第13話:勇者の同属5

◆◆◆◆


 朝からギルド内がピリピリとしている。


 それもそのはずだ。1人で戦局を左右する程の力を持つ戦術兵器と戦闘になる可能性がある。


 もし真正面からの戦闘になった場合、今の戦力ではひとたまりも無いだろう……。


 砦へと向かう5人とも口数少なく、もくもくと準備を進めていると、ギルドの扉が壊れるのでは無いかと思うほどの勢いで開き、大声きな声が響いた。


「ワタクシ様が来ましたわ~!!!!!」


 声の方へと目を向けると、物凄い毛量のブロンド色のドリルヘアーをなびかせて、ワインレッドのドレスを身にまとった女性が腰に手を当てながら立っていた。身長はだいたいディアと同じくらいだろうか。


 ”口を開けて彼女を見るもの”、”隣の人と耳打ちをするもの”、ギルド内にいる面々が様々な反応を見せる中、彼女はギルド全体を見渡して更に大声で叫んだ。


「ルーク――ルーク=エドワーズはいないの!?!?!?!?」


 突然指名を受けたルークは「あ~はいはい……今行きますよ」と、いつも通りの調子で頭を掻きながらバックヤードから出てくる。


 ルークのことを見つけた彼女は、パタパタとルークの方へと駆け寄り。腰を屈めてルークのことを指差しながら、物凄い勢いで話し始める。


「アナタ!!!ワタクシ様が来てあげたのに、出迎えも無しってあんまりではなくて!!!アナタがどうしてもって言うから来てあ・げ・た・の・に!!!!!」


「わりぃ……こっちも立て込んでいてな……今日、同窓会に参加するので色々と準備が必要なんだ。」


「あら、同窓会に参加して殺されるなんてこと無いよう、お気をつけあそばせ~」


 ルークと彼女のやり取りをポカンと見つめていると、彼女は私の視線に気がついたのか、こちらに身体を向けロングスカートの端を軽くつまみ、


「私、フェリシア=ネイト=ローズと申します。南ギルドのギルド長を務めさせて頂いております。親しみを込めてフェリシアとお呼びください。今後とも、どうぞお見知り置きを……。」


と、先程とはまるで別人の様な声色で挨拶を行い深々と頭を下げた。


 その所作の1つ1つが自然体にも関わらず洗練されており、育ちの良さがうかがえる。


 ネイト=ローズ……聞き覚えのある耳心地だと思い、記憶をたどりハッとした。


 ダニエル=ネイト=ローズ――騎士団の幹部。かつて魔王軍幹部を倒した魔法剣士で、彼が軍を率いれば、どんな戦局でもひっくり返すことが出来ると噂される生きた伝説だ。


 その武勲の高さにより、騎士団に所属しながら国王より”ネイト――戦神”の称号を受け、貴族として認められている。


「まさか、ダニエル=ネイト=ローズさんの……でもどうして……。」


と確認をすると、フェリシアは身をかがめ手を口に添えて小声で話した。


「ダニエル=ネイト=ローズは私の父ですわ。よくご存知ですわね。でも、私から名を名乗っておいて申し訳ないのだけれど、あまりそれを口外しないで頂けると嬉しいのですわ。」


 普通であれば、ネイト=ローズ家の名前を知らしめたほうが良いように思えるが……まあ、有名人には有名人なりの事情があるのだろう……。


◆◆◆◆


 砦へと向かう5人の準備が完了すると、ギルド職員全員が受付前に呼び出された。


 全ギルド職員が整列する中、フェリシアが受付前に立ち、職員達の方を向いて大きな声を上げた。


「今日1日、東ギルドの臨時ギルド長を務めるフェリシアですわ~!!!!!ルークギルド長が本日は1日中外出されるので、普段は南ギルドのギルド長を務めているワタクシ様が、今日だけ、こちらのギルドのギルド長を務めますわ~!!!!!普段、ルーク様に言いにくいことでも、ワタクシ様に”どしどし”相談してくださいまし!!!!!」


 ギルド職員達はざわつき始める。それもそのはずだ。今まで何度もルークも休みを取得することはあったが、代理のギルド長など呼んだことが無い。そこでルークが補足を入れた。


「今日は止むを得ない理由で俺はこれから1日中不在となる。しかし、今日に限って大きな仕事が入る可能性があるんだ。なので、南ギルドのギルド長であるフェリシアに来てもらった。まあ、困ったらこいつのことを頼ってくれ。ついでに面倒な仕事はフェリシアに押し付けておいて構わない!」


 フェリシアは口を開けながら、驚愕と怒りに満ちた表情でルークを見る。そんなフェリシアの目線など意に介さないようにルークはその場を後にした――そう、この人は、そういうことを平然とやる奴なんだ……。


 ギルド内のざわめきが収まらない中、俺はルークのもとに駆け寄り確認を行った。


「フェリシアさんは今回のことをどこまで知っているんだ。」


「全部話した。戦術兵器のことも、アルバートのことも――あいつは”ああ”見えて口が堅いし親が生きた伝説だ。騎士団と言えど、無闇に手を出すことは出来ないだろう。」


 そう言いながらギルドの外に出て、これから旅を共にする愛馬達の首をパンパンと叩いた。


◆◆◆◆


「何事も無く着いてしまったな……。」

 

 ルークがポツリと呟いた。


 道中は本当に何事もなく砦へとたどり着いた。


 普段はおしゃべりなルークですら口をつぐみ、敵の奇襲や罠に警戒していたのだが、いつも以上に何もない……。


 逆に不気味さを感じる中、砦の手前の草むらで砦内の見取り図を取り出した。見取り図は全員分用意されており、罠が仕掛けられていそうな所に印をつけている。


 罠を仕掛けられている可能性は低いが、念のため昨日の夜にミーティングを行い、検討を行った。まあその結果、各々が砦内を自分の家のように動き合わることが出来るようになったのだが……。


 「改めて作戦を確認する。基本的には5人がまとまって行動を行う。罠が仕掛けられている可能性のある場所や敵が潜んでいそうな場所は誰か1人が確認を行い、安全が確保されてから残りの者が移動する。そして戦術兵器を見つけた場合、速攻で逃げる。戦術兵器は少女の姿をしているから、すぐに分かるはずだ。いいな!絶対に戦術兵器と戦うなよ!」


 ルークの言葉に全員が頷き、開けっ放しとなっている、禍々しい石造りの門をくぐった。

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