第14話:勇者の同属6

◆◆◆◆


 砦の中に入り暫く探索を進めたが何も無い。罠もなければ盗賊達もいない。恐ろしくなるくらい何も無い……。


 もしこのまま何事もなくアルバートと会話出来ればなどと考えながら、廊下を進み扉に手をかけた。


 この扉の先は大広間だ――罠が仕掛けられている可能性が最も低い場所。


 思いっきり扉を開けると、そこには13人の盗賊達が待ち構えていた。


◆◆◆◆


 大広間の奥には大きな階段があり、階段の上に大きな扉がある。盗賊たちは、その階段の下を囲むように立ちはだかっていた。

 

「悪いが帰ってくれ!俺達はお前らとは戦うつもりはない!しかし、アルバートの元に行かせる訳にもいかない!」


 13人いる内の盗賊の1人が大声で叫んだ。


 盗賊たちは見るからに屈強な男たちばかりで戦術兵機らしき姿は無い。


 それに、全員武器は携えているが木材や鉄パイプばかりで、剣などの一撃で相手を殺すことの出来る武器は持っていない。


 催眠魔法で操られていないか確認を行うため、パーティ内の魔術師に魔力量を測定してもらったが、彼らは自分達の意志でここに立っているようだ。


 みんなが戸惑っている中、俺は盗賊に質問をした。


「お前らに2つ質問がある。1つ目はゴブリンを使い女を拐っただろう。無事であれば彼女を返して貰いたい。もし無事でなければ、この場で全員叩き伏せる。2つ目はアルバートと共にいた少女について聞きたい。彼女は今どこにいる。」


「ゴブリンが拐ってきた女……ああ、ミラのことか!あいつは今、自室で荷物をまとめている。先程までアルバートと揉めていたみたいだが、さっき自室に戻ったようだ。必要であればミラの部屋を教える。もう1つの質問だが、アルバートと共にいた少女……アイリスのことだな……アイリスについては……悪いが答えることは出来ない……。ただ、お前達に悪いようにはしない。俺たち全員が保証する。悪いが一度、帰ってくれ。」


 何やら盗賊たちは、どうしても我々とアルバートを合わせたくないらしい。


 しかし、アイリス――戦術兵機のことは口止めをされているようだ……。


 俺はどうするか尋ねるようにルークを見た。他の3人もルークに注目している。ルークは頭を掻きながら、


「まああれだ。アイリスちゃんのことはアルバート自身から聞くしか無さそうだし、そもそも我々はアルバートと話をするために来たんだ。だから悪いが力ずくでどいてもらおう。」


 そう宣言すると同時に1番近くにいた盗賊を鞘をつけたままの剣で殴り、そのままの勢いでもう1人の盗賊も殴った。


 殴られた2人の盗賊は白目を向きながら気を失っている。


 ルークは再び盗賊達から距離を取ると、鞘をつけたままの剣をくるくると回しながら、


「まあ、殺しはしないさ。ただ暫くの間、伸びていてくれ。」


と言った。


◆◆◆◆


 ルークの攻撃により、乱戦が始まった。


 2人の盗賊を倒したとは言え相手は11人いる。一方、こちらは5人――私とルークを含めた剣士4人と魔術師1人だ。


 今回のパーティで一番強いのはルークだろう。彼は統率力や状況判断力の高さだけではなく、騎士団でもトップクラスの剣腕の持ち主だった。


 だが今回、ルークは魔術師を守りながら5人の盗賊を相手に戦っている。私とルーク以外の2名の剣士は防戦一方で攻撃に転じられないでいた。


 私は対峙している2人の盗賊の隙を突き2人共倒した。


 そして、すぐにルークのサポートに向かうと、ルークは戦闘中にも関わらず俺に耳打ちをした。


「早くアルバートの元に行け。」


 一瞬躊躇したが、ルークは5人の盗賊達の攻撃を捌いている。他の2人の剣士も攻撃は出来ないでいるが、相手からの攻撃を一度も受けていない。そして魔術師は十分な詠唱を終え、すぐに攻撃が出来る状況だ。


 つまり、私がいなくてもこの場を凌ぎ切れる――。


 私は大広間の階段へと全力で駆け出したそれと同時に、他の4人も階段に向かい駆け出す。


 私が階段を駆け上がり扉を開けて中に滑り込むと同時に、ルーク達は階段を通せんぼするように陣形を取り、盗賊達へと叫んだ。


「先程と立場が逆になったな。悪いがあいつはこれから同窓会なんだ。ここを通す訳にはいかないな。」


◆◆◆◆


 扉の中の部屋は窓が締め切られており薄暗く、弱々しいランタンの光だけで照らされていた。


 広さは20畳程度で、奥に大きな机と資料の山が見える。


 そして、その机の奥に小柄な男性が座っていた。


 髪は銀色の短髪で少しパーマ掛かっている。銀縁の眼鏡を掛けており、かなり知的に見える。年齢は16~17歳くらいだろうか。


「君がアルバート=ウィリストンか?」


 私が尋ねると「よっこいしょ」と爺臭い掛け声を上げながら立ち上がり、私の目の前に来た。近くで見ると顔も小さく、まるで少女のように見える。


「いかにも、私がアルバート=ウィリストン。ミラ=ハートを拐い、君達をここに誘き寄せた犯人だ。ギルドの張り紙のこと、盗賊達から聞いたよ。何か俺に聞きたいことがあるのだろう。何でも答えるから言ってみたまえセツナ=タツミヤ君。」


「ゴブリンに拐わせた女性は無事か?」


「無事だよ。まあ、この砦には粗暴な男しかいないので、彼女にはかなり無茶をしてもらったがね。後で、盗賊達に彼女の部屋に案内させよう。」


 つまり、彼女はここにいる14人の男達に……無事ではないということか……。


「ゲスめ……」


「君が何を考えているかは分からないが……酷い言われようだ。他に聞きたいことがあるだろう。」


「戦術兵機はどこにいる?」


 私が質問をした瞬間、それまで少女のようだった顔を邪悪に歪めて口を開いた。


「東ギルドさ。」

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