の部屋の扉を3回ノックする音が聞こえた。資料をパタリと閉じ「入れ」と短く答えると、ゆっくりと扉が開く。


 それと同時に換気のされていない室内に空気が流れ込み、室内を薄暗く照らすランタンの明かりがゆらゆらと揺れた。


 扉を開けた彼女は、濡れた栗毛色のロングヘアを揺らし、扉の隙間から身体を滑り込ませるように部屋へと入り、ガチャリと後ろ手で扉を閉める。


 室内へと入った彼女の服装は、薄ピンク色のシースルーで生地が非常に薄い。布越しでありながら、彼女の肌の色がハッキリと分かる程透けており、ほぼ裸同然……ある意味では裸よりも恥ずかしい格好だろう。


 大切な部分を隠すために、片腕で自身の身体を抱きしめるように胸を抱え、もう片手で下半身を隠している。


 しかし、彼女の能満なボディラインが災いして、少しでも気を抜くと今にも零れ落ちそうだ。特に胸はあまりにも豊満すぎて、腕で胸を隠すというよりも豊満な胸に腕が埋まっているような状態だ。


 そして、雪のように色白な彼女の首には、魔法陣が描かれた真っ赤な首輪が付けられている。


 彼女は大事な所が零れないよう、ゆっくりと歩き俺の前で立ち止まると、目を伏せながら何かを言いたげにモジモジと身体を揺らした。


 「何か用か」と聞くと、彼女はゆっくりと口を開いた。


「今日も、しないと……ダメ……ですよね……。」


「この砦に女性は君しかいない。他に適任者がいるのかい。仕方ないがよろしく頼むよ。」


「分かりました……。先にお風呂を済ませましたので……部屋で準備しています……。」


 そう答えると、彼女は豊満な胸と下半身を隠しながらゆっくりと扉へと向かい部屋を出た。


 彼女は先日、ゴブリンが拐って来た女だ。名前はミラ=ハート。


 ゴブリンの美的センスは我々人間と変わらないようで、多くの娼婦達が闊歩する赤線内で、容姿も身体付きも上物の女性に目を付けた。


 まあ、今回は偶然である可能性もある為、何回かサンプルを取る必要はあるが……。


 ミラが部屋から出るのを見届けると、手のひらにじっとりとかいた汗を袖で拭い、ため息を吐きながら上を向いた。

 

★★★★


 昨日、崖下にあるゴブリンの巣をギルド職員達が調査している姿を確認した。深緑色のギルド服――東ギルドの職員だろう。


 俺は「(予定通り)」と内心胸を撫で下ろした。


 元騎士団精鋭部隊の隊長である、ルーク=エドワーズそして、元騎士団精鋭部隊の隊員で魔王を封印した勇者である、セツナ=タツミヤ――彼らのいる部隊でなければ意味がないのだ。


 彼らは優秀だ。既に今回の事件の犯人が俺であることを突き止めているだろう。そして明日にはこの砦に攻め込んでくる……。


 そう考え、冒険者に扮した盗賊を何人か送り込んだ。「(何でも良いのでやつらの動向を掴めれば)」と思ったのだが、盗賊達は不思議な張り紙を見つけたらしい……。


「(何はともあれ、ようやく俺の願いが叶う……。)」


 そう思いながら席を立ちランタンの炎を消し資料を破いた。

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