第10話:勇者の同属2

【注意:このエピソードでは、話の視点が切り替わります】

◆◆◆◆:セツナ=タツミヤ視点

★★★★:????視点



★★★★


 一般的に人間に比べて魔族の方がマナの保有量が多い。そのため、魔術が戦争の主役へと移り変わるにつれ、人間軍は苦戦を強いられていた。


 このままでは敗戦必死だと考えた騎士団の幹部達は”歩兵を強化して、高等魔法(※)を使う魔術師達に対抗する研究が行われた。

※瞬時に大勢の敵を掃討できる魔法――”エクスプロージョン”や”ブラストレイン”等が含まれる。


 通常であれば高等魔法の飛び交う戦場の中で、魔術師達に向かっていくことは心理的に不可能であり、一瞬でも足がすくめばすぐに殺されてしまう。

 

 しかし、騎士団の幹部達は”医療と魔術で身体を強化し、薬品と催眠魔法により恐怖と痛みを感じない兵士”を作り上げれば問題は解決されるとの方針であり、”医学”、”薬学”、”魔術(催眠魔法)”の知識のある私、アルバート=ウィリストンが主幹に抜擢されたのだ。

 

 当初、作戦の素体はゴブリンやオークといった魔物を使用していた。


 俺の催眠魔法は魔物にも効果があり想定を超える成果を上げていた。しかし、運用を続けると致命的な欠陥が判明した。それは、現場の指揮官が、命令を少しでも間違えてしまうと暴走してしまうのだ。


 理由は、催眠による命令は絶対だが、命令外のことは魔物自身の考えによる行動を行ってしまうためだ。


 つまり極端な話しだが「敵を倒せ」とだけ命令した場合、敵とは何かは魔物自身が判断をするため、魔物の敵である異種族――つまり人間や魔族を無差別に攻撃するのだ。

 

 そのため、程なくして素体は人間に変えられた。対象は赤線内に住む、戸籍の無い8歳から12歳の少女達――彼女達を騎士団が買い素体にしたのだ。相手が少女であれば心理的に攻撃をしにくく、さらに奇襲も仕掛けやすい。


 赤線内では子供を育てる余裕のない人々がたくさんおり素体を容易に準備できることも好都合だった――反吐が出る考えだ。


 彼女達は人間として扱われず「戦術兵器」や「特殊兵器」として番号で呼ばれていた。こちらとしては、それは都合が良かった。名前をつけると愛着が湧く――。

 

 戦場で少女の姿を見たという報告がチラホラ上がっているそうだが上層部が握り潰しているようだ。まあ、こんな非人道的なことが外部に漏れたら洒落にならないだろう。


 裏を返せば奴らが上にいる限り、これからも犠牲となる少女は増えることとなる……。


 「俺が全て終わらせてやる……。」


 ランタンの火が消え、俺の声も暗闇へと消えた。


◆◆◆◆


 「ということで、今回ゴブリンに催眠魔法を掛け女性をさらったのは、元騎士団のアルバート=ウィリストンである可能性が高い。しかも、アルバートは、少女を引き連れて、ゴブリンの巣の崖上にある砦で山賊たちを従えているとの情報がありました。これはもうアルバートさんでほぼ確定ですね。ということで、もし奴の戦術兵器とバトルする事になったら、もうお終いで~す。皆で頑張って戦いましょ~う。」


 ルークは説明を始めた頃の緊張感が嘘のように、まるで”なるようになれ”とでも言わんばかりの適当な感じで話を締めた。


 周りがざわざわとする中、すっとディアが手を挙げる。

 

「アルバートさんが凄い催眠術の使い手だという事はわかりました。でも、どうやって女性を拐ったんでしょうか。あと、アルバートさんは何故女性を拐ったんでしょうか。」


「これは推測だが……。まず、催眠魔法をかけたゴブリンを馬車に乗せ城門まで移動する。中に乗るゴブリン達が大男に見える催眠魔法を、門番達にかける。赤線内へ侵入したらゴブリン達に女を拐わせて馬車に連れ込み撤退する。こんな感じなら、ゴブリンに女を拐わせるなど造作もないだろう。やつの目的は分からんが、まあ、色々と溜まっていたんじゃねえか? アイツも男だしな……もしくは、俺とかセツナのことをおびき寄せるため……とか……?」


「門番さんも催眠魔法で欺くなんて……そんなに簡単に催眠をかけることが出来るんですか?」


「まあ、やつの催眠魔法も万能ではない。相手を意のままに操るためには、魔法陣を直接対象の体に掘り、魔力を送り込む必要がある。相手を幻惑するにも、魔法陣の書かれた物体を対象に触れさせる必要がある。今回も、通行証の裏に魔法陣が書かれていた。」


「じゃあ、私達の洋服や武器に魔法陣を書かれたり、ポケットの中に魔法陣の書かれた紙を忍び込まされたら……。」


「まあ、アウトだろうな……。」


 暫くの間、沈黙が続いた。


 戦術兵器だけでも強力なのに、アルバートのチートのような能力……正直、今のギルドの戦力では厳しい。それは、ここにいる全員が感じているだろう。せめて、俺が万全なら……。


 ルークは顎に手を当てながら上を見て、ウンウンと唸っていたルークが我々の方を見渡し、沈黙を破るように口を開いた。


「アルバートの事を説得してみるか……」


★★★★


 パーマの掛かった銀髪を掻きむしり、ボロボロの椅子をギシギシと期しませながら、資料に目を通していた。


 資料内容は「魔物に催眠をかけた際の行動特性について。」かつては戦争時、魔物達を催眠魔法で操り戦力強化を図ることを目的とした研究だ。


 しかし、停戦条約が結ばれた今では、実験結果が半分、俺自身の日記が半分の様な資料となっている。


 この実験自体は、馬車で安全に魔物の住処周辺を移動する際に役に立つだろう。それに――魔物達を手懐けることができれば個人レベルでも、大規模な戦力を確保できる。


 そう、騎士団の中隊レベルであれば十分に潰せるくらいの――。

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